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旭日の西漸 第2部 大陸の冒険篇  作者: 僕突全卯
第2章 亜人大陸
31/48

決着! VSリヴァイアサン!

「あすか」 艦橋


 「あすか」から1.6km先にあるのは、我を忘れた様に怒り、咆哮を繰り返し、体をウナギの様に捻りながら「あすか」に接近しようとする怪物の姿だった。


グオオォオアァアァァ・・・!


「まるで“オルカアタック”だな・・・! 規模は桁違いだが・・・」


 戦闘指揮所(CIC)から海底に乗り上げたリヴァイアサンの様子を見て、艦長の岡橋二佐はつぶやく。彼の海獣の体表には、12式短魚雷による攻撃を受けた時に付けられたと思われる、いくつかの窪みの様なものが出来ていた。そこからは微量の出血が見られた。


(短魚雷の攻撃では掠り傷程度しか与えられんか・・・。しかし、陸上でも呼吸に苦がない様子を見るに、リヴァイアサンは哺乳類なのだろうか・・・いや、そんなことは今はどうでも良い)


 岡橋二佐は伝説の怪物の生態について考察していた。


「ははっ! ただ的がでかくなっただけです! むしろ好都合! 正気を失えば伝説の怪物も形無しですな!」


 航海長の松本三佐は、海底に座し海中より身動きが取りづらい様子のリヴァイアサンを見て、勝ち誇った様に述べる。だがその時、ついに“あの音”が海上に響き始めた。


キュイイィィィ・・・!


「リヴァイアサン、火炎ビームの充填と思しき行為を開始!」


「!!」


 シーホーク(SH-60K)の外壁を融解させ、撃墜させた火炎ビームの充填音が、再び辺り一面に響き渡り始めた。前方を見れば、こちらに向かって口を開け、今にも火炎ビームを飛ばそうとしているリヴァイアサンの姿があった。


『各艦に報告! こちら御法川! 目標内部に高熱反応!』


 電子・光学式照準システ(EOTS)ムによって、赤外線によるリヴァイアサンの前方監視(FLIR)を行っていた御法川一尉からも同様の報告が入る。リヴァイアサンの口腔内に熱エネルギーが集束されていたのだ。


(来たか! あれは1km以上の射程を持つビーム・・・!)


 リヴァイアサンが有する最大の脅威の登場に、岡橋二佐をはじめとする「あすか」艦橋の隊員たちは身がすくむ思いに捕らわれる。


「届くのか・・・!? あれを食らっては、レールガンの砲身が融解して使いものにならなくなるぞ・・・!」


 航海士の仲月二等海尉/中尉が独白する。作戦の肝であるレールガンが使えなくなっては元も子も無い。


「電力充填完了まで、あと何秒だ!?」


 岡橋二佐は焦りに満ちた声で戦闘指揮所(CIC)に尋ねる。


『コンデンサー2・50%、全体の75%充電完了まで残り16秒です!』


(まだ10秒以上あるのか・・・!)


 普段何気なくしていれば瞬く間に過ぎ去る16秒が、彼だけでなく狙撃隊に属する5隻の隊員たち全てにとっては永遠の様に長く感じられた。


キュイイイ・・・!


 リヴァイアサンから発せられる火炎ビームの充填音が一際大きくなる。その口腔内に光る火球は、今にも此方へ飛び出して来そうに思えた。


(もう発射してしまおうか・・・いや、我々は装弾筒付翼安定(APFSDS)徹甲弾をどれだけのスピードで発射すれば奴の装甲と魔法防壁を打ち破れるのかを、実際のところ全く知らない・・・! もしかすれば、半分の電力で済んだのかも知れない。いや、今の75%充電では足りないのかも知れない・・・!)


 永遠の様に感じられる刹那の時間の中で、岡橋二佐はあらゆる雑念と焦燥に捕らわれる。残り11秒の時の中で、彼はただひたすら自分自身の判断が正しかったことを祈る。


『充填完了まであと10秒!』


 戦闘指揮所(CIC)からのアナウンスが「あすか」の艦橋、そして艦内全域へと響き渡る。さらに狙撃隊5隻へもリアルタイムで通達される。


『9、8・・・』


(頼む・・・! まだ撃つな!)


 先程までリヴァイアサンの行動を嘲笑っていた航海長の松本三佐も、額に脂汗を流しながら祈っていた。彼ら航海科の隊員たちの視線の先にあるのは、口の中に紅い光を湛え、今にも火炎を放って来そうな怪物の姿だった。




「あすか」 戦闘指揮所(CIC)


「7,6・・・」

「目標は海上に静止! 射撃装置問題無し!」

「発射角度問題無し! 弾道は間違い無く目標を捕捉!」


 艦橋に上がった艦長の代わりに指揮を執る副艦長の南浦清明三等海佐/少佐の元に、各方面からの報告が届く。


(頼む、まだ打って来るな・・・!)


 南浦三佐も岡橋二佐や松本三佐と同様のことを祈っていた。


「5、4、3、2、1・・・電力充填完了! 異常無し!」


「発射!」


「はいっ!!」


 南浦三佐の命令と共に、砲術士によって射撃装置のスイッチが押される。直後、2基のコンデンサーに溜められていた電力が、レールガンのレールへと一気に流れる。


ズガンッ!


 先程の4分の3ほどの電力によってマッハ6弱で発射される弾丸、ローレンツ力によって押し出された科学の弾丸が、再び一直線に伝説の怪物へと向かって行った。




「あすか」 艦橋


『5、4、3、2、1・・・電力充填完了! 異常無し!』

『発射!』


 戦闘指揮所(CIC)で繰り広げられる会話は、艦内の通信によってリアルタイムで艦橋へ届けられていた。隊員たちはついにコンデンサーへの充電が終了したことを知る。だがその時、火炎ビームの発射音が海上に響き渡った。


ヒュウゥゥゥ!!


 ついに射出速度マッハ1に至るリヴァイアサンの火炎ビームが、「あすか」そしてその他4隻の狙撃隊へと発射されたのだ。


「なっ・・・!」


 岡橋二佐は言葉にならない声を出す。その刹那、前方の視界が真っ赤に染まった。


『発射!』


ズガンッ!


 戦闘指揮所(CIC)から南浦三佐の声が聞こえたかと思うと、リヴァイアサンが火炎を発射したその瞬間、レールガンから装弾筒付翼安定(APFSDS)徹甲弾が発射された。


「!!」


 音速の壁を貫く装弾筒付翼安定徹(APFSDS)甲弾は、4つに分かれた装弾筒を空中で分離させた後、リヴァイアサンの胸部、その中心へと向かって行った。秒速2km近い飛翔速度を持つ徹甲弾は、発射後1秒足らずで目標の表面に着弾する。


キャアアアァァァァ!!


 その衝撃のあまり、リヴァイアサンは一際大きな悲鳴を上げると、後ろに仰け反る。それによって、レールガン発射直前に発射された火炎ビームの照準が狂い、およそマッハ1の速度で発射されたそれは、「あすか」の艦橋の上部に設置されているレーダーを掠めながら虚空へと消えていく。


対水上捜索用レーダー(OPS-18)破損!』


 戦闘指揮所(CIC)からレーダーの破損が報告される、だが今は、その言葉は誰の意識にも引っかからない。そして魔法防壁を一点集中で突破した徹甲弾は、怪物の体表へと突き刺さる。17式空対艦(ASM-3)誘導弾でも12式短魚雷でも突破出来なかった表皮という名の頑健な装甲を、およそマッハ6の速度によって与えられた運動エネルギーを糧に、マッシュルーム状になりながら進んでいく。


ショアアァァ・・・


 徹甲弾が着弾し、侵徹した穴からリヴァイアサンの血が噴水の様に吹き出した。ついに徹甲弾が怪物の内臓に到達したのだ。装甲を突破した弾丸は、内臓や血管を引き裂き背中側の表皮へと到達する。すでに侵徹力を失ったそれは、跳ね返されて新たな内臓や組織を傷害していく。


ギャアアァアァァ・・・!


 体内を巡る激痛と、大動脈の傷害による大量の出血に耐えられないリヴァイアサンの悲鳴が、ホムンクルス王国の領海にこだまする。繰り返しの跳弾により、伝説の怪物の体内で暴れ回る徹甲弾は広範囲の内臓を切り裂いて行く。しかし、運動エネルギーを次第に失うそれは程なく停止する。


「・・・・」


 弾丸が止まり程なくしてリヴァイアサンの悲鳴が止む。先程とは一転して静寂が辺り一面を支配する。リヴァイアサンは上空を見上げたまま固まっていた。


「一体、どうなったんだ・・・!?」


 岡橋二佐がつぶやく。総司令の鈴木海将補も沈黙のまま事態を見守っていた。


「・・・おい! 倒れるぞ!」


 航海長の松本三佐が叫ぶ。リヴァイアサンの巨体が倒れ始めたのだ。


「総員、何かに掴まれ! 揺れに備えろ!」


 艦長の岡橋二佐の言葉に反応した隊員たちは、はっとした様子で我を取り戻した。艦内が少し慌ただしくなる。それは他の4隻も同様であった。


ザッパアアァン!!


 怪物の躰が海面、そして海底に叩き付けられる。それによって起こる震動と大波が狙撃隊5隻へと襲いかかる。


「うわああっ!」


 隊員たちは驚きの声を上げる。衝撃に耐えきれず、立っていた者はたまらず倒れ、計器の上に置かれていた物は全て床に落ちた。

 程なくして揺れが落ち着いた後、艦橋の隊員たちは窓の向こうに見えるリヴァイアサンの巨体を見ていた。


「・・・状況は?」


 岡橋二佐は双眼鏡を覗く航海員たちに尋ねる。双眼鏡を通して彼らの目に見えるのは、海底に倒れ込んだ伝説の怪物の巨体であり、その目はまるで生気を無くした様に明後日の方向を眺めていた。巨体の周りを見れば、弾傷から流れ出た大量の血液によって海は紅く変色している。




旗艦「おが」 戦闘指揮所(CIC)


 旗艦「おが」でも、総司令の鈴木海将補を含む隊員たちが動かなくなったリヴァイアサンの姿を確認していた。


シーホーク(SH-60K)を出して・・・怪物の死亡を確認するんだ・・・」


「了解!」


 鈴木の命令を受け、「おが」の飛行甲板から1機のヘリが離艦する。飛び立ったそれは、沈黙を続けるリヴァイアサンへと一直線に向かって行った。




海上 リヴァイアサン上空


 シーホーク(SH-60K)のパイロンから沈黙するリヴァイアサンへミサイルが発射された。それはリヴァイアサンの体表に着弾して爆発を起こす。しかし、リヴァイアサンは何も反応しない。その後、シーホー(SH-60K)クは海底に倒れ込んだままのリヴァイアサンの真上に停止する。かつてシーホーク(SH-60K)に対して繰り返し攻撃してきたそれも、今やされるがままになっていた。


「降下!」


 降下救助員の虻川海曹長がホイストケーブルを伝い、リヴァイアサンの元へと降りる。万が一、リヴァイアサンが目を覚ましたら、自分たちはひとたまりもない。彼や主操縦士の近江谷一尉をはじめとする乗員たちは、得も言われぬ緊張感に捕らわれていた。


「・・・」


 程なくして、虻川海曹長は怪物の巨体の上に降り立つ。リヴァイアサンは体表に着地した侵入者に対してもぴくりとも動かない。その後、彼は怪物の顔の方へと歩き出す。波打ち際の様にリヴァイアサンの巨体の上を行ったり来たりする紅い波で靴を濡らしながら、横向きに倒れているリヴァイアサンの左目を通り過ぎ、口元、そして鼻先の方へと移動する。


「呼吸の停止を確認・・・」


 鼻先にしても口元にしても、微動だにしていない。その後、彼は再び左目の元へ移動する。


「・・・」


 虻川海曹長は足下にある生気を失った巨大な瞳を見つめる。瞼が付いているのにも関わらず瞬きも無く、瞳孔も開いている様子だ。その後、シーホーク(SH-60K)から続いて降り立った2人の隊員も含めて、リヴァイアサンの死亡確認が行われていく。


「こちら虻川、リヴァイアサンの死亡を確認した!」


 シーホーク(SH-60K)へと戻った虻川海曹長によって、旗艦の「おが」、そして各艦へ”リヴァイアサンの死亡”が伝えられたのであった。




「あすか」 戦闘指揮所(CIC)


「倒した・・・のか?」

「倒した・・・」


 虻川海曹長から送られて来た報告を聞いていた隊員たちは、その刹那、半ば放心状態となる。


「倒したんだ!!」


「!! ・・・・ぃやったあぁ!!」


 副艦長の南浦三佐の声を合図に隊員たちは立ち上がり、喜びを露わにした。ガッツポーズを天に突き上げる者。ハイタッチをしあう者。抱き合い、喜びを分かち合う者。皆それぞれのやり方で喜びを表現し、戦闘指揮所(CIC)は狂喜乱舞に包まれる。




「あすか」 艦橋


 艦橋の方でも、航海科の隊員たちが喜びの舞を繰り広げていた。


「艦長! ついにやりましたね!」


「ああ! 我々の勝利だ!」


 艦長の岡橋二佐と航海長の松本三佐は、互いに腕を組み合って喜びを分かち合っていた。




旗艦「おが」 戦闘指揮所(CIC)


F−35B(デコイ)に帰還命令を!」


「了解!」


 鈴木海将補より、空を飛行してリヴァイアサンの誘導任務に就いていた御法川一尉の元へ帰還命令が下された。その後、飛行甲板にF−35Bが垂直着陸したことが航空管制室より伝えられる。鈴木は立ち上がり、戦闘指揮所(CIC)の全員、そして各艦に繋がっているマイクに向かって話しかける。


「みんな、お疲れ様! 我々の勝利だ!」


「!」


 総司令からの労いの言葉を耳にして、隊員たちは顔を綻ばせる。


「・・・貴方もお疲れ様でした」


 「おが」艦長の安東一佐はそう言うと、鈴木海将補に右手を差し出す。鈴木はその手を強く握り返すと、再びマイクに口を近づけ、語り始める。


「・・・この勝利は、ここにいる全ての隊員、そして全ての艦によるものだな・・・。本来なら所属もばらばらで、行動を共にするようなことは無いであろう面子が集ったのにも関わらず、見事な連携(コンビネーション)だった! ・・・指揮官として改めて礼を言おう、本当にありがとう!」


 総司令の言葉は無線を介して各艦に送られていた。旗艦を含む討伐隊8隻の隊員たちは、得も言われぬ嬉しさを湛えた表情を浮かべる。斯くして、リヴァイアサン討伐作戦は試験艦「あすか」の活躍により、討伐隊の勝利で幕を降ろしたのであった。


・・・


<今作戦の被害状況>

・負傷者5名

シーホーク(SH-60K)1機 大破

シーホーク(SH-60K)1機 中破

・「あすか」対水上捜索用レーダー(OPS-18)を含む一部の艦上構造物を破損

・「おが」艦底の一部に擦傷

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告が使用できないのでこちらで。 3割目くらいの (頼む・・・! まだ打つな!) 2か所です。射撃なのだから撃つなでいいかと。
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