5話
屋根裏部屋を貸してもらって、私は曲を一から考え直した。
まず曲のテーマを必死になって考えた。バンドメンバー全員の色が出るもの…。前に考えた時とは違い、すごく鮮明に浮かんできているのは私の気のせいなのだろうか。でも確実に言えることは、前よりも楽しいってことだ。
その夜、成平くんがいつのまにか屋根裏部屋に来ていた。その手には、デミグラスソースがかかった美味しそうなオムライスがあった。
「来てたなら声かけてくれて全然いいのに…。」
待たせていたのかもしれないと思うととてつもなく申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「でもすごい集中してたからさ。はい、これ今日の夕飯だから!これ食べながら俺と話しつつ休憩しよっ!」
お腹はそこまで空いていないからあとでで大丈夫だよって思ったけれど、成平くんに聞きたいことがあったからお言葉に甘えさせてもらうことにした。
「あのさ、私が来た日にボーカルやらないかってきいてくれたじゃん。その前にお兄さんとなにを話し合っていたの?」
今日咲綾の話を聞いた限り、あの時すでに誘うことは決まっていたように思えた。なら一体なにを話し合っていたのかきになっていた。成平くんは一瞬目を大きく開いてそのあと苦笑いになった。
「あー、えっとね…。ボーカルって見た目も結構大事だって言われるんだよね。兄さ、かわいいとかそうじゃないとか厳しい方だからその意見をもらってたの…。」
えっと、その結果は…、よくても悪くても反応に困りそうだからやっぱり聞かないでおこう。
お皿にはもうソースが少しだけついている状態になったので下に持っていった。きっと疲れたのだろう、成平くんは見た目には似合わないようなかわいらしい寝息をたてていた。この可愛らしい姿だってあと少しで見れなくなってしまうと思うと寂しさに飲み込まれてしまう。少しだけ静かになった蝉の声がそれを裏付けるかのようだった。
shooting starのために作った曲ができた時は、ちょうどお昼ご飯の時間だった。満足いく歌詞をカバンの中に詰めて、みんなの元へと駆け出していった。
「10分遅刻!本当にきみはさ、やる気ってものはあるんですかぁ??」
少し小馬鹿にしたように話しかける孝太君に本気で「ありますっ!」って返したら、言い出した孝太くんまで笑いだしてしまってそれがまたおかしくて、私も笑顔になってしまった。この日からのバンド練習はありえないくらいにうまくいった。もちろん、歌詞のことで話して直したり、歌のこと・楽器のことなど沢山ぶつかった。でも決してみんながばらばらの方向を向くことだけはなかった。それが何より嬉しかった。時が経てば経つほどもっと一緒にいたいという欲が膨らむけれども時間は待ってはくれず、とうとう明日は本番であり、みんなと離れてしまう前日であった。
最後の練習中、マイクを握る私の視界がぼやけた。みんなが駆け寄って来てくれた瞬間に私の中の何かキャップのようなものがとれたような感覚に襲われた。
「最初にここに来た時は、こんなにも大切な人が増えるなんてちっとも思ってなかった。しかも、大切な人が増えれば増えるほどこんなにも離れることが怖くなってしまうなんて…。」
心の底からあふれ出した言葉だった。弱さを見せることは好きではなかったけれど、自分の中に隠しきれないことはわかってはいた。でもつらすぎたのだ。
「……それは俺らだってそうだよ。みんな優美音と離れたくはないんだよ。でも、それでも離れてしまうならどれだけかかったとしても会いにいくから!みんないつだって繋がっているから!!」
成平くんのその言葉は今の私の唯一の支えとなってくれた。急に鳴き出したミンミンゼミの声が、これから一歩前へと進んでいく私たちのことを精一杯に応援していた。