作戦会議
※この作品はフィクションです。
「おが」の隊員たちが色々と知らないのは、説明の為の仕様です。
2027年2月10日 アナン大陸沖 海上
日本から派遣されたリヴァイアサン討伐隊が海の上を行く。その構成は護衛艦、海洋観測艦、練習艦、試験艦と言った、本来なら集う事のないであろう艦種が集った異色のものとなっていた。その中に試験艦「あすか」の姿がある。しかし、その前方の甲板には、本来なら無かったはずの艦砲らしき“砲身”が設置されていた。
「まさか、まだ実験段階のこいつを使うことになるとはね・・・」
「あすか」艦長の岡橋二佐は、艦の前方に鎮座する「砲身」を眺めながらぽつりとつぶやいた。試験艦「あすか」は2026年に予定されていた退役に合わせて、同艦で行う最後の開発実験として、とある最新兵器の開発に従事していた。
その兵器の名は「レールガン」である。
「レールガン」とはフレミングの左手の法則を原理として、物体を高速で発射する兵器である。具体的には、電位差のある2本のレールに伝導体製の弾丸を挟み、直流電流を流すことによって、弾丸に流れる電流と2本のレール上に発生する磁場の相互作用で発生するローレンツ力により、加速した伝導体製の弾丸を発射する。その射出速度は、既存の砲術兵器とは桁違いの速さを誇る。
原理そのものは第2次世界大戦時から知られていたが、電力供給や砲身の消耗など、クリアしなければならない問題が多く、長らく架空の兵器としてフィクションの中で扱われて来た。しかし2016年、アメリカ海軍が初の艦上実験を開始。フィクションであったはずの「レールガン」は“現実”へと変わった。日本政府も、「艦載電磁加速砲の基礎技術に関する研究」を長らく継続しており、2024年12月に初めて、試験艦「あすか」にて艦上実験を行うにまで至ったのだ。
・・・
同日 エルムスタシア帝国 首都エリー=ダレン 皇宮 皇兄の執務室
自室に籠もり、執務を行う“皇兄”シルドレア=ツェペーシュの元に、宰相セラレタ=オプティックが入室していた。
「『おが』艦長の安東殿より連絡がありました。間も無く、ニホン国からのリヴァイアサン討伐隊7隻がクルボッサに到着するとのことでございます」
「そうか・・・」
シルドレアはセラレタの報告を静かに聞く。彼の机の傍らには、“深紅の液体”が入ったワイングラスが置いてあった。
「・・・陛下。正直、私は不安に思います」
「・・・」
「いくら国交を締結する予定とは言えども、彼らは“人族”。さらには列強アルティーアを完膚無きまでに完敗させた新興の軍事強国なのですよ。その海軍が、我らがエルムスタシア帝国、さらにはアナン大陸の沖合に一時的とは言え、跋扈することになる・・・。そのこと自体に不安を唱える者も少なくありません」
セラレタは国内に日本海軍に対する脅威論が存在することを伝える。
「レンティスからの報告を見るに、やはり彼の国の軍事力と技術力は人智を超えています。それに、仮にリヴァイアサン討伐が成功したとして、その見返りに何を要求されるか・・・」
ここまでの話を聞いていたシルドレアは、ため息をつきながらワイングラスを手に取ると、ゆっくりと口を開いた。
「・・・“討伐の見返り”は彼らとの約束。それにリヴァイアサンによって我が国、そして“連合”が被って来た被害はあまりにも大きい。ニホン海軍も前回の調査で多大な損失を受けたと聞く。故に彼らの求める“見返り”には、ある程度の範囲までなら応じるつもりだ。・・・ただ、我らが民を害する様な要求を求めて来るならば、それはさすがに容赦出来んな・・・」
シルドレアはワイングラスに口を付けながら、厳格な表情で答えた。“世界最強の種族”と謳われる“吸血鬼族”の長が放つ雰囲気を目の当たりにして、セラレタは思わず息を飲んだ。
・・・
同日・夕方 エルムスタシア帝国 港街クルボッサ
2月10日の夕方、リヴァイアサン討伐隊・計7隻はクルボッサに到着した。強襲揚陸艦の「おが」に加えて新たに現れた異国の巨大軍艦群の姿に、クルボッサの街はちょっとした騒ぎになっている。港に集まる市民たち、便乗するようにして並び立つ出店、その中には日本製のカメラを持った“報道員”の姿もあった。
「ひゃー! エルムスタシアでニホンの軍艦がこんなに並んでいるのを見られるとは、壮観だな!」
「世界魔法逓信社」エルムスタシア支部所属の報道員であるエスティクル=テストステロンは、最近“本部”が試験的に導入した新機材である“カメラ”のシャッターを押しまくっていた。また、人混みの中にはアナン大陸の各国から派遣された武官、または偵察隊が紛れ込んでいた。日本によるリヴァイアサン退治は、すでにアナン大陸中に広まっていたのである。
・・・
「おが」多目的区画
討伐隊の到着後、「おが」の多目的区画に各艦8隻の幹部たちが集まり、今回の討伐作戦の全容について話しあっていた。
「5インチ口径、射出速度マッハ7.2、弾丸は装弾筒付翼安定徹甲弾・・・。現在、日本国が保有する砲術兵器の中で、間違い無く最高の貫通力を誇ります。何てったって、空対艦誘導弾が効かない化け物ですからね。最早出し惜しみは出来ませんよ」
「あすか」艦長の岡橋二佐は、「あすか」に搭載されている実験用電磁加速砲のスペックを紹介する。
「これで駄目だったら、諦めるか“核”しかないねえ〜」
討伐隊司令を務める鈴木海将補は、湯飲みをすすりながら間延びした口調で述べる。
「・・・退役済の練習艦を連れて来たのは何故ですか?」
「おが」船務長の賀藤二佐は、退役済の練習艦である「しまゆき」と「しらゆき」について尋ねる。海に浮かぶ2隻の右舷、もしくは左舷には、本来なら無かったはずの補給艦のプローブのような管が取り付けられていた。
「あれら2隻には改造を施し、2024年以降のレールガン実験に協力して頂いています」
「協力・・・?」
「はい」
岡橋二佐は説明を続ける。本来なら解体処分されるはずだった2隻は魔改造を施され、レールガンの艦上実験において“ある役割”を与えられていた。
それは“レールガンの電力供給源”である。すなわち、2隻のプローブは給油の為のものではなく、これら2隻に搭載されている主発電機によって作られた電力を「あすか」へと供給する為の、言わば“送電用ケーブル”なのだ。故に「あすか」の両側にも、これらのケーブルを接続するための、“コネクター”が新たに設置されていた。
「・・・故にこれら2隻には、すでに護衛艦としての機能は備わっていません。『あすか』専用の“電力艦”として開発隊群に編入されているのです」
岡橋の説明を聞いた「おが」の隊員たちは驚きの表情を見せる。
「また海洋観測艦の『しょうなん』については、リヴァイアサンの所在地を探るという本来の任務の他に、可能であればアナン大陸の海洋データを取って来るようにという特命が下されています」
岡橋二佐は防衛省、及び経産省から伝達された命令について説明する。これは、主に油田を初めとする海底資源の調査が目的であった。日本政府はエルムスタシア政府に要求する“見返り”として、この世界では未だ何の価値も無い海底の石油資源を視野に入れていた。
「次にこの作戦の主役である“レールガン”について詳しい説明を致します」
岡橋二佐は手に持っていた資料をめくりながら、レールガンの説明を続ける。
「スペックは先程述べた通りですが、我が国のレールガンは未だ開発途中故、留意すべき点がいくつかあります。1つ目は、弾丸の速度故に砲身の消耗が著しく、その耐久に限界があり、そう何度も発射出来ないこと。2つ目に、発射の度に著しく電力を消費し、その供給の為の時間を要するので、従来の単装砲や速射砲の様に連射が出来ないことです。これら二点をご留意ください」
岡橋の言葉を聞いていた幹部たちは、納得した表情を見せる。
「次に、リヴァイアサンをどのようにして海上におびき寄せるかですが・・・」
岡橋二佐は次なる議題に入る。そもそもレールガンを使用する為には、海洋生物であるリヴァイアサンをどうにかして海上におびき出す必要がある。本作戦の一番の懸念とも言うべきこの議題に、「おが」飛行長の東海林二佐が手を上げ、意見を述べ始める。
「それについてですが、リヴァイアサンは海中及び海上にて、大きな音を発する物体を襲撃する習性があるようです。以前の調査でシーホークが襲われ、一機が撃墜されたことはご存じかと思います。故に今回の作戦では、F−35Bを海面すれすれに飛行させ、その轟音でリヴァイアサンを呼び寄せるのが良いかと。F−35Bのスピードならば、リヴァイアサンの火炎ビームに捕まる可能性は低いでしょう」
「成る程・・・ね・・・」
鈴木海将補は東海林二佐の提案に納得した素振りを見せる。その後、様々な意見が出された作戦会議は深夜まで続いた。




