VSリヴァイアサン! 壱
ホムンクルス王国 沖合
小人の観戦武官と共に20式水陸両用車に乗り、ホムンクルス王国へ派遣されていた3人の自衛官「おが」へと戻る。そして彼らと共に「おが」へ上陸したホムンクルス王国の観戦武官であるバルトネラ=ヘンセレが目にしたのは、洋上に浮かぶ巨大な空間だった。
「・・・ここは?」
広大な空間を見上げるバルトネラに、同じく水陸両用車から降りていた賀藤二佐が説明する。
「ここは『おが』艦内のウェルドッグ及び格納庫です。この艦は“強襲揚陸艦”という艦種でして、陸上部隊の揚陸を主任務としております。今は、格納庫内は空に近い状態ですが、上陸作戦を行う際には各種陸上装備・車輌などをここに満載する訳です」
「ほぉ〜・・・」
バルトネラは少し間の抜けた声を出す。その後、彼は賀藤二佐によって飛行甲板へと案内される。そこでは2機のシーホークが翌日の「戦力調査」のために準備をしていた。
「ここが飛行甲板です。ここから発着する航空機によって陸上部隊・物資の輸送、及び敵地への攻撃を行います」
潮風を身に浴びながら、バルトネラは広大な飛行甲板を眺める。彼の目線からは海は見えず、四方に黒い大地と黒い地平線が見えるだけであった。
「・・・黒い島だ」
バルトネラは唯々呆然とする。「おが」の巨大さを目の当たりにした彼は、その様を見て「おが」を島に例えていた。
〜〜〜〜〜
1月22日 「おが」 多目的区画
ホムンクルス王国に到着した翌日、「おが」の多目的区画に乗船している隊員たちが一同に会し、これから行うリヴァイアサンの戦力調査について話しあっていた。
「今回の目的は敵の戦力評価である! 怪獣と戦うのは我々自衛隊の伝統! 諸君には先輩方に恥じぬ働きを期待している」
「おが」艦長である安東一佐の言葉に隊員たちが呼応する。会議終了後、参加していた隊員の1人である二木健祐海士長が、艦長が述べたある一言について上司の小牧江利介二等海尉/中尉に尋ねる。
「あの、“先輩”って誰のことですか・・・?」
「昔の怪獣映画に出てくる自衛隊のこと」
安東一佐は怪獣映画の大ファンであり、それが切っ掛けで自衛隊に入隊したという過去を持つ。その事を知っていた小牧二尉は素っ気なく答えた。
「おが」 戦闘指揮所
作戦決行へ向けてすでに各員が配置についており、命令が発せられるのを待っている。海獣との対峙という、地球ならばまず直面することは無い任務に皆、心なしか緊張している様子である。
「対潜捜索準備!」
副艦長である賀藤二佐の口から命令が下る。作戦開始の火ぶたが切って落とされた。
「対潜捜索準備!」
艦内各部へと伝えられるその命令に、全員が気を引き締める。ついに始まった「リヴァイアサン討伐作戦」、その第一段階である戦力調査が開始された。
「航空機、準備でき次第発艦!」
再び賀藤二佐の口から下された命令は、艦内の通信により艦橋付近に位置する航空管制室へと伝えられた。
「おが」 航空管制室
飛行長の東海林二佐から、甲板上で待機している哨戒ヘリコプターのシーホークへ指示が飛ぶ。すでに乗組員の搭乗は済ませ、いつでも飛び立てる状態であった。
「周囲の空域、甲板上に異常は無い。シーホークは直ちに発艦せよ」
東海林二佐に指示を受けてシーホークの回転翼が回り始め、甲板上に居る整備員にその風圧が当たる。
「発艦!」
その直後、2機のシーホークが、主操縦士のかけ声と共に「おが」の甲板から飛び立った。彼らの任務は捜索海域に“アクティブ式ソノブイ”を配置することである。
「おが」を始めとする「しまばら型強襲揚陸艦」には、いずも型護衛艦と同種のソナーと対魚雷防御装置が設置されているが、アスロックの様な対潜ミサイルや魚雷発射管といった対潜兵器も同様に装備しておらず、艦そのものには対潜戦闘能力は無い。
故に今回の作戦では、「おが」はリヴァイアサンが出現しないと推測され、尚且つ艦が航行できる水深の海域に引きこもり、リヴァイアサンの捜索は対潜哨戒機であるシーホークによって、ホムンクルスの領海内の各地点に設置されるアクティブ式ソノブイを使って行われることになっていた。
「おが」 戦闘指揮所
「航空機、発艦!」
船務士の栗田二尉が、航空管制室からの通信を伝える。数分後、シーホーク2機がそれぞれのソノブイ設置地点へとたどり着く。
「各機、敷設ポイント上空に到達しました」
「各機、ソノブイ投下! 対潜見張りを厳と成せ!」
「おが」からの命令を受けた各機から、計2つのソノブイが投下される。その後、次なる地点へと移動した各機から再び2つのソノブイが投下され、最終的に計6つのソノブイが日の文字状に並べられた。
「ソノブイ6基、設置完了!」
栗田二尉からの報告を聞いた船務長の賀藤二佐は次なる命令を下す。
「アクティブ捜索開始!」
命令を受けたシーホークの乗員たち、そして戦闘指揮所の隊員たちはソノブイから発せられるソナー音が映し出す画面を注視する。「おが」は目標の海獣がソナーにかかるのを待つことになった。
そして1時間後、待ちに待った敵がついに現れる。
「・・・チャンネル1付近に水中を高速で移動する巨大な影を確認! 形状及び大きさから目標は海獣らしい!」
水測員長の小花夏生海曹長/兵曹長から、海中を行く巨大物体の発見が報告される。同時にシーホークからも、「おが」の戦闘指揮所へ同様の連絡が入る。艦内には一気に緊張が走った。
「・・・来たか! その速度は!?」
賀藤はソナーによって映し出されたリヴァイアサンと思しき影の速度を尋ねる。
「敵生物の速度は推測で46ノット! チャンネル1に急速接近しています!」
「・・・ソノブイに接近?」
賀藤二佐は小花海曹長の答えを聞いて怪訝な表情を浮かべる。直後、とんでもない報告が戦闘指揮所へと入ることになる。
「チャンネル1の発信が消失!」
「何!? まさか・・・食われたのか!?」
賀藤二佐は頭を抱えながら消えたソノブイの行方を考察する。どうやらリヴァイアサンと思しき“それ”は、ソノブイが発するソナー音が気に入らなかった様だ。
「巨大潜水物は今何処にいる?」
船務長の問いかけを受けて、小花海曹長は再び画面を注視する。
「・・・分かりません! 他のソノブイにはそれらしき影は確認出来ず!」
「・・・くそっ!」
小花の報告を聞いた賀藤は、悔しそうな表情を浮かべながら天井を見上げる。リヴァイアサンと思しき巨大潜水物を見失ってしまった事実を前にして、戦闘指揮所は緊迫した空気に包まれた。
「シーホークに連絡! チャンネル1及び周辺海域の状況を確認し、新たなブイを敷設!」
艦長である安東一佐が発した命令は、すぐさま巨大潜水物を見失った海域の付近を飛んでいるシーホークへと伝えられた。
シーホーク 機内
戦闘指揮所が騒ぐ中、空を飛ぶシーホークの方でも、突如姿を消した巨大潜水物を必死に探っていた。
「『おが』より連絡! ソノブイの有無、周辺海域の状況を確認し、リヴァイアサンの行方を探れ!」
航空士の佐々木隆司二等海曹/二等兵曹が、2人の操縦士に母艦からの指令を伝える。命令を聞いた主操縦士の平元斉一等海尉は、操縦桿を握りながら佐々木の方へ振り向く。
「了解したと伝えろ!」
その後、平元一尉が操るシーホークは、消えたソノブイが存在した地点へと機首を向ける。リヴァイアサンはイルカの様に海中から飛び上がる能力を持つことが分かっており、エルムスタシア国防庁によって確認されている跳躍の最高到達点は、海面からおよそ40mであった。シーホークはそのことを踏まえ、ディッピングソナーは使用しないことになっていた。
「設置地点上空に到着!」
シーホークは海上の様子を確認する為、海面から90mまで近づく。そして佐々木航空士が左舷のバブルウィンドウから海面の様子をのぞき込む。そこにはソノブイのものと思われる部品が浮遊していた。
「ソノブイの破損を確認。周囲に敵影無し。新たなブイを敷設する」
直後、シーホークの機体から新たなアクティブ式ソノブイが投下される。その時・・・
ドッパアァン!
「えっ・・・」
平元一尉は思わず気の抜けた様な声を出す。ソノブイ投下と同時に海中から黒い巨大な影が急に浮かんで来たのだ。それは瞬く間に海を隆起させ、シーホークの乗員たちにその姿を現す。
「うわあぁ!」
深紅の巨体、龍の様な頭部、そして他の海獣とは明らかに一線を画す凶悪な表情、ついに伝説の怪物リヴァイアサンが海の中から、その姿を白日の下に晒したのである。リヴァイアサンは空を飛ぶシーホークへ食らいつく様に、海中から飛び上がった。しかし主操縦士である平元一尉の咄嗟の反応により、シーホークは海中からの攻撃を回避する。
「何てことだ! 想定していた跳躍の最高到達点を遙かに超えている!」
記録されていたリヴァイアサンの最高到達点は海面から約40mであった。しかし、リヴァイアサンの牙は海面から100m上空にまで達し、上空90mを飛んでいたシーホークを正確に襲って来たのだ。100mの大ジャンプを披露したリヴァイアサンは、重力に引かれて海へと落下していく。巨体の落下によって数十mはあろうかという巨大な水柱が立ち上がった。
「あぁ〜・・・まずい! コントロールを失っている! 高度が上がらない!」
主操縦士の平元一尉は空中で暴れる機体を墜落させまいと必死に操縦桿を握る。間一髪でリヴァイアサンの攻撃を回避したシーホークだが、海獣の頭部をヘリの機体に掠め、一時的にコントロールを失ってしまい、機体は大きく乱れていたのだ。彼らからは見えないが、ヘリの右側面には大きな傷とへこみが出来、ヘリの右足は大きく歪んでいた。
ドッパアァン!
再び海中から深紅の巨体が姿を現す。平元はサイクリック ・スティックを振り切り、必死にその攻撃を回避する。しかし、シーホークの機体は再び大きく乱れた。




