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旭日の西漸 第2部 大陸の冒険篇  作者: 僕突全卯
第1章 アテリカ帝国
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捜し物

今回は一見、官僚がかなりだらしない話ですが、後の展開に必要な話なので、我慢してください

12月26日 首都セーベ 宿「緑栄亭」5F 遠藤と新田の部屋


 東の地平線から日が昇る。輝く朝日の光は世界屈指の国際港湾都市に差し込み、街並みを照らしていた。その光は宿「緑栄亭」の窓からも差し込み、客室の床の上に倒れている2人の男に当たっている。


ピピピッ!


「うう〜、おえ・・・!」


「!!」


 スマートフォンのアラーム音が聞こえる朝、新田は驚いた様子で目を覚ました。うめき声がする方を見れば、隣で遠藤が苦しそうな様子で悶えていた。恐らくは二日酔いか何かだろう。


(二日酔いですか、だらしがないな・・・。しかし・・・俺はいつ眠りについたんだ?)


 新田は二日酔いに苦しむ遠藤に呆れた様子で視線を向けていた。しかし、彼も昨日の記憶が曖昧であり、遠藤を笑える立場には無かった。恐らく酔ったまま眠ってしまったのだろう。


(たしか部屋に戻った後にワインを飲んで・・・)


 新田は朧気な昨夜の記憶を必死に辿る。部屋を見渡してみると記憶通り、空になった1本のワインボトルがテーブルの上に置いてあった。さらには2つのグラスが床の上に落ちている。それは昨日、彼と遠藤がワインを飲む為に使った宿のグラスであった。


(まさか・・・酔っ払ってそのまま寝てしまったのか? いや、2人でワイン1本飲んだくらいでそんなはずは・・・)


 新田も遠藤も、別に酒に弱い訳では無い。普段ならこの程度の飲酒量で寝落ちする訳が無かった。にも関わらず新田は酔って寝込んでしまい、遠藤は二日酔いに苦しんでいる。


(疲れていると酒が早く回るというし・・・多分旅の疲労が祟ったんだろう・・・)


 新田は酔いつぶれてしまった理由を考察する。その後、遠藤と新田は軋む体を起こしつつ、宿から出発する準備を始めた。ひげを剃り、寝癖を直して、服を着替えた後に荷造りを始める。


「あん? あれ・・・、あれ!?」


 その時、新田は急に焦った様子を見せる。直後、彼は部屋中を回って捜し物を始めた。


「どうしたんですか?」


 遠藤が彼に問いかける。新田は不安げな声で答える。


「バッグが無い・・・」


「バッグならあるじゃないですか」


 遠藤は先程まで新田が荷造りしていたバッグ、すなわち小さなキャリーケースを指さす。


「いや違うんです。財布とかパスポートとかが入っていて肩にかける・・・」


「・・・いつも持ち歩いていたボディバッグのことですか!?」


 遠藤はようやく事態が飲み込めた。新田が探していたものは、財布や外交旅券などの貴重品を入れていたボディバッグであり、新田が肌身離さず持っていたものであった。


「まさか・・・泥棒!?」


「!?」


 遠藤の言葉を聞いた新田は途端に青ざめる。


「金貨銀貨を確認しろ!」


 遠藤は新田の指示を受けて、すぐさま自分の旅行用バッグの中に保管していた貨幣入れを確認する。


「・・・ありました。こちらは盗まれていません」


 遠藤はそう言うと、外交公費として外務省から渡されていた、ジュペリア大陸の金貨銀貨が入っている袋を取り出して新田に見せた。軍資金が無事であったことに2人は安堵する。さらに部屋をよく見れば、泥棒に入られたにしては荒らされた様な形跡は一切無い。


「もしかしたら・・・」


 これらの事実を前に、遠藤はもう1つの可能性を示唆する。


「1階のレストランかなあ・・・? ・・・いや、でも絶対に持って帰って来たと思うんですが・・・」


 新田は再び昨晩の記憶をたどる。しかし、昨晩部屋に帰って来た後は両者共に酔いが回ってしまっており、記憶に確信が持てない。その時、彼らの部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。


「新田さん、遠藤さん! 出ますよ!」


 声の主は子門であった。彼女は朝になっても中々1階に降りて来ない上司と先輩を呼びに来たのである。新田は事の顛末について話そうかと考えたが、子門に何と言われるかを思い浮かべて躊躇してしまう。


「新田さん、遠藤さん? 先に行きますよ!」


 ドア越しの子門は部屋の中に居る2人に、先にロビーへ行くことを伝えた。その後、2人の外務官僚は部屋の更なる捜索を行う。




宿「緑栄亭」1F ロビー


 それからおよそ30分後、子門は中々上の階から降りて来ない2人の官僚男にいらだっていた。


「遅い・・・遅いですよ!?」


 すでに宿を出る予定時刻は過ぎている。アテリカ帝国皇太子のサリードや陸上自衛隊員たちなど、新田と遠藤を除く使節団のメンバーは1階に集まっていた。そしてしばらく後、新田と遠藤はさえない顔でようやく降りて来た。子門は2人に駆け寄ると、大きな声で先輩2人を叱りつけた。


「遅いですよ! 今日は朝から食糧調達とニイナさんの隊商探しをしなくてはならないのに!」


 新田と遠藤は頭を垂れたまま、彼女のお怒りを聞いていた。すると新田がゆっくりと事の顛末を語り始める。


「あの〜、少し申し上げにくいのですが・・・」


 上司である新田が部下である自分に対して敬語で話し始め、何か好ましくないことを伝えようとしている。子門は嫌な予感しかしなかった。その後、新田は財布や外交旅券を入れて肌身離さず持っていた筈のボディバッグが無くなっていることを説明する。


「バッグを無くした!?」


「ついでに、その中に入っていた財布やパスポートと免許証、その他もろもろも・・・」


「はあ!?」


 上司の言動に呆れてものも言えなくなった子門は、手で目を覆い天井を見上げる。その様子を見ていた野村二尉が新田に尋ねる。


「どこに置いて来たか、目星はあるのですか?」


「部屋に無かったので恐らくはレストランかと、でも・・・絶対に持って帰って来た様な気がするのですけどね・・・」


「・・・?」


 新田は目星を語る。子門はその言葉に少し違和感を抱く。確かに新田は少し抜けているところのある上司だが、あくまでも使節団の代表を任される身である。そんな観光客の様なミスをするのだろうか。


「とりあえず店の主人に聞いてみましょう」


 サリードはレストランの主に拾得物の有無が有るか否かを尋ねることを提案する。その後、彼らは昨日に夕飯を摂った「緑栄亭」1階レストランへ向かった。




「緑栄亭」1F レストラン「海の都」


 このレストランは「緑栄亭」に外付けされる様に増設されたものであり、「緑栄亭」の主人であるプテリゴとは別の店主が切り盛りしていた。そして今、店の外で芋の皮むきをしている男が居る。新田と遠藤はその男に近づく。


「やあ、あんたたちは昨日の夜の!」


 皮むきをしていた店主は2人の官僚に気付き、声を掛けた。またその後ろには、服装が選り取り見取りの奇妙な団体がいた。彼ら15人の姿は店主の記憶に強く残っていたのだ。その後、新田と遠藤は店主に事の顛末を説明する。


「悪いね、お客さん・・・そんなものは無かったと思うよ。確認するかい?」


「お願いします」


 店主は2人を開店前の店に入れる。他の日本人9人も、彼らに続いて店の中に入りバッグの捜索を行う。テーブルの下、椅子の上、カウンターの上、トイレ・・・あらゆるところを探すが、目当てのものはどこにも無かった。

 そして30分後、捜し物を続ける男女に、店の主人はその成果を尋ねる。


「どうだったかい?」


 新田はその問いかけに首を横に振って答える。


「駄目ですね・・・見つかりません」


「やっぱりかい・・・盗まれちまったのかなあ、すまないね。気付かないで」


「いえ、私の不注意が悪いのです・・・」


 その後、捜索を終えた彼らは店主にお礼を言うと、店を出て次なる作戦を考える。




「緑栄亭」 正面玄関前


「盗品は大概、闇市に流されます。この広いセーベの市場の中から探し出すのは至難の業ですよ・・・まあ、官吏の派出所に届け出がある可能性が無い訳では無いですが・・・」


 近衛兵の1人キャピラ=シヌソイドが盗品の行方について述べる。後者の可能性は著しく低いという含みを持った言い方を聞いて、彼らの顔色は暗くなる。ここは日本ではない。落とし物や忘れ物を官吏の派出所に届け出る者などほとんど居ない。この世界では無くした者が悪いのだ。所持物とは、まさに持ち主の手を離れた瞬間から皆のものとなるのである。


「諦めるのはまだ早いです!」


 新田は使節団の面々を鼓舞する。子門や野村二尉、遠藤は誰のせいでこんな事態になったんだという恨みの感情を込めた目で彼を睨み付けた。


「とにかく、手分けして探しましょう!」


 そんな彼らの視線など気にもとめず、新田はポジティブシンキング全開で語る。


「私も協力させて頂きます!」


 恩返しの為か、ニイナだけは彼の提案に乗り気である様だった。子門はそんな彼女に心配そうな声で問いかける。


「貴方はご自身の隊商を探さないと・・・」


「いえ、それはいつでも出来ますから! 恩返しさせて下さいな!」


 ニイナは屈託のない満面の笑みで答えた。彼女はセーベの地理に詳しい様子であるし、手を貸してもらえるならば確かに心強いだろう。


「ではまず当初の予定通り2手にわかれましょう。皇太子殿下を含む5人の方々は、73式トラックを市中に移動させて下さい。その他の方々は買い出しの傍らで新田さんのバッグを探しましょう」


 野村二尉が今後の行動について提案する。その後、宿を出た一行は当初の予定通り、トラック準備班と買い出し班に分かれ、買い出し班10人は4組に分かれて市中の市場を捜索することになった。

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