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旭日の西漸 第2部 大陸の冒険篇  作者: 僕突全卯
第3章 ロトム亜大陸
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世界の真実

 ついに神の使徒の口から「転移」の真実が語られる。村田は息を飲みながら、彼女の言葉に耳を傾ける。日本政府が追い求めた謎の答えに、自分が最初に辿り着くことになろうとは想像さえしていなかった。


「要はね・・・“自然現象(・・・・)”なのよ」


「・・・へっ?」


 あまりにも予想外な単語の登場に、村田は思わず間の抜けた声を出した。呆気にとられている様子の彼を見ながら、ジェラルは説明を続ける。


「異なる世界に飛ばされるという現象自体は、特段珍しいことでは無いということよ・・・。まあ、国ごと飛ばされるようなことは滅多に無いだろうけどね・・・」


 「異世界転移」は珍しい現象ではない、彼女の口から語られた真実に村田は再び驚いた。日本国を未曾有の国難に導いた「転移」は、何か意味があった訳でも無い単なる自然現象であったというのだ。呆然としている彼に、ジェラルは説明を続ける。


「どの世界にも、他の世界へ何かを飛ばしたり、他の世界から何かを引き寄せるための“トリガー”となる“装置”がある。もちろん、貴方たちの世界にもね。そうやって各世界は、互いに知らないところで情報のやり取りをしているの。異なる世界からもたらされる新たな情報は、その世界がさらなる発展を遂げる鍵となる。これは神々がお考えになった“システム”なのよ」


「・・・!」


 この時、村田はあることに気付く。それは彼女の説明が、日本の研究者たちが抱えているいくつかの疑問の答えになっているということだった。


 まず第一に、この世界に生息するファンタジー生物や亜人種が、元の世界で言い伝えられているものとほぼ共通している理由だが、それは地球に広まっている「伝承」が、今迄起こって来たという「転移」によって、異世界からもたらされたものだからなのだろう。もしかしたら「転移」に巻き込まれたエルフが、本当に中世ヨーロッパに存在した可能性だってある。日本で言うところの「神隠し」も異世界転移と同様の現象だと見て違いない。

 第二に、この世界に存在する病原菌・ウイルスが元の世界とほぼ同種で同様の伝染病を来す理由、これも各種微生物が「転移」によって各世界へと飛びまっているからなのだろう。もしかしたら各世界は時空を越えて同じ微生物叢を共有している可能性もある。


「私たちが住むそれぞれの”物質世界”は、二本の悠久な大河たる”神々の世界”と”死者の世界”の周りに附随しながら、突如現れては消える”支流”のようなものよ。神々は御自らが住まう”神々の世界”から各”物質世界”をご覧になっている。時には干渉もするわ・・・。そして各世界の見込みのある者には神の代行たる”使徒”の称号を与え、その世界での様々な役目を与える。その中で私が与えられた役割が、”海に沈んだ霊魂の鎮魂”という訳」


 地球やこのテラルスを含む多数の“物質世界”は言わば、気まぐれに現れては消える“支流”の様な存在であった。その支流に繋がる“大河”こそ、”神々の世界”と”死者の世界”という2つの高次元世界なのだ。”神々の世界”に住まう神という名の高次元存在は、度々支流を生み出してはそれらを全て似た様に作り上げるという。村田はここまでの説明を聞いて、ある可能性を思い描いていた。


「・・・では我々の世界にも、”神の使徒”がいる可能性があるのですか?」


 こちらの世界でも「八百比丘尼」や「サン・ジェルマン伯爵」のように不老不死の伝説が伝えられる人物が存在する。村田は彼らこそが、この世界における”神の使徒”にあたる存在だったのでは無いかという仮説を立てていた。


「・・・どうかしらね。普通、使徒は魔術師から選ばれるから、魔法も魔力も無い貴方たちの世界ではどうなのか」


 ジェラルは口に手を当てながら、考え込むようにして答える。これらはどうも、ただの作り話である可能性の方が高そうだ。


「というより、私も他の世界に行ったことは無いし、神の声を断片的に聞いただけだから断言は出来ないけど、魔力の無い貴方たちの世界は恐らく相当な異端(・・)のはずよ・・・。神々は偶発的に生まれる”物質世界”を、全て似たようにお作りになるの。故に魔法が上手く育まれず、亜人も生まれなかった貴方たちの世界は、言い方は悪いけど失敗作と言っても過言じゃないと思う・・・」


「・・・!」


 ジェラルは地球が存在する世界が失敗作だと告げる。どうやら“世界”とは、亜人が生まれて魔力が存在することが健全な姿であるらしい。意外な事実を耳にした村田は、衝撃を受けながら、もう1つの質問をぶつけてみた。


「・・・では、我々の世界の話し言葉がこの世界とは異なり、各国家・民族ごとに違い、通じ合えない理由も、我々の世界が”失敗作”だからなのでしょうか?」


 村田は研究者たちのもう1つの疑問である、”異世界で話し言葉の垣根が無い”理由を尋ねる。


「・・・恐らくそうね。世界には”言霊”と言われる精霊が居てね、それらが”話し言葉”を管理しているのよ。恐らくこれも、話が通じないのは不要な争いの元だと判断した神々が作られたシステム・・・。でも人間は、争いを止めることは無いけれど・・・。言霊をはじめとする各『精霊』は魔力で動くから、恐らく貴方たちの居る世界では、このシステムが全く稼働出来ていないのよ」


「成る程・・・本来ならば、魔法があって、亜人が居て、そして話し言葉の垣根が無い世界が”正しき世界”という訳ですか・・・」


 村田はジェラルが述べる「世界の真実」を聞いて、難しい表情を浮かべていた。他にも様々な考証の余地がある「世界の真実」に彼は興味が尽きなかったが、やはり自分たちの故郷である世界が”欠陥品”だと知ってしまったことには、少なからずショックを感じていた。

 もし、自分たちの世界が話し言葉の垣根が無く、意思の疎通がより容易な世界だったとすれば、争いが無くなっていたとまでは言わないが、避けられた争いは少なくなかっただろう。世界が欠陥だった故に、流された血も多いに違いない。


「・・・でも”魔法が無い”というハンデを背負いながらも、この世界が追随出来ない程まで文明と技術を発達させた”貴方たちの世界”は、誇るべきものだと私は思うわ。言わば、”神々のご加護”を失っているも同然の状況から、そこまではい上がって来たのだから・・・。大丈夫、”魔力”と”魔法”が無くとも、貴方たちにはその不利を跳ね返せるだけの”力”をすでに手に入れているものね」


「・・・!」


 ジェラルは気落ちしていた村田を諭すように語りかける。魔法を一切使えない不利を打開する”力”、彼女が述べたその力が何なのか、村田は正確に理解していた。その力の名は「科学」、神々の加護を無くしながらも産業文明を生み出した、まさに“人間の力”の結晶とも言うべきものであった。


「・・・そうですね。例え世界が”欠陥品”だったとしても、それを恥じることは無い・・・、確かにそうです!」


 彼女の言葉に勇気づけられた村田は、満面の笑みで答える。そんな彼の様子を見ていたジェラルはくすくすと笑う。


「・・・じゃあ、今度は貴方の番よ。貴方の話を聞かせてくれない?」


 ジェラルは村田に対して話をするようにお願いする。彼女にとっても、彼からもたらされるであろう数々の情報は興味深いものであった。


「いいですよ・・・、何から話しましょうか・・・」


「そうね、まずは身の上からでも話して貰おうかしら・・・」


「身の上ですか・・・?」


 村田はジェラルが求めてきた“身の上話”というお題について、何から話そうか悩む。直後、話の道筋が固まった彼は、自身の身の上について語り始める。


「そうですね・・・生まれから話しましょうか。私の出身は日本国の宮城県 仙台市という地方都市でして、牛の畜産と米の栽培が盛んでした。私が・・・」


 1つのテーブルを間に挟んだ2人の男女の語らいは夜中まで続く。村田の身の上、そして日本国についての話を聞きながら、ジェラルはそれらを楽しんでいた。しかし、ついに話のネタが尽きたのか、村田が次の話題に困っている様子を見た彼女は、満足した様子で笑みを浮かべながら窓の外へと視線を振った。


「・・・もう夜更けね。ここからじゃ分からないけど」


 ジェラルは窓の向こうを眺めながらそう言うと、椅子から立ち上がる。村田が腕時計を確認すると、すでに午前1時を指していた。


「傷も3日くらいで治るだろうから、それまではここでゆっくりとしていって貰ってかまわないけど、それで大丈夫? 仲間とはぐれたままでしょう?」


「・・・あ」


 村田はジェラルに指摘されて、自分が置かれている今の状況の不味さに初めて気付く。村田が持っていたトランシーバーは大空洞に落下した時の衝撃で派手に破損しており、資源調査団に連絡は取れない状態になっていたからだ。


「あの・・・私が、この大空洞に落ちてから目覚めるまで、どれくらいかかりました?」


「そうね・・・ほぼ2日」


「!!」


 村田は彼女の答えを聞いて驚愕する。調査団は1週間の探索期間を予定しており、最初にグラッスオール火山地帯に辿り着くまで道中で1日経過していた。グラッスオール火山地帯は東京23区に匹敵する広さを誇るとは言え、活火山が点在する火山地帯である以上、実際に探索が可能な範囲は割と限られて来る。めぼしい場所だけなら、恐らくは3日あれば回りきるはずだった。

 しかし、ここに大きな誤算があった。これは村田が知らないことであるが、調査団は彼がクレバスに落ちた直後、ライムとの接触に偶然にも成功し、その翌日にはライムの青年であるベロボーグの案内ですでに金鉱を見つけていたのである。


「で、では・・・早く彼らに合流しないと・・・不味い!」


「!」


 村田は置いてけぼりにされてしまう危機を感じて焦っていた。そんな彼の様子を見て、ジェラルも今の状況を察した。


「・・・ち、ちょっと待って。彼らに貴方の仲間たちを探索させるから!」


 ジェラルはそう言うと空中に手をかざす。直後、ジェラルの周りに可視化されたいくつもの霊魂が現れた。


「飛べ・・・、グラッスオール火山地帯へ!」


 ジェラルが上げた声と共に、無数の霊魂は天高く飛んでいった。地下大空洞から地上へ抜けた霊魂の群れは、一路火山地帯へと向かうのだった。

補足:劇中で「神々の干渉がある時がある」とジェラルが述べるシーンがありますが、神々は基本的に各世界に対しては無干渉・傍観であり、干渉は”世界崩壊レベル”の厄災でも起こらない限りありません。

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