六日目 お姉ちゃんと妹
本日二度目の投稿になります!視点は長谷川君から六華へとチェンジして、お送りしていきます。
それでは、どうぞ!
紗耶香と居たカフェから徒歩15分のところにある新築マンションの6階、そこが私のマイホーム。今までは両親と一緒に隣町に暮らしていたけれど、就職してからは独立して、一人と一匹だ。一匹っていうのは、ゴールデンレトリバーの『画竜点睛』。四字熟語だけど、これも立派な彼の名前だ。ちょっとどこか抜けてて、でも優しい彼にはピッタリだと思ったのだ。
「がりょう?ただいま~」
鍵を開け、中へと入る。腕に抱いた子猫も落とさないように、気を付けながら。
ドタバタと必死にこちらへ駆けてくる音、動物特有の荒い息遣い、それらが段々と大きくなる。その元気な音に口角が自然と上がる私と、驚いて声も出ない子猫。私は落ち着かせるためにそっと優しくその背を撫でる。
抱きついてくるのを今か今かと待ちわびていたが、それを阻止する声が掛かる。
「がりょう、待て。...お帰り、お姉ちゃん。」
画竜点睛と一緒にやって来たのは、隣町で両親と暮らしているはずの6つ下の妹、七瀬だった。私より少し低い身長、私の黒髪とは違う飴色のふわふわとした長髪、真っ黒いセーラー服。肌を見せることを嫌う彼女は黒いストッキングを履いている。仁王立ちして待ち構えているところを見ると、私の帰りをずっと待っていたようだが、ハッキリ言って私はこの子の来訪を、全く知らない。
「...どうしたのよナナ?まぁーた、お母さんかお父さんと喧嘩でもしたの?」
靴を脱ぎながら子猫を妹へと渡す。「何この子。」と言いつつも優しく抱きなおす妹も、私と同じく動物好きだ。
「違うわよ。お母さんがこの間のくじ引きで『世界一周旅行ペアチケット』を当てちゃったのよ。それで、『お父さんと夫婦水入らずで行ってくるから』って。私は今年受験生だし一緒に行けないから、じゃ、どうせならお姉ちゃんとこ行っとこ、と思って。来ちゃった。」
「いや、『来ちゃった』じゃないから。」
遠慮のない笑顔を前に、重くため息をつく。子猫はというと、早速妹とその横にいた大型犬が面倒を見始めた。
「この子どうしたの?...まさか、ここで飼うつもりじゃないわよね?」
険しい顔をして迫る七瀬に若干気圧されつつも、飼うという意志は変えない。
「...名前はもう決めているよ?『勇往邁進』!女の子だから、ユウちゃんね!」
「そういう問題じゃないでしょ!?って、そのネーミングセンスどうにかならない訳!?」
勇往邁進、勇往は、勇んで前進すること。邁進は、恐れることなく突き進むこと。意味としては、困難をものともしないで、ひたすら突き進むことだ。
「...この子は、ずっと独りで小さな段ボール箱の中に居たんだ。だからこそ、孤独の恐ろしさをよく知っている。そして、その苦しさは今、私達が救った...つもりになってる、私はね。だから、この子はここで、私達と一緒に成長してほしいなって意味を込めて名付けました!」
結構真面目に、真剣に考えたのだ、帰り道に。だからこそ、これでネーミングセンスに文句は言われまい。
「...がりょうの時は、『どこか抜けてるから』っていう単純なものだったのに、随分とこの猫に思い入れがあるのね。...まぁ、良いわ。その代り、私もこの子の面倒見るから。」
一応許可は貰ったけれど、その上から目線のセリフに苛立ちを覚えた私は、「ナナの世話は私一切しないからね?」と付け加え、夕飯の支度をすべく、キッチンへと向かったのだった。
新たに妹と大型犬、そして子猫が加わりました!六華さんのネーミングセンスは作者のネーミングセンスでもあるので、まぁ、作中で作者自身が七瀬さんにダメだしを食らっているわけですが、そこは軽く目を瞑ってください。
次回の投稿をお楽しみに!