1話
初めまして。
深海 律と申します。
細々と活動を始めました。
今後ともよろしくお願いいたします❗
実はこの作品以外に、もう1つ作ってます。
そちらもよろしければ見てやって下さい。
ああ、また夢を見ていたのか?
ここの所いつもだ。
現実より現実的な、その登場人物そのものとしてなぞる物語。
導くような詩の1節。
こうも続くと私の頭がおかしくなっているのかと思ってしまう。
しかし、やはりそれは夢で、私の゛いつも゛には何の影響もない。
ただ、目が覚めると身体中がこんなにもだるかったり、時には軋む様な感覚があり、そして・・・酷くのどが渇いている。
何だってこんなにと額を手のひらで覆いつつベッドの軋む音を聞きつつキッチンに向かう。
しかし、手にしたグラスの感触、のどを下る水の冷たさが痛みとなり、まるで今まで見ていた夢が現実でその延長の様に感じるこの今。
いつしかこの夢が自分に降りかかって来るのではないか?
などと馬鹿な事を考え、頭をゆるく振る。
本当にこの夢は、いつまで続くのかと今夜も何度目かの眠りにつく。
ーーー現実を飛び回る子がまた1人目覚めて、世界を揺らす。
『竜の詩人(語り部)』
「・・・!」
声にならないうめきを上げ、その胸を軋ませる様な痛みに仰天して飛び起きた。
何だ?一体・・・。
いつも通り、夢も見ずにぐっすりと眠りに落ち込んでいた意識が何か鋭利な刃物に貫かれたように弾けとんだ。
目の前はチカチカとし、当分何が何だかという思いと、違和感と圧迫感に軽く混乱したまま瞼の上を指で押さえた。
今は何時だ?
ベッド脇のサイドテーブルに目を向けると液晶部分はまだ深夜零時にもなっていない。
眠りについて2時間も経っていないじゃないか・・・。
珍しい。
1度眠ればよほどの事がなければ朝まで目が覚めないのに。
疲れすぎて眠れないというやつだろうか?
今日の夕方まで仲間達とツーリングを楽しんでいたから・・・。
連休は明日までで、最後の1日はゆっくりしようと思って切り上げ眠りについたはずだ。
確か学生時代の仲間達と1年半ぶりに集まり、盛り上がったのだ。
その余韻のせいだろうか?俺らしくない事もあるな。
ストレスでも溜まっていたのかもしれない。
この頃不景気で、会社の上司もイラつき、職場の雰囲気もあまりよくないからな。
そんな中、今日までの楽しい時間が今この時も興奮状態を作っているのかもしれない・・・。
そう自分に言い聞かせ1度立ち上がる。
耳を澄ませばさらさらとした雨音が聞こえる。
そう言えば天気予報では、明日は雨だとか・・・。
連休中、もってくれて良かった。
視線を向けた窓の向こうは街灯もなく様子もよくわからないが、おそらく少し離れた場所にある砂地はぬかるみはじめているだろう。
ここは住宅地だが緑も多く、故意に舗装していない場所もある。
しかし、所々の水はけが悪い。
その1つがこの寝室からガレージに続く砂地なのだ。
庭というほどのスペースでもないが俺の借りるこの家の敷地という事で、たまに近くの住人が「何とかならないか?うちに泥水が流れて来るんだが」などと言うものだから、いつぞやは「大家言ってくれ」と凄んだら何も言って来なくなったのは記憶に新しい。
少しの間、雨音を聞きながら呆けていたが不意に「何か、違うな?」と辺をみまわす。眠気が来ない。
目が冴えたか?本当に珍しいな。何かあっただろうか?考えてみる。
いつもと違うのは本当に、ツーリングに行き楽しかったが疲れたという事ぐらいで・・・。
「・・・雨、か?」
今更ながら口にしてみる。
ただ、別に雨が降ったからといって水しぶきの大きな音がする訳でもないし、今までも、嵐の日には少し古いこの家は大丈夫かと思うくらいで眠れなかった事などなかった筈だが。
しかし、口にしてみると耳にしているさらさらとした雨音が妙に心地悪い気がしたのだ。
何故だ?普通、個人差はあれど逆だろうに・・・。
思ってはみたものの結局この不快感は何なのだろうと再び立ち上がっていた。
何の変化もないとは分かっていたが・・・。
だが、そのままというのもと、ひらめいたようにうなずき「ああ、喉が渇いてるんだ」と言い聞かせるように呟き、上着を羽織りスリッパを履く。
床とスリッパのこすれるわずかな音をさせつつ短くて狭い廊下を歩きキッチンに入り、棚のグラスを手に取り蛇口を少しゆるめに回し水を注ぐ。
そのままグラスを持って隣のリビングに入ると、何となく玄関側の小さなのぞき窓に目をやる。
瞬間、頭の上から爪先まで、一気に電流でも走ったかの様な衝撃が伝い、凍りついた様に動けなくなった。
さらに、何も見えないはすの視線の先に゛あり得ない筈の何か゛がいる気がした。
いや、゛いる゛。
これはと考えもしたが体は次の瞬間にはテーブルにグラスを置き、身を翻して寝室に走り込む。
息つく暇もなくクローゼットを開くと中からシャツにジーンズ、上着に靴に靴下にと様々な物を引っ張り出し、近くの大きなダッフルバックに詰め込んだ。
そのまま着替えも済ませ洗面所で必要な物の入ったポーチを、キッチンで恐るべき速さで食料品等をかき集めそのままバッグに詰め込む。
手荷物はウエストバッグに・・・と、ここまではツーリングの荷ほどきをせずにおいた物をそのまま詰めただけだがおかげで素早く身支度が出来た。
重くなったバッグ等を抱え、ここで裏口へ回ろうとリビングに足を踏み入れようとしたが、咄嗟に身を屈めた。
アイツらだ!脳裏にその言葉が響いた。
何がアイツらなのか分からないが゛彼ら゛はとにかくヤバい。
先ほど見たのぞき窓の遥か向こうにいた。
こちらに歩いて来た。
男女数名の黒っぽい・・・スーツの。
映画やドラマでよく見る刑事みたいなやつだ。
捕まる!再び、今度はやかましく脳裏で叫ぶ声。
同時に弾かれた様に逆方向へ戻り、少し立付けの悪くなったガレージに続くもう1つの扉へと小走りにすり寄り、押し開けた。
ああ、雨が酷くなっているじゃないか?
呻く様に胸中でごちて、ツーリングの装備のままのバイクに荷物を手早く積み鍵を差し込む。
ゆっくりと1日かけて片付けようと放っておいたが、まさか役に立つなんて。今までこういう事をして良かった事なんかなかったのにな。
無理矢理口の端を持ち上げてみる。
まったく笑えないが。
ガソリンは半分以上入っている。
確認と同時にキーを回すと荒々しいエンジン音が辺りに響いた。
ミラーを見ると廊下の窓にはこちらに向かって歩いてくる゛奴ら゛が見える。
おいおい、来るのが早くないか!?
足音もしない、遠目ではあったが走ってもいない。
普通の速さで歩いている様に見えたのに・・・。
いや、何より「アイツら、どうやって家に入って来たんだ!?」
ドアにも窓にも鍵がかかっていた筈だ。
寝る前に戸締まりした。
鍵の壊れる音もしてない。
なら何故!?軽くパニックに陥ったが考えている暇はなく、一気にアクセルを吹かした。
ガレージに流れ込んで来た泥水を撒き散らして急発進するバイク。
そのまま振り返る事もなく、雨の中を疾走するのであった。
ああ、雨なのね。よりによってこの日に。何て門出?まあ、別に晴れやかさの欠片も無いのだけど。
少し開いたドアから外を眺め、スルリと抜け出す。
木製のドアは音もなく閉じ、その様子を見もせずに同時に動き出す。
軽くぬかるんだ土の感触が靴の裏に伝わるが、気にもしていられない。
この上着が革製でフードが付いていて良かった。寒さも雨も少しはしのげる。ただ・・・赤、はね。いくら目立たない程度ではあるけど、これでは看板を下げているみたいじゃない?まあ、父からすれば娘の衣類だしとでも思ったのだろうけど・・・。
そこまで考えて、それにしても、と天を仰ぐ。
よく降る。これ以上の大降りはごめんだわ。それでなくても厄介この上ないのに・・・。
立ち止まる事なく一連の動作を行い、ため息交りに前を向く。
その時フッと何か、周りに圧迫感がおりたった様な、はたまた頭の片隅でチリリッと火花が散る様な感覚が走る。
あら・・・?と、ここでようやく足を止める。
再び空を見上げるとやはり雨は降り続けており、その粒がフードのかかっていない肌に流れ落ちてくる。同時に見えない筈なのに視界にまとわりつく、これは・・・。
「随分、年がいっている様だけど・・・。いいわ、呼んでみましょう。」
口元に笑みが浮かぶ。「どうせ・・・」呟き目を瞑る。
どうせ、何をどうしても厄介な。とても厄介な゛最初で最後の旅゛なのだから。
夜明けか?視界を流れる景色が次第に白みだす。
あれから何時間バイクを飛ばして?
時計に目をやると午前6時前・・・。6時間、か。俺は一体何をやっているのだろうか?訳も分からず家を飛び出して、しかも真夜中に。
そもそも゛アレ゛はは何だ?
人、に見えた。多分人、だと思う。見た目だけなら。
しかし、とも思う。本当に?
なら何であんなに必死で逃げたんだ?
よく分からない。ただ、何かいけないと思ったのだ。いや、感じたのだ。
そこまで考えて、目を細めた。
馬鹿馬鹿しい。何だそれは?そんな話、都市伝説ですら聞いた事がない。もう、戻るか?何も無い。荒れたクローゼットと洗面所とキッチンしかないかもしれない。
だが、考えとは裏腹に体は相も変わらず反対方向へ向かう道路でバイクを走らせ続けている。
やはり何か、と。
「一体・・・。」エンジン音にかき消される呟きの余韻を噛みしめながら考える。
見た目は黒っぽいスーツ姿の男女数名に見えた。
他には?歩くのがやたら早い。
・・・警察とか?いや、そもそも警察といった類いの人間に厄介になる様な事はしてない。免許だってゴールドだ。何かで学生時代は表彰された事もあった。
じゃあ何か、すねに傷持つ様な連中が逆恨みで?それも違う。そんな連中と関わることすらない。
じゃあ・・・。それらしい事などまったく、思いつかない。
どうしようか?雨はまだ降っている。若干弱まりはしたが。
とにかく、どこかで雨宿りと食事をとらないと。
考えながらも、思い出した様に記憶の中でどす黒い感覚を思い浮かべる。
とにかく゛アレ゛はまずいんだ。
胸中にそのひと言だけは刻み込んで、前方に広がる鉛色の空を臨んだ。
結局゛アレ゛は何だったのか?
相変わらずの灰色空だが、日が高い時刻に達してきたので何となくあの圧迫感の様なものもなくなった、とバイクを止めて辺りを見回す。
荒野の中のハイウェイ・・・。
何て所まで来てしまったんだ。まあ、夜中から走りっぱなしであれば当然だが。
先日のツーリングよりも飛ばしている気がするくらいだ。もっとも、先日とはうってかわって楽しくも何ともないが。
先ほど道路脇に何というか、寂れた町があり食事などをすませた訳だが。
「今度は何だ」
声に苛立ちが表れる。
事は食事を終えて、雨が弱まったのを確認し次の事を考えていた時だ。
次とはもちろん、この後家に帰るかやもう少しうろうろしてみようか。
はたまた、しばらく昨日までツーリングで同行していた友人の家へご厄介になろうか等だ。
ただここで、しかしと唸る。
理由を聞かれたら、どう答える?
適当なもので、不自然でないもの。
昨日の今日で友人宅を訪れ、厄介になる為の。
どうやっても不自然意外の何者でもない。
そんな事を考えたが、結局何も思い浮かばず、長居するのも店主の視線が気になってきた為店を出ようとドアの前に立った時。
ーーー。
何か聞こえる。
何か呼ばれている様な感覚で。
しかし、実際は店内に流れる時代遅れの歌謡曲の質の悪い音しかしていない。
それでも、聞こえるのだ。
店内からかとも思い振り返るが、先ほどまで座っていたボックス席のテーブルに置いた代金を店主が回収している以外は何もなく、可笑しな音の元も見当たらない。
表に出ると湿った空気がまとわりついて気持ちが悪いかったが、そのままバイクまで大股で辿り着きヘルメットを抱える。
その間も音ーーー正確には゛声゛の様な気がしたそれは耳の奥に行く響いていた。
ただ、耳鳴りの類いでもないらしく、甲高い音が小声で話し掛けてきている様だった。
それなのに、不思議と気味悪さといったものは感じていない。
むしろ、妙に落ち着く様な安心感が胸に広がってすらいた。
同時にある方向が気になって仕方がなく、そちらばかりに視線を向けた状態でヘルメットをかぶる。
本当に俺は何がしたいんだ?
まったく理解も納得もしていない自分の行動に半ば呆れた様に息を吐きながら、バイクのシートにまたがった。
道からどんどん離れていく事に不安を覚えながらも、男はただひたすらに踏み固められただけの道を抜けて行く。
もちろんバイクに乗ってはいるが、森に入って随分走った。
徒歩では無理な距離だ。
最初、舗装されていない砂地を見てあからさまに嫌そうに唸った男はやはり引き返そうかとも考えたが、常に響いていた゛音゛が更に大きくなった為そのまま進んだのだ。
森に入って20分は経った頃、視界は一気に開けた。
そこは少し広めの空き地の様な場所で、何やら古い重機械や建機等が置きっぱなしになっていた。
男はバイクからおり、手に少し小さめのバックパックを持ち歩き出す。
辺りには誰もおらず、音もしない。
通常聞こえ音は。
左耳に手を当てて男は尚進む。
重機械の間に建てられた、木製の小屋の前に。
見るからに古い小屋だか、ドアの隙間からオレンジ色の光りが漏れている。
誰かいるらしいと気付き、やや身を硬くするが男の手は一気にドアを引いていた。
古い小屋だったの。
目の前で燃える固形燃料を中心に赤やオレンジに揺れる炎に枝を放り込む細い手。
ただ、待ち合わせには丁度いいと思ったから入って暖をとって待っているのだけど・・・。
「遅いわね」
迷子にでもなったのかしら?
それとも、他に何やら厄介な事でも・・・。
そこまで考えて、何かの音がした。
それが待ち人だという事にも直ぐに気付いた。
ようやくお出ましかと、座ったまま上半身をひねり振り返るが、そこで可笑しなものを見た。
思わず「あら」と口を開きそうな形ので、しかし実際はおくびにも出さず。
目の前には短くて黒い髪に少し焼けた肌の男が丁度ドアを開いた所であった。
身長は180㎝半ばで筋肉質な感じの、多分20代後半くらいの強面とも思われる顔立の男だ。
ただ不思議と怖くは見えず、普通よりは逞しくて見ためもそこそこの正にどこにでもいる青年だった。
「私は、アーシア。貴方は?」
多分彼も『現実の子』だ。
なら、これでいいわよね?
そう思っていたのに、そうでもなかった訳だけど。
声の良く聞こえる方へバイクを走らせて30分が経過した頃、ようやく辿り着いたのは古い重機械置き場だった。
何故、こんな場所に?
背中が妙な緊張に湿って気持ちが悪い。早く着替えたい。
しかし、今はそれも出来ぬとバイクを降りてこの重機械置き場の真ん中辺りに見えるトタン屋根の木製の建物の方へ歩き出す。
一応身近なものの入ったバックパックも肩に掛けて。
ここまでの道のりに比べれば遥かに近い距離はアッという間に感じるほど短く、直ぐに小屋のドアの前に辿り着いてしまった。
中から光りが漏れているから、人がいるのだろうと考えると急に緊張してきた。
しかし、いつまでもこのままではいられないとドアの取っ手を掴み一気に回し開けた。
「・・・。」
同時に室内に視線を放り込むが、何故か黙りこんでしまう。
中には確かに人がいた。
その人物は丁度体育座りの様な姿勢で最初、座っていたが俺が入って来たのと一拍遅れて上半身のみを捻る様な感じで振り返った。
正直、綺麗な人だと思った。
長く伸ばされた黒い髪は真っ直ぐで背中まで隠すほどで、どう手入れをすればあそこまで艶やが出るのかと感心してしまった。
肌だって日に当たった事が生まれてこのかた1度もないのかと思うほど白く、顔立ちは雑誌の表紙を飾るモデルすら霞むほどに整っていた。
何より目を引いたのは目だ。
鮮やかな゛朱色゛。
人間の色素からくるものとは思えないほどの、目の覚める様な『朱』だった。
ほんの一目でここまで強い印象が目に焼き付いてしまい、思わず見惚れてしまい動きが止まる。
この綺麗な人ーーー年の頃、10代半ばの少女が口を開くまでは・・・。
「私は、アーシア。貴方は?」
鈴を鳴らしたような凛とした、しかしきつい言葉と声が室内に響いた。
その発言を耳にした瞬間、男は胸中で呻いた。
〈可愛いげがない・・・〉
もっと言うと、不遜で偉そうな気もする。
そもそも、どう見ても俺の方が年上なのだが・・・。
黙りこくって、何だか納得いかない思いとでモンモンとした気持ちを抱きつつ目の前の少女を見ていると、眉をひそめて再び彼女が口を開く。
「貴方の名前は?」
「バルド・アストック、だ。」
何故か勢いに押される形で名乗ってしまい、眉間にシワができる。
「バルド、ね。」
少女の値踏みする様な視線が男ーーーバルドに注がれ更に一体何なんだという気持ちになる。
これが、「アーシア・ルーシェ」との出逢いであった。
後にバルドが思い出す時の感想はいつも「最悪の出逢いだった」という愚痴になるのであった。
読んでくださり、本当にありがとうございました❗
今後も続いていきますので、よろしければまたみて、感想というか採点、になるんですかね(初めましてですし)。
とにかく、よろしくお願いいたします‼