幼女ジャングルの王者プリムラちゃん!
私は美柱庵天莉凜翠、十二歳よ。
えっ、どこまでが名字で、どこからが名前かわからないって?おバカさんね。名前が天莉凜翠よ。アマリリス。長過ぎるならリリスって呼んでね。
ところで、私の職業は少女野性動物保護官なの。えっ、義務教育はどうしたのかって? おバカさんね。私は天才少女だから、そんなもの、とっくに終わらせたわ。今は大学に通いながら、野性動物の保護をしているのよ。
最近、密猟をしている悪い奴等がいるみたいなの。でも、そんな奴等、私の二丁拳銃で撃ち抜いちゃうんだから。
そんなわけで、ここ、アフリカの野性動物保護エリアにやって来たわ。えっ、アフリカだけじゃ漠然とし過ぎているって? うるさいわね。細かい事言う人は嫌いよ。ええとね、キリマンジャロの見える所。大体そこら辺と思いなさい。
「もうすぐ象の生息地よ。充分警戒して。」
オク教授(二十七歳)が注意してくれたわ。美人でスタイルも良い、私の憧れの人なの。
今はワゴン車で移動しているのよ。後部座席に、私とオク教授と助教授のオジさん、運転席と助手席に現地スタッフが乗っているの。
とか言っている間に象さん達に遭遇よ。可愛い〜。じゃなくて、しっかり密猟者から守らなくちゃ。
「おお、いっぱいいますな。」
「そうね。今日も大漁ね。」
おや? 教授と助教授が不穏な会話を……。
私が見ていると、オク教授が此方を向いた。
「聞いてしまったね、リリス君。」
いや、貴女達が勝手に話したのですけど……。
「お察しの通り、私達が噂の密猟団さ。」
そんな事察してなかったのに〜。
「聞かれたからには無事に帰すわけにはいかないわ。」
「そうですな、象牙と一緒に売り飛ばしてやりますか?」
う、売り飛ばされる〜。私は、咄嗟に後ろのハッチを開けて、飛び降りたわ。幸い、徐行していたから、怪我はしなかったのよ。
「象さん達〜、にーげーてー。」
私は必死に叫んだ。そうしたら、何故か、象さん達はこっちに向かって来たの。
「象の群を呼び寄せるなんて、貴女正気?」
オク教授が喚いているけど、そんなの知らない。象さんに聞いてよ。
私とワゴン車は反対方向に逃げ出した。ひとまず人身売買の魔の手からは逃れたわ。
と思っていたら、前方に崖が! だから、あいつら、こっちに来なかったのね。うわっ、ダメだ。やばい、落ちる。
断崖絶壁に舞う薄幸の美少女。翼が欲しい。今度生まれて来る時は、ペリカンになろう。
そんな事を考えていたら「アッアア〜。」っていう雄叫びを聞いた気がしたの。
暗転。世界が真っ暗だわ。気を失っていたみたい……。っていうか、私生きてる? 此処は誰? 私は何処?
「やあ、きづいたの。」
突然、日の光とともに幼女が視界に飛び込んで来た。どうやら、藁葺きの小屋に寝かされていたらしいわ。
幼女は動物の皮で作った衣服を身に纏っていたの。ファッションセンスは皆無だわ。
「私はリリス。貴女はだあれ?」
私が尋ねると、彼女は胸を張った。
「ようじょ じゃんぐるの おうじゃ ぷりむらちゃん なの。」
幼女ジャングルの王者プリムラちゃん?
「幼女なの? ジャングルの王者なの? プリムラちゃんなの?」
「ぷりむらちゃん なの!」
動転してバカな質問をしてしまったわ。プリムラちゃんは気を悪くした風もなく、後ろにいた子を紹介してくれたの。
「こっちは おともの ちんぱんじー すばるくん なの。」
チンパンジー……? そこに居るのは、どう見てもメイド服を着た、超絶美少女なのだけれど……。新種かしら?
「チンパンジーの昴です。」
今、日本語で挨拶したわよね? 考えたら負けっていう類の話なのかしら?
「貴女達は何者なの? 何故、こんな所に住んでいるの?」
「ぷりむらちゃんは るいじんえんに そだてられたの。おおきくなったから、じゃんぐるの へいわを まもっているの。」
大きくなった? 私は、ちんまりとしたプリムラちゃんの佇まいを、思わず二度見してしまったわ。
「そうだ。こうしちゃ、いられないわ。象さん達がピンチなの。」
思い出して、立ち上がった途端に、お腹がグウッと鳴った。ハズカシイ……。
「おちつくの。まずは たべるの。すばるくん、たのむの。」
「ほい来た、プリ様。昴にお任せ。」
今、チンパンジーが「ほい来た、プリ様。昴にお任せ。」って……。いや、考えちゃいけないわ。考えたら負けよ。
「さあ、召し上がれ。ブロントサウルスのお肉だよ。」
昴ちゃんが焼いた骨付き肉を出してくれた。へえ、ブロントサウルスの……。
「いるの? ブロントサウルス。」
「いっぱい いるの。きりまんじゃろの おくちに。」
ブロントサウルスは後々の研究でアパトサウルスと同じって事で、なかった話になっているんだけど……。作者の年齢がバレるわ。
おっと、メタな発言は絶対厳禁。小説の登場人物のお約束だぞ。
「たべないの?」
お肉に手を付けない私に、プリムラちゃんが聞いた。
「菜食主義なの。動物さんが可哀想で……。」
「もう、しんでるから かわいそうも くそもないの。」
身も蓋も無いわね。
「せめて りりすが たべてあげるの。りりすの ちや にくと なるの。そうすれば、ぶろんとさうるすも りりすと いっしょに いきるの。」
私の身体は、私が今迄食べて来た物で出来ている。奪って来た多くの命で出来ている。そう考えると、あだや疎かに出来ない、自分の命 ……。
「わかった。食べる。」
「うん。いっぱい たべるの。すばるくん、おかわり じゃんじゃん やいちゃって。」
「ほい来た、プリ様。昴にお任せ。」
また「昴にお任せ。」って……。いや、考えない。今は無心に食べるのみ。
食べ終わった私は、プリムラちゃんに、象さん達を一緒に守ってくれるように頼んだの。
「たべないのに ころすのは ぜったい だめなの。」
あの……、プリムラちゃん。象さんは保護対象の動物だから、食べてもダメなのよ。
「たたかうの。いくよ、すばるくん。」
「ほい来た、プリ様。昴にお任せ。」
ああ、そうか! そういう鳴き声なんだ。でも「召し上がれ。」とかも言ってたしなぁ……。
考えちゃダメ、と思いながらも、考えつつ歩いていたら、さっきの平原に戻って来てたの。
「ヒャッハー。撃ち殺せぇ。」
其処では、人間の醜さを剥き出しにしたオク教授達が、正にライフルで狩りを始める寸前だったわ。
「あいつら〜、ゆるさないの!」
プリムラちゃんは、背負っていた大きなブーメランを投げた。ブーメランは現地人スタッフの一人に直撃し、彼は人事不省の状態になって転がったわ。お気の毒。
「誰だ?!」
「ようじょ じゃんぐるの おうじゃ、ぷりむらちゃん なの。」
「貴様が何十年も前から、我々密猟者の邪魔をしているプリムラちゃんか。」
何十年も前から? どう見てもプリムラちゃん三歳くらいだけど……。というより、本人が「幼女」って名乗ってますけど……。
「いかにも! その ぷりむらちゃん なの。」
肯定したわ。いや、考えちゃダメ。考えたら負けなのよ。
「構う事はない。やっておしまい。」
ああ、オク教授が、すっかり悪の女首領みたいになっているわ。なんで、あんな人尊敬してたのかしら。
などと思っている間に、ライフルの銃口を向けられて絶体絶命。
「撃ち方待て。」
やっておしまい、とか言ってたくせに、オク教授は撃つのを止めたわ。きっと、改心したのね。
「リリスちゃん、貴女が私の足元に這い蹲って靴を舐めるなら、プリムラちゃん達は見逃してあげるわ。貴女は、その後、売り飛ばすけどね。」
「ど、どうしてですか? 何で、そんな酷い事するんですか。」
「私はねえ、常々、貴女のその良い子ちゃんぶりが気に食わなかったのよ。貴女が悪の権化の私に屈服し、世界の何処かで、奴隷として惨めに生きているのを想像するだけで、ご飯三杯はいけるわ。」
言いながら、感極まったのか、オク教授はその場で、ゾクゾクと身体を震わせたの。本物の変態ね。皆(オク教授の手下含む)はドン引きしていたわ。
でも、プリムラちゃん達の命には代えられない。私は教授に従うわ。ああ、なんて悲劇のヒロイン。
どうせ売られるなら、ヨーロッパの古城に住む王子様みたいな人が良いな。最初は乱暴に扱われるのだけれど、やがて、二人は身分の差を越えて結ばれるの……。
「あっ、貴女の買取先、もう決まっているから。ジャパンにお住まいのペンネーム無法地帯さん。『趣味は「なろう」に幼女小説を投稿する事。生きた着せ替え人形として、リリスちゃんを所望します。』だそうよ。」
いやあああああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁあ。
変態、きっと変態に決まっているわ。脂ぎった小太りの中年オヤジよ。一週間に八日は秋葉原に通っているタイプよ。そんなの酷い。あんまりだわ。
「なかないで、りりす。ぷりむらちゃんと すばるくんが そんなこと させないの。」
……カッコイイ。なんて男前。リリス、惚れても良いですか?
あれ、そういえば、昴ちゃんの姿が見えないな。
「あっああ〜。あっああぁぁぁぁぁ〜」
突然、プリムラちゃんが雄叫びを上げた。
「うるさいね。今すぐ、撃ってやってもいいんだ……よ……。」
オク教授が言い終わるよりも先に、大地が割れるように揺れ、地響きが轟き渡った。
「オクの頭、サバンナ中の動物達が押し寄せて来ますぜ。」
「ええい、撃て。撃っておしまい。」
「ダメです。先頭のトリケラトプスみたいな奴に、全部弾き返されてしまいます。」
みたいな奴じゃなくて、トリケラトプスだわ。凄いわ、アフリカ。神秘の大陸ね。
「プリ様〜。」
おお、あれは、姿をくらませていた昴ちゃん。
「ICPOに連絡して来ました。間も無く、やって来ます。」
「でかしたの。すばるくん。」
「ど、どうやって連絡したの?」
「いやだ、リリスさん。アフリカにだって電話は有りますよ。近所で借りて、掛けたんです。」
いや、そうじゃなくて、貴女チンパンジーじゃ……。ま、まあ良いか。終わり良ければすべて良し、よ。
陸上は動物達、空はインターポールのヘリが埋め尽くし、立往生のオク一味。悪の栄えたためしは無いのよ。
キリキリ歩けぇ、とオク達は連れられて行ったの。懲役百年は免れないそうよ。御愁傷様。
「じゃあ、ぷりむらちゃんたちも かえるの。いくの、すばるくん。」
「ほい来た、プリ様。昴にお任せ。」
プリムラちゃん、ちょっと惚れちゃったけど、貴女はジャングルの女性。所詮、住む世界が違うのね。悲しいけれど、これでお別れ。
こうして今でも、ジャングルの平和はプリムラちゃんによって守られているの。
私の話もこれでお終い。えっ、全部嘘だろうって? おバカさんね。疑うなら、アフリカの大地に行ってごらんなさい。プリムラちゃん達は、今日も楽しく動物達と遊んでいるから。
本当よ。
この小説の登場人物は、私の連載中のお話から設定を借りてます。
所謂「スターシステム」というやつです。
決して手抜きではありません。
チンパンジーの昴の姿が、人間の美少女などという不条理は、そこから来ています。
因みに、この昴君、メイド服を脱いでも尻尾や体毛などなく、完全に人間と同じです。
人間とは、何をもって人間というのか、という哲学的な命題でもあるのです。