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旭日の西漸 第2部 大陸の冒険篇  作者: 僕突全卯
第1章 アテリカ帝国
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61

「『61』?」


 新田は聞き慣れない名前に首をかしげる。近衛兵のキャピラはそんな彼に「61」について説明する。


「簡単な数字ゲームです。積まれた『シーズナルカード』を交互にめくり、出た数字を足していく・・・」


 「シーズナルカード」とはこちらの世界における言わばトランプである。スートの種類数は変わらないが、数が1から12まであり、カードの合計枚数は48枚とトランプより少ない。なおスートは春夏秋冬の季節からなる。

 そして「61」とはそのシーズナルカードで行う遊戯の中でも、最も単純なゲームの1つである。出たカードの点数を足して行き、自分の順番が回って来たときに自分がカードをめくれば点数が“61”を越えると感じたら、“ステイ”を宣言する。“ステイ”を宣言された側は、次に自分がめくるかどうかを決める。もしめくる選択をして、数が61を超えなければめくった側の勝ち、61を超えたら“ステイ”を宣言した側の勝ちとなる。

 また互いにステイを宣言せずにめくり続けて、途中で61を超えたら、当然最後にめくった側の負けになる。しかし、数が61きっかりになった場合はその時点でゲーム終了、最後にめくった側の勝ちとなる。両者ともめくらない選択をした場合は引き分け。しかし、引き分けを宣言出来る回数は1人1回までである。通例としてゲーム数は”7”。その中で引き分けが起こりうる限度は2回までである。

 また、各カードの点数の内訳は、“春と冬のカード”は書かれている数通りの点数(1〜12、1は1か13にするかを選べる)、“夏と秋のカード”は一方が1点ずつ、一方が点数無しになり、それはゲームごとに交互に変わる。

 ゲームルールの概要を聞いた新田は、その内容について考察する。


(運の要素が強そうだが・・・)


 一見、完全に運に左右される様に思えるこのゲームなら、初心者の自分でも十分に勝機がある。そんなことを考えている彼に、キャピラは耳打ちで注意する。


「一見単純で、運と直感に左右されるゲームですが、故に奥は深いです。気をつけて下さい・・・」


「よし、大体ルールは分かった・・・始めようか・・・」


 新田はロークとテーブルを挟んで向かいになるように席につく。すると、ロークの手下の1人である華奢な男が、座っている2人に近づいて来た。


「一つ、不正は無し。一つ、負けた方は賭け金(ベット)の支払いに異議を唱えない。一つ、ゲームで失った賭け金(ベット)はゲームでしか取り返せない」


 華奢な男はヨハンで賭博を行う際の3つの絶対ルールを述べる。


「これらのいずれかを破れば、賭け(ゲーム)はご破算、その者に償いを! 誓うか?」


 男はプレイヤーに宣誓を求める文言を述べる。一息置いた後、プレイヤー2人は同時に口を開いた。


「誓う!」


「では、証明の契約を!」


 華奢な男がそう言って差し出した1枚の紙には、2名分の署名欄があった。ジュペリア大陸の文字が読めない新田は、キャピラにその書面内容を読んで貰う。


「・・・先程の3つの掟を遵守することを誓うという証文書です」


 その説明を聞いた新田は、再びロークの方を向く。


「・・・随分と用心深いんだな」


 新田はたかが1個のバッグと1丁の拳銃の賭けに誓約書まで交わすことに不信感を抱きながら、ロークに問いかける。


「踏み倒されちゃかなわねぇからな・・・これで正式に法の下の賭博となる訳だ・・・。なに・・・証人も居るから安心して負けて良いぜ」


「・・・?」


 ”盗んだバッグを賭け金(ベット)にした挙げ句、少女の命を人質にとっている奴が何を言っている“、脇から見ていた野村二尉はそう言いたいのを我慢する。その後、ロークと新田は交互に証文書の署名欄にサインを書く。


「これで逃げられねえぞ」


「逃げるつもりは毛頭無い。そちらがこれ以上、不正をしない限りはな・・・」


 両者はお互いに睨みつけ合う。他の4人はその様子を固唾を飲んで見守る。ロークはテーブルの下から10枚のコインを取り出す。彼はそのうち5枚を新田に渡すと説明を始める。


「そいつが銃を示すコインだ。俺のは鞄だ。互いに5枚全てを取って初めて相手の賭け金(ベット)を奪えるものとする。良いな?」


「・・・」


 彼の説明を黙って聞いていた新田は渡されたコインを手に取ると、その枚数を確認した。


・・・


第一ゲーム 0点:「夏のカード」 1点:「秋のカード」

賭け金(ベット) ローク “謎の”バッグ(5枚)

     新田  9mm拳銃(5枚)


・・・


 先手後手を決めるため、両者はテーブルの中央に山積みにされたシーズナルカードに手を伸ばし、任意のところでめくり返す。


「春の1!」


「秋の12・・・」


 シーズナルカードは季節順にスートの強さが決まる。すなわち春>夏>秋>冬の順に強い。より強い前者の“春の1”をめくったのはロークである為、第一ゲームの先手は彼に決まった。


「先手後手は交互に変わる・・・次のゲームの先手はあんただ・・・」


 ロークはゲームのルールについて追加の説明を行う。


「じゃあ、様子見に“バッグ”を3枚賭けようか・・・」


 ロークはそう言うと、場に3枚のコインを差し出す。その様子を見ていた新田は沈黙していた。


「おや、もうこのゲームを降りるのかい?」


 ロークは“怖じ気づいたのか”という含みを持たせて、下を向いたままの新田を挑発する。


「・・・銃を3(コール)枚!」


 直後、沈黙を保っていた新田は場に3枚のコインを投げ出す。2人は互いにベットを終える。新田がカットを終えた後、ついに新田のバッグと野村二尉の9mm拳銃、そしてニイナの命を賭けたゲームが始まった。ロークは山積みにされている48枚のカードから1枚目をめくる。


「春の3!」

「・・・秋の12」

「はは、夏の8!」

「冬の5・・・」

「冬の4!」


 その後、2人は順調にカードをめくる。しかし、合計点数が徐々に61に近づくにつれて、新田はカードをめくる手が震えて来る。対してロークは慣れているのか、顔色1つ変える様子はない。それどころか、余裕であることを誇示する為か、新田の顔を見下す様にふんぞり返った体勢で此方を見てくることもあった。


「春の6!」


 7ターン目、ロークがめくったカードでついに合計点数が50点台に突入する。


(ここで、もし春か冬のカードで11か12を引いたら負け・・・! いや、残りのカードは35枚、その中から引いてはいけない4枚の内、どれか引く確率は限りなく低い!)


 新田はあらゆる思考を巡らせつつ、緊張しながらカードの山に手を伸ばす。


「・・・! 春の7!」


 思わぬ高得点カードの出現に驚き、新田は一瞬血の気が引いてしまう。そんな彼とは対照的に、ロークは余裕ある様子でカードの山に手を伸ばす。


「秋の2」


 再び新田に順番が回って来る。めくられたカードの合計点数は、このとき“59”にまでなっていた。


「・・・ステイ!」


 ついに耐えきれなくなった新田はステイを宣言してしまう。


(・・・いや、早い!)


 キャピラは彼のステイ宣言が早すぎることを悟る。


「良いのかい? じゃあ、俺はめくるとしよう・・・」


 ロークは怪しげな笑みを浮かべると、山積みのシーズナルカードに手を伸ばす。


「・・・!」


「・・・よっし、秋の4だ! さあ、こいつはありがたくもらうとするぜ!」


 秋のカードは”1点”。すなわち最後にロークがカードをめくった時点で合計点数は”60”であり、61は超えない。勝負に勝ったロークはテーブル一面に右手を伸ばし、抱きかかえる様にして場に出された6枚のコインをかっさらう。キャピラの予測通り、ステイの宣言が早すぎたのだ。


「・・・次のゲーム(Next Game)だ」


 負けを取り返なければならない新田はつぶやくと、場に1枚のコインを差し出す。


「7ゲーム終わる前に、コインが無くなっちまうかもなあ・・・その時は、別のもので上乗せ(レイズ)して貰うことになるから覚悟しておけよ・・・」


 ロークは先程までのおちゃらけた声とは打って変わり、ドスの効いた声で新田、ひいては他の4人に向かって忠告を飛ばす。彼らはロークの言葉を聞いて戦慄した。


・・・


第一ゲーム 勝者ローク

ゲーム終了時点の賭け金(ベット) ローク “謎の”バッグ(5枚)

                 9mm拳銃(3枚)

             新田  9mm拳銃(2枚)


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― 新着の感想 ―
この章は退屈で、彼らが負けるのは確実で、私はこの役に立たないゲームを読まずに、結末だけを見ました。
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