3話
次の練習日に私は新しい曲をみんなに聞いてもらう事で頭の中がいっぱいだった。しかし正直、曲なんて作ったことはほとんどないためいい感想ばかりではないという不安が大きいというのは決して否めなかった。
全員が集合したあと、曲を聞いてもらうことにした。ピアノがなく音当てもしていないため、自分で歌うことになる。歌が上手い方ではないと思うが、それでも想いだけでも伝わるように精一杯歌った。そのつもりだった。
歌い終わり、真っ先に感想をくれたのはやはり成平くんだった。
「いいじゃん!優美音の透った声にもあっててすごくいいと思う!みんなはどうかな?」
そう成平くんがいうとみんなも賛同してくれた。一名を除いては。
「なにを言いたいのかわかんない。バンドっぽくないし。なにより、あんたの声が俺らと合わないと思う。」
そう冷たい口調で言い放った。その方向にいたのはキーボードの霜月孝太くんだった。最初に会った日もメンバーの中では一番あっさりしていたが、その時とは明らかに目が違った。まるで感情がないかのようだ。
「孝太、そんな事言う必要ないじゃんか!今のは絶対おかしい!!」
成平くんが自分のことのように怒って、初めて自分が相当傷ついていることに気がついた。みんなの事を考えながら作った曲…。それは私の中で居座ってみんなの所へは行かなかったのか……。
「ごめんなさい。」
自分から出た声とは思えないくらい暗くてか弱い声だった。優美音のせいじゃないって励ましてくれる声もお世辞にしか聞こえなくなって、辛くなって、そんな自分をこれ以上みんなに見せたくなくて。
ーーー逃げたーーー
優美音が走り去ってしまい、孝太以外は全員騒然としてしまった。でも、孝太だけは違った。当たり前だとでも言うようだ。でも俺の方を見るとなにかを思い出したかのように、いきなり冷たい目に戻った。今までこんな目見たこともなかったのにな…。
「成平、ちょっと話があるからあとでうちに来てくれね?」
軽い口調の奥に強い気持ちが隠れていることはさすがの俺にもわかった。
「了解。」
「ほんとに来てくれたんだ〜」
ふざけた口調で孝太はおどけてみせた。それは以前よくみた子供っぽい無邪気そうな笑顔だ。いつも好きだったその笑顔が今は嫌に感じる。
「話ってなんなの…。」
嫌な予感だけしかしない。孝太とはあの一件があってからあまり関係が良くないからな。
そして、嫌な予感は的中した。
「なんであの女選んだの?て言うか、まだバンド続けていくの?」
「本当にあの曲いいと思ってるの?」
「ボーカルがあれなら俺は参加しないよ。」
散々言われて、苛立ちが募る。こんなつもりで彼女を誘ったわけではないのに……。ただ、これも意見なのだ。ただのわがままでないことは、今まで一緒にやって来たからわかる。だからこそ、しっかり伝えなければいけない。
「彼女を選んだのには訳があるんだ。実はさ………。」
逃げたあと、この前知った公園のブランコに1人で座った。ずっと1人でいるつもりだったのに、いつの間にか隣には心配そうな顔をした奏さんがいた。
「別に優美音ちゃんが悪い訳じゃないからね。」
悪い訳じゃないと言ってもらっても、やっぱり沈んだ気持ちは消えない。その気持ちを見透かしたかのように奏さんは続けた。
「実は、前にもう1人バンドメンバーがいたんだ。その子はボーカルをやってたの。咲綾っていう名前なの。咲綾は別に特別歌が上手いっていう訳ではないんだけど何か惹かれるものがあるんだ。可愛いし、性格もすごくいいし、私の憧れの子でもあったの。」
この奏さんが憧れるなんて、すごいな。それにしても咲綾さん…どこかで聞いたような名前…。でもいつだかは思い出せない。
「すごい子だったんだね…。」
ポツリと呟いた。奏さんは頷いて続けた。
「……でも咲綾は急にバンドに参加できなくなったんだ。」
えっ?!
どうしてそんなすごい子が…。