極北資源調査団
5月4日 レーバメノ連邦北方 カトレア支分国 北端の国境線
首都出発の2日後、資源調査団計33名はついに、首都サクトアから北東方向に約600kmのところにある北限の国境線に面する村、「カトレア支分国」のパパニコロウ村に到着した。村の郊外に停車している陸上自衛隊の特大型トラック5台の荷台から、10式雪上車をはじめとする6輌の無限軌道車が降ろされている。
ちなみに今回の資源調査の為に動員した車輌・機材は次の通りである。
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<ロトム亜大陸資源調査団 装備品・車輌>
特大型トラック 5台
10式雪上車 3台
南極観測用雪上車 1台
73式中型トラック 3台
73式大型トラック 1台
ボーリングマシン 1台
BTR−D 1台
その他予備燃料等各種機材、及び各種武器
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ロシア陸軍の兵員輸送車であるBTR−Dは、主として猛獣を撃退するという任務を帯びている。積み降ろし作業の傍らでは、作業に参加していない陸自隊員たちが、ロシア軍兵士からレクチャーを受けていた。
「カラシニコフの使用方法は先日説明した通りです。まあ、大体は分かっているとは思いますが・・・」
ロシア陸軍のレオーンチェフ中尉は、ロシア製のアサルトライフルであるカラシニコフを手にしている陸自隊員たちに話しかける。今回はロシア連邦と日本との間に交わされている協定に基づき、護衛として調査団に参加している自衛隊員の装備品として、雪で濡らそうが泥水に漬けようが、問題無く作動する卓越した耐久性を誇るカラシニコフが、ロシア陸軍から自衛隊へ貸与されていた。カラシニコフを手にしている各隊員たちは、ロシア軍兵士の説明を受けながら、それを実際に構えてみたり、安全装置の場所を確認したりしながら、その使い心地を確かめていた。
尚、調査団の内訳についてだが、このパパニコロウ村で調査団は二手に別れることになっている。一方は、未開地域に足を踏み入れて鉱床の探索を行う”探索組”、もう一方は、パパニコロウ村に残って不測の事態に備え、いざとなれば日本本国との連絡と探索組の救援を担当する”待機・連絡組”である。
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<探索組の内訳>
資源調査員 10+1名
陸上自衛隊員 5名
海上自衛隊員(医療スタッフ) 2名
ロシア陸軍兵士 10名
10式雪上車 2台(1台は貨物・天幕運搬用)
南極観測用雪上車 1台
ボーリングマシン 1台
BTR−D 1台
<待機・連絡組の内訳>
陸上自衛隊員 5名
10式雪上車 1台(救援用)
特大型トラック 5台
73式中型トラック 3台
73式大型トラック 1台
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同日夕方
村の建物を借用して、調査団33名による翌日の資源調査に向けた最終確認が行われていた。
「明日にはいよいよ未開地域に足を踏み入れます。そこで今回の調査について、今一度おさらいをしておきましょう」
司会進行役である調査団団長の村田はそう言うと、一際大きな紙を取り出して壁に貼り付けた。それは衛星写真を元に国土地理院が作成したロトム亜大陸の詳細な地図であった。
「我々が目指す金鉱床の状況として分かっていることは、狩猟民族に認知されているということから、まず第一に”地表に露出していること”、さらに万年雪に覆われているこの地帯において”雪がさほど堆積していないこと”、そして50年前にレーバメノ国境の近くに来ていたライムが持ち込んでいたことから”ここから結構近いこと”です。
前者1つの条件なら、未開地域にある山岳の斜面のほぼ全てが当てはまりますが、残り2つの条件が当てはまる場所は、恐らくここしか無いかと思われます」
村田はそう言うと1枚の衛星画像を取り出し、再び壁に貼り付けた。
「”グラッスオール火山地帯”・・・衛星写真から見て分かる様に、恐らくは地底から伝わる地熱により、周囲と比較して地面が高い割合で露出しています」
ここまでの説明を終えた村田は一呼吸置くと、本国より届けられた新たな情報について語り始める。
「さらに今日の朝、本国より連絡がありました。約2ヶ月前の衛星画像にて、ロトム亜大陸の北部地域に”ライム”のものと思しき集落を確認したと」
村田が懐から取り出した衛星写真には、真っ白な雪上に小さい点がぽつぽつと集中している様子が見て取れた。
「!!」
調査団の面々は新たな情報に顔を見合わせる。
「して、その場所は!?」
調査団護衛隊長である輪島二尉は、やや興奮気味に尋ねた。
「このパパニコロウ村より、北北東へ約300kmの地点です」
村田は壁に貼り付けられた地図のとある地点を指差した。そこは先程の話に出て来たグラッスオール火山地帯にやや近い場所であった。
「結構近いのですね・・・。この50年で再び南下したのでしょうか・・・」
ロトム亜大陸の全景を写した地図を見ながら、輪島は村田に問いかける。
「しかし2ヶ月前の情報ですから、この2ヶ月で他の場所に移動した可能性もありますよ」
調査団の1人である神内一樹が述べる。調査団の面々は新たな情報に少し興奮気味になっていた。そんな中、呆気にとられていた調査団の1人が驚愕の表情で村田に問い詰める。
「ちょ・・・ちょっと待ってください。何故貴方方がその様なことを知っているのですか!? そしてその地図は・・・一体何処で?」
レーバメノ連邦国土庁から派遣された役人であるスパラスキー=チーフセルは、日本人が自分たちが所有しているものよりも明らかに精巧なロトム亜大陸の地図を持っていること、そして”ライム”の動向を把握していることに驚いていた。
(・・・教えるべきでしょうか?)
(まあ、隠しても仕方が無いでしょう・・・)
村田と輪島は顔を近づけ小声で話しあう。結論を出した2人はスパラスキーの方を向くと、人工衛星について説明する。
「これは我が国が、空よりも上にある宇宙空間と呼ばれる領域に打ち上げた人工衛星によって撮られたものです」
「ジンコウエイセイ・・・? ウチュウ・・・?」
スパラスキーは村田の説明の意味を全く解していない様子であった。それは仕方無いことだろう。
「とりあえず高〜い所から、地上の風景を写し取る術を我々は持っているということです」
村田は衛星写真について、最大限分かりやすくした説明を加える。
「何と・・・!」
スパラスキーは更なる驚愕の表情を浮かべる。目に見えない様な高い空の上から地上にいる自分たちの様子が丸見え・・・これほど国防という観点の上から脅威なことはない。彼は、日本と母国が友好関係を築いていることに、一先ず安堵するのだった。
「我々の最初の目的地はとりあえずここ、狩猟民族ライムの集落を目指します」
村田は第一の目標を”ライムとの接触”に定める。調査団が彼らとの接触にこだわる理由は、ライムは人間と比較して長命である故に、彼らが約50年前に確認した金鉱の場所について、その記憶を持っている可能性があるからだ。決して狭くは無いグラッスオール火山地帯(ここに金鉱があると決まった訳では無いが)を、当てもなく散策するよりかは確かに良いだろう。
「かかる時間は、何事も無ければ南極観測用雪上車の足の速さに合わせて1日あれば十分でしょうが・・・」
村田は含みを持たせる言い方をする。それも当然である。宝探しには障害が付きものだ。サクトアにおける協議にて紹介された各種猛獣然り、今までの調査団をはね除けてきた極寒の過酷な気候然り、現にこの村も季節は春だと言うのに、あちこちが未だ厚い雪に覆われている。
「覚悟を以て・・・資源調査に臨みましょう」
村田は締めの言葉を述べる。会議の終了後、調査団の面々は翌朝の出発に備え、十分に休息を摂って英気を養うのであった。
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翌朝
未開地域へと向かう4輌の車輌に、資源調査団”探索組”が厚手のコートを着て乗り込んでいた。
「では、お気を付けて・・・!」
”待機組”の代表である香川明美陸曹長が、団長の村田に敬礼をする。彼女の後ろに控えている4人の待機組の隊員たちも同様に敬礼をする。
「はい、万が一の時は本国への連絡を宜しくお願いしますよ」
村田はそう言って一礼すると、待機している10式雪上車に乗り込んだ。彼の乗車を確認した輪島二尉は、出発の号令を下す。
「全車輌出発! 前へ!」
彼の号令を合図に、”探索組”28名と機材を乗せた10式雪上車2台と南極観測用雪上車1台、そしてBTR−D1台、計4台が隊列を成して未開地域へと旅立つのであった。




