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shooting star  作者: ゆぅ
4/6

4話

「咲綾、昔引っ越しちゃったんだよね…。親の事情で。彼女転勤家族だったからさ。途中で辞めるのはやっぱり悔しいけど、咲綾のいないバンド活動なんて考えられなかったから私たちも解散したの。でもそれから数日後に成平が優美音ちゃんを連れて来たんだ。」

そういうことだったのか。

そうだ。

もとはといえば、私が少しでもやりたいと思ったのが原因でもある。後悔だけがつのる。

私の気持ちを見透かしたように奏ちゃんは続ける。

「なんどもいうけどさ、別に優美音ちゃんが悪いわけではないの。ただ成平が何も説明しないことが私たちにもやもやを残してるの。でも、私もちゃんと直接聞かなかった。今ではそれも悪かったって思ってる。だから、これからは私も聞く。成平が説明するまで、聞き続ける。」

奏さんはほんとに強いと思う。私も少しでも強くなりたい。だから答えた。

「私もこれからは逃げないよ。なにがあったとしても。」

奏さんはなにか満足げに微笑むと行こう!と言った。だから、私もそれに笑顔で返事をした。


さっきいた場所に戻ると私たち以外のみんなもいた。成平くんに集められたらしい。

「まずは今まで黙っていてごめん。優美音を入れたのには訳があるんだ。今さらだけど聞いてほしい。優美音を入れた理由は…。」

「私がお願いしたの。」

みんなが一斉に声のした方に振り返る。そこにいたのはふわふわした髪、細い手足、お人形さんのような可愛らしい顔だちのいわゆる美少女だった。メンバーの一人がぽつりと、でもはっきりと名前をつぶやいた。

咲綾。

この人が例の咲綾さんなのだろうか?でも、彼女がお願いしたって??

「ただいま!っていっても、すぐまた帰るんだけどね〜。成平に相談されてついつい帰ってきちゃった!とりあえず、優美音を選んだのはわたしだから。」

話の展開が急すぎて、成平くんを除いて誰一人として理解していなかった。ただ、咲綾さんの声はなぜか気持ちが落ち着いた。それがなぜだかはわからないけれど。

すると、咲綾さんは急に真面目な顔になって話を続けた。

「えっと、みんなしっかり聞いてね。優美音をいれた理由、それは優美音はみんなを笑顔にできる歌声を持ってるって思っているから。私は小学校二年生の時に初めて転校が決まって公園で泣いてばかりいてさ。その時に声をかけてきたのが優美音だった。ただの帰省で来ていただけだったから私の顔すら知らないのに『泣いてばかりじゃつまらないよ?じゃあ特別に笑顔の魔法をかけてあげるね!』っていったの。そしたらいきなりアニメの曲を歌い出してさ!突然すぎてもう笑うしかなかったの笑でも、その歌は優しく頭を撫でてくれるような、そんなあたたかさを持ってた。その後に『優美音っ』って近所の坂本のおばさんに呼ばれてたから名前だけわかった。そしてこの前の引越しでみつけたの。私の大好きな声。だから優美音のお母さんに頼みこんで優美音をこっちに連れてきた!」

その頃の私が歌ったのはただの親切のつもりだったのだろう。ただその歌が誰かの心に残っていてくれた。その事実だけで充分だった。その事実に笑顔にさせられた。もう他人の目はどうだっていい。たとえ先が闇でも進まなくてはいけないんだ。

「あの、私shooting startで歌いたい!みんなに満足してもらえるように歌も歌詞も頑張るから、どうかお願いします…!」

これが今の私にできる精一杯のお願いの言葉だった。長い間沈黙が続いた。やはり認めてもらえないのだろうかという恐怖が私の心を満たしていく。重い静寂を断ち切ったのは意外にも孝太くんだった。

「いいんじゃないの?ただ俺たちだって本気でやってる訳だし、あんたが書いた歌詞が嫌だったら何回だって嫌だって言うし、声が合わなかったら何時間だって練習させる。わかった?」

それでもいい。認めてもらえるまで時間がかかっても頑張ればいいのだ。

「まあ練習には俺も何時間だって付き合うつもりだけど…。」

そのぶっきらぼうだが、あたたかい言葉につい涙が溢れそうになった。

「よし!じゃあ、明日からも頑張ろうな!」

成平くんのその一言でいざこざが全て終わり、全員解散となった。みんなが帰り、自分も戻ろうと思ったら咲綾さんに引きとめられた。

「優美音、ありがとう!やっぱり優美音は本当に魔法使いなんだね!昔は魔法使いの見習いだったみたいだけど…笑」

この言葉を聞いてようやくはっきりと思い出した。あの時の、涙を流しているのに光を持っている事がしっかりわかる女の子が言った台詞

『優美音、ありがとぉ!本当に魔法使いなんだねぇ!あのさ、頑張れば咲綾もその魔法使えるようになるの?』

その時その子にかけた私の言葉が

『まだ私も見習い魔法使いだから、本物の魔法使いになれるように一緒に頑張ろう!』

だったのだ。彼女は本当に覚えていてくれたのだ。咲綾さんが駅に向かって走るのを見送りながら私は心の中で呟いた。

(咲綾、ありがとう!)

明日からもっと頑張らなきゃ!

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