交流会
レーバメノ連邦 首都サクトア
港街ノーヴァルを出発した資源調査団は、首都サクトアへ続く街道を一列になって北上する。針葉樹林と荒野が広がる極めてのどかな風景の中を走ること約3時間。ついに調査団は首都サクトアへ到着した。
「やっと着きましたか!」
「はい! 思ったよりかかりましたね!」
特大型トラックのキャブの後部席に乗る村田の問いかけに、運転席に座る輪島二尉が答える。そして首都の郊外に辿り着いた彼らの視界の前に広がるのは、豪雪対策の為に傾斜のきつい屋根が建ち並び、色白な人々と白色の家畜が行き交う幻想的な風景だった。そんな様子の民家群を抜けると、一行は首都の中心部へとたどり着く。
レーバメノ連邦・・・計7つの支分国からなる連邦制国家であり、7支分国のそれぞれに君主が存在するが、対外的な国家元首は首都サクトアを擁するユリスク支分国の王が慣例として勤めている。その首都サクトアは、連邦の中心都市として大きく栄える街であり、民家群だけでなく、 中心部の貴族居住域にはロココ調を彷彿とさせる建造物が立ち並んでおり、それらは街が醸し出す幻想的な雰囲気を更に強めていた。
首都サクトア 国土庁
首都入りした資源調査団は、レーバメノ連邦の国土開発を担当する行政機関である国土庁を訪れていた。数人の護衛を引き連れ、建物の中に入る10人の資源調査団の前に1人の男が現れる。
「資源調査団の皆さん、ニホン国より遠路はるばる良くお越し下さいました!」
国土庁大臣のアレクサム=オステオサイトが、資源調査団に対して歓迎の意を示す。すると、彼の元へ調査団のうちの1人が近づく。
「此度、資源調査団の団長を勤めさせて頂いています、村田義直と申します」
村田は握手の為に右手を差し出す。アレクサムは自身の右手でそれを握り返すと、今後の予定について調査団に説明する。
「早速ですが、北部の未開地帯への出発は明後日を予定しておりますが、宜しいでしょうか?」
「はい、かまいません」
村田の言葉を聞いたアレクサムは、少しほっとした表情を見せる。
「ありがとうございます。長旅でお疲れでしょう、早速宿へご案内させて頂きます。明日は我々の方から、北部地域についての説明をさせて頂きます。また今宵は、ユリスク王陛下の城にて調査団の皆様の歓迎を兼ねた交流会が催される予定となっておりますので、是非ともご参加頂ければと思いますが・・・」
アレクサムの申し出を受けた村田は、背後に控えていた輪島二尉とレオーンチェフ中尉に耳打ちをする。数分後、話が纏まった様子の3人は再びアレクサムの方を向く。
「ええ、是非とも参加させて頂きたく存じます。貴国との交友の為にも」
「それは良かった! では早速宿へご案内しましょう」
村田の答えに、アレクサムは再び安堵した表情を見せた。その後、資源調査団とその護衛の計32人は、レーバメノ連邦政府が用意したサクトアで1番高級な宿へと案内された。
首都サクトア 宿「雪の都」3F
宿の従業員に先導され、部屋に案内された村田と、同じく資源調査団に属する河本源は床の上に荷物を置くと、長旅の疲れを癒すようにしてソファーに腰掛ける。
「すごいですね・・・まるで貴族にでもなった様な気分です」
河本がぽつりとつぶやいた。サクトアの中心街に位置し、貴族王族の屋敷と同じくロココ建築を彷彿とさせるデザインである宿「雪の都」の様相は、外見然りその内装然り、2人をまるでロシア帝政時代の貴族の様な気分にさせていた。
「まあ〜、こんな良い思いは中々出来ませんね!」
河本の言葉に対して、村田は意気揚々と答えた。2人は身体を命一杯伸ばしながらくつろぐ。その時、ドアをノックする音がした。
「はい?」
村田は立ち上がるとドアの方へ足を運び、ドアノブを回す。扉を開けた先には1人のメイド服を着た若い女性が立っていた。
「・・・!?」
20代前半、いやまだ10代だろうか、容姿端麗で尚且つ幼さが残る表情をしたその女性は、驚いた表情を浮かべる村田に会釈すると自らの素性を述べる。
「アンナ=パネートセルと申します。このお部屋のお世話係を勤めさせて頂きます。ご用の際はなんなりとお申し付け下さい」
予想外の出来事に少し驚いていた村田は、気を取り直すとそのメイドに話しかける。
「え、あ〜そうですか・・・分かりました。また何かあったら呼びますね」
村田はやや動揺した様子で対応する。そんな彼とは対照的に、アンナは落ち着いた声で”そうですか、では失礼致します”と言うと再び会釈し、ドアの前から去って行った。
(・・・びっくりしたなあ〜)
廊下の向こうに消えていく彼女を見送りながら、村田はため息をついていた。日本におけるメイド喫茶のそれとは違う本物のメイドの登場に、2人はちょっとした衝撃を受けていた。
・・・
同日夜 ユリスク王の城
その日の夜、国土庁からの使いが宿を訪れ、ユリスク王の城に招かれた資源調査団総勢32人は、”ユリスク王”ピトーライ=ツァーノマフ3世に謁見した後、レーバメノ連邦政府における各要人との交流会に参加することとなった。各テーブルには料理が並べられ、政府要人と資源調査団はワイングラスを片手に立食パーティー式で歓談を楽しんでいる。
「ほう、ではニホン人に魔力が無いというのは本当なのですか」
学術庁大臣であるトロフスク=ジョーヒルイは、調査団の代表である村田の言葉に驚いていた。
「はい。この世界の”魔法”には本当に驚かされますよ!」
「我々としては、魔法無しでリヴァイアサンを倒したという貴国の力の方が信じられませんがね・・・」
トロフスクは少し前に世界を騒がせた、アナン大陸での「リヴァイアサン討伐作戦」の事を語る。防衛省が艦上実験を行っていたレールガンが初めて実戦に投入されたあの一件は、日本国内だけでなく、この世界にも驚きを与えていた。
「しかし、死の民以外にこの世に魔力を持たない民族が存在するとは想像すらしませんでしたよ」
「ターネトス・・・?」
村田はトロフスクが述べたある単語に反応した。
「おや、ご存じ無いのですか。死の民とは『西方の七龍・イスラフェア帝国』の民のことです。火薬を生み出すことで、この世界の様相に大きな変革をもたらしたという点では貴国と似ておりますな」
「へぇ〜、まさか我が国の他に魔力を持たない民の国が存在したとは・・・」
村田はトロフスクの説明に深く頷いていた。
「それより魔法について知るならば我が国以上にふさわしき場所は有りませんぞ。このレーバメノ連邦の首都サクトアは古来より”魔法の学府”と呼ばれております。市内には魔法学術区域や、この国で古来より行われてきた魔法研究の歴史について展示されている施設があります故・・・」
「成る程・・・!」
村田は顎に手を添えながらトロフスクの話を聞いていた。この国で魔法に関する知識を得ることは、何らかの利益に成るかも知れない。そんなことを考えていた彼の様子を見ながら、トロフスクは話を続ける。
「もし興味がおありでしたら、貴方のお部屋付きの者にこの街を案内するように頼めば、案内してくれるはずです」
「・・・是非そうさせて頂きます」
数時間後、交流会は終わりを迎える。レーバメノ連邦政府の要人たちに別れを告げた資源調査団は、宿に戻ると明日以降の資源調査の準備の為の英気を養うのであった。
・・・
首都サクトア 宿「雪の都」
宿のフロントに宿泊客の1人であるスーツの男が来ていた。
「我々日本人は”魔法”について詳しくないので、古来より”魔法の学府”と呼ばれて来たこの街を是非貴方に案内して貰えと言われましてね」
村田は自室の担当であるという従業員メイドであるアンナに、トロフスクから言われた通り、街を案内するように依頼していた。
「ご命令とあらば、仰せの通りに致します」
アンナは淡々とした声で村田の頼みに応じる。
「それは良かった。では明日、国土庁との会合が終わった後・・・明日の昼過ぎにお願い出来ますか?」
「はい。お待ちしております」
アンナはそう言うと村田に頭を下げる。彼女の長い銀髪が、床に付かんばかりに垂れ下がっていた。
「・・・では、また明日」
そう言って部屋に戻る村田を見送ると、アンナもフロント裏にある住み込み従業員用の宿舎へと戻って行った。




