6話
こんにちは、深海です。
一夜明けてようやくまともに会話を始めた2人です。
ただ、この作品名物のひとつ。
年下に面倒見られる年上がでて、大人と子供の定義が・・・となってきたなと思いながら書きました(意味わかりませんが、こんな子供いたらいいなとか、少し思いました、なんか引っ張られたくて)。
よろしくお願いいたします。
少し早い朝の時間。
日常はこんな硬い床の上に寝袋の中で目覚めるなんて事はないのだがな、と胸中で愚痴りながらも上体を起こして室内を見回す。
古びた掘っ立て小屋に、壁の隙間から細い光の帯が数本延びているのが視界に淡く映る。
昨日までのじめっとした感じももうない乾いた空気の流れ。
穏やかな朝だ。
ただし、本当は全然穏やかでもなんでもない状況にいる訳だが1人でないという事が思いのほか気分をなんだかんだで楽にしているらしいと部屋の少し高くなった場所に目をやる。
そこには流れる闇色がもぞもぞと動き揺れている。
一応俺を最悪の事態から引っ張り出し、状況を説明してこれからの事を考えてくれた恐ろしく可愛げのない少女。
何も知らなければあのまま家に帰り『夢』に消されていたのだと思う。
そう考えれば内心反発するも、今までそのことで苦労してきたであろう先達者の助言として一晩たった今は感謝もしている。
そんな重苦しさも若干混じった朝だ。
今のところ無事なだけの・・・。
程なくして可愛げのない先達者殿が目を覚まし伸びをしているのを視界の端で捕らえたが声はかけない。
若い娘が目覚め一発目からヤローの声など聞きたくないだろうし、何より勝手に声などかけて言ったらまた何か言われ不機嫌になることは、先日会ったばかりだが昨晩のやり取りから学んでいた。
なので、放っておくことにした。
何か用があったら声かけてくるだろ?向こうから。
胸中で少し毒づきつつ、重く息を吐く。
そんな事より朝食をと手元にバックパックを引き寄せて中身をあさる。
缶詰やパン、水の入ったペットボトルを見つけると横に置いていく。
味気ないが仕方がない。
料理はできるが調理器具はないのだ。
「そんなんで『夢』とのおっかけっこに臨むつもり?」
ややして、皮肉ったような調子の声が降って来た。
そちらを見なくてもわかるその鈴を鳴らしたような声は小生意気先達者のアーシア以外の何者でもないのだが、今は放っておいてくれ、朝一で腹が減っているのに嫌味なんかかわせないのだからと適当に返事を返す。
直後にすぐさまため息が聞こえ、昨晩暖を取っていたあたりにしゃがむと近くの荷物を引っ張り何か始めたが気にはしていられない。
子供じみているが、なんとなくそのまま下を向きもそもそと口を動かしていたのだった。
数分後。
何かいい匂いが小屋の中に漂い始めた。
ああ、アーシアも自分の朝食を用意したんだなとう思い半分、子供はしっかり食っとけよーと妙にしみじみ思いながらも食事を続ける。
昨晩生活関係の話をした際、食事は各自でとなったので放っておいたが、本当に心配がないようだ。
ここは素直によくできているよ、子供でも、などとオッサンが子供に感心しているのであったがいきなり目の前の地面に足が見えたので「ん?」と顔を上げると同時に少し深いステンレスの器が目の前に突き出されたのでさらに上の少女の顔を見上げると、呆れたような顔がこちらを見下ろしていた。
「食べなさい。」
ぶっきらぼうというか何というか・・・皿を押しつけて暖を取っている場所へ戻りしゃがみこみ、今度は自分のを持って隣に座る。
何だ?と、押し付けられた皿を除くと野菜やら何やらの入ったスープがうまそうな湯気を立てていた。
食えって・・・?
思わず隣を凝視すると、スープを覚ましながら口に運ぶアーシアがいた。
えっと、な。
「まったく、年くってる割には考えなしなんだから。」
また生意気な調子で視線をこちらによこす。
「貴方、そんなのばかりで済ませる気じゃないでしょうね?やめてよ?それ絶対体、壊してへばるの見えてるから。弱った人間連れて逃げながらとか出来ないわよ?」
絶対しないわよ?とも聞こえた気がした。
何だか正論過ぎて言い返せない自分が甘かったと思いつつ、コイツ、本当に子供か?女の子はこんなもんか?男よりしっかりしてるとは聞くけどここまでか?などと疑問符を大量に飛ばしつつ、礼を言い、受け取ったスープをありがたくすすった。
くそ、うまいじゃねえか!
食事もそこそこに片づけを手伝いつつ年下の母親を見下ろす。
コイツ、本当にいくつだ?
ここまでの会話で生活態度や考え、詰めの甘さをあれこれ指摘され、どうもそれをこの少女は実践しているようだと理解しこのままでは本当にやっていけないぞと言う事に気づく、俺。
いや、何だこのスーパーガール。
どんな英才教育を受ければこんなになるんだ、と内心首を傾げ焦った訳だがこの娘にしてみれば俺がただの甘ちゃんなのだと言い切られた。
本当にお前何なんだ?子供だよな?俺より10歳位年下なんだよな?
どうなんだよと詰め寄りたいが、その前に煙たがられた。
「そんな事より、各自でとは言ったけどどうするの?貴方、こんなんじゃすぐボロボロよ?体調崩して寝入ってるときに『夢』が来たら最悪よ?」
それは怖いだろ?と思いつつ手元の皿を拭く。
だが、さすがに年下に面倒見てもらうのはあまりにも思うと思わず唸ってしまった訳だが・・・。
「子供に面倒見られるのが嫌とか思ってるならあきらめなさい?実際何も出来ないんだし、それじゃ同行者は危険なだけよ?」
さらっと言いアーシアが俺の手の中の食器と布巾を回収していくのを目で追う。
本当にどうするか・・・。
素直に助けを請うのかとも思ったが、子供に頼るのが嫌云々よりもそれをしてアーシアの負担が増えるほうが気の毒に思えているのもある。
先ほどの体調を崩した時ヤツらが来たら?俺の面倒を義務とか責任とかで見ていたアーシアが倒れ何かあったら?それは、とにかく嫌なのだと。結局は子供に頼りたくないでいいが内心複雑で仕方なかった。
そんなこんなでグルグルとあれこれ考えている俺の耳に、呆れたような声が聞こえた。
「じゃあ、こうしましょう。・・・いいえ、こう思いなさい。貴方は私の保護者で旅の間女子供だけだと都合の悪い自体に対応するのが役目だと。」
何だ、それ。
「どの道、私は未成年者だし状況によっては大人がいたほうがいいかもしれないわ。私の両親はもういないから、両親の知り合いだから面倒見ているって事にでもする?」
いきなり何だ?これじゃ俺がフォローされてるだけで、コイツの負担はあまり変わらないんじゃないだろうか?そう述べるとさらに呆れた視線までつけてこう言った。
「同意なさい?」
結局アーシアの申し出を俺は受けた。
正直いいのだろうかと思う。
子供に妥協案を用意させてしまったのだから。
だが、彼女はその後は何事もなかった様に「くだらないこと考えるのはやめなさい。もう、今の貴方は今までとは違うの。これは取引なんだから、別の事に注意なさい」と言って出立の準備を始めてしまい今は野外にいる。
子供の一人旅をごまかすための保護者役を俺が引き受け、『夢』への対応と指導をアーシアが行う。
確かに取引にも見えるが、やはりアーシアの負担のほうが多い気がするのだ。
大人や子供以前に人としてフェアじゃない気もする・・・。
何か俺に出来ることはほかにないのだろうか?と考えていたら小屋の外から彼女の声がしてきたので顔を出す。
すると・・・。
「呆けてないで手伝いなさい?」
これも貴方の仕事よ?と足元の重そうな石を指差す。
「何だ?それは。」
「やつらへのカモフラージュを作るわ。力仕事は出来るでしょ?これ終わったら出発するんだから早くなさい。」」
顎で示しながら言う彼女を見て思った 。
俺の仕事は何だかんだでありそうだ、と。
ありがとうございました。
バルドは大概あんな感じです。
どっちがどうかわからない二人です。