三日目 編集さんと王子様
投稿遅くなりすみません。これからはほぼ毎日投稿していきたいと思います。
それでは、前回の続きからどうぞ!
「その御友人は、どうして呉橋先生の絶版本をご存じだったのですか?」
紗耶香の言葉にハッと意識を戻す。確かにそれは私も気になる。よっぽどコアな人か、それとも活字中毒者なのか...。
「倉敷は覚えているかな?カズ...白鳥 和真、高校時代の俺の友人でさ、元図書委員長の...。」
白鳥 和真...。自身も、また彼の周りに集まる人達もスポーツマンだった長谷川君にしては、珍しい友人の内の一人だったため、うっすらとは記憶している。白鳥君は、毎年主席の優等生。静かな空間を好み、よく図書室で本を読んでいた。テスト勉強をするために長谷川君が図書室を訪れたことで、二人は仲良くなったんだと、長谷川君は続けた。
「『図書室の王子様』っていう異名で有名だった人だよね?でも、彼が活字中毒者だなんて、聞いたことないよ?」
私はカフェオレの入ったカップを両手で持ち、首を傾げる。白鳥君は、ただ静かな場所にいることが好きだっただけで、図書室に居ても、本を手にすることは一度もなかったと聞いている。だからこそ、彼が読書をしている様子を想像することは容易ではない。
「図書室にある本は、元々中学にあったものが多かったから、読む気になれなかったんだって。それに、彼は活字中毒者っていうわけじゃなくて、純粋に本が好きなんだってさ。」
私達の居た高校の図書室は、元々他の学校のそれよりも圧倒的に小さく、本の数も少なかったため、利用者は必然的に少なかった。だから、彼は新しい本を読もうにも、本が無さ過ぎて読めなかったのだ。
「でも、カズが『図書室の王子様』って呼ばれ出してから、女子生徒の図書室利用者数は、過去最高になったって、司書の先生喜んでたよ。」
呆れつつも嬉しそうに語る長谷川君。それはそれでどうなんだろう?白鳥君にとっては、読みたい本が無い苦痛に加えて、多くの女子生徒の出現で図書室は静かではなくなったのだ。当然、そこを離れたがっても仕方ないと私は思うけど...?
「そこのところはカズもしっかりしてるからね。『静かにしないと一生学校なんか来るか』って怒鳴ったらすぐ静かになったってさ。」
...それは確かに大人しくなるよ。流石だね。
「それで、話は戻るのですが...。」
あ、しまった。紗耶香の質問から脱線してた。長谷川君も『しまった!』って顔してる。
「カズの父親が出版社の人だったみたいで、父親から貰ったと言ってましたよ。...『絶版にはなったが、そうするには惜しい作品だった』って言ってたみたいで...。」
それは初耳だ。白鳥君のお父さんが出版関係のお仕事をしていたこともそうだし、何より、私の黒歴史を『惜しい』とまで言ってくれたことにも、驚きを隠せない。目の前の紗耶香も、私と同じ気持ちだろう。僅かに目を見開いているのがレンズ越しにでも分かる。絶版にしようと言い出したのは、他ならぬ紗耶香だったのだから。
「...その理由は、聞かれましたか?」
紗耶香は少し眉間に皺を寄せ、目を伏せることで、心を落ち着かせているようだった。そして、静かに聞いた。その様子に何かを察した長谷川君は、しかし首を横に振った。
「...いえ。でも、この二作品は確かに、絶版にするには勿体無かったかなって、俺個人も思いました。...って、俺はそんなに本とか読まないんですけどね。でも、凄く面白かったように記憶しています。」
そうハッキリと言い切った長谷川君を前に、紗耶香は泣きそうな顔をしていた。
ちょっとシリアスな展開になりそうですが、この作品はほのぼのさせたいので、あまり長引かせたくないなぁ、と個人的に思っております。
そして、お知らせなのですが、TSUTAYA×リンダパブリッシャーズ 第1回 WEB投稿小説大賞 Bコースの方に、このたびこの作品を応募することに致しました!何とか募集要件を満たせるよう頑張ります。どうぞよろしくお願いいたします。