ひきこもりからの脱出
この家に来てから3週間になる。
世の中には「引きこもり」という奴がいるが、おれはそいつらに言いたい。
「どうせ引きこもるなら、なぜもっと自由に好きな場所で引き込もらないのか?」と。
1か月前までのおれは
仕事を辞め部屋にこもり、パソコンばかり見ている奴だった。
ただ俺の場合は多少アクティブな面もあったため
時々フラフラと近所のパトロールをしていた。
そんな時、ふっと偵察にいった同級生の女の家。
昔少しだけ付き合っていた女の家だ。
大学を卒業して2年
その女がこの町の飲食店で働いているのはSNSか何かで知っていた。
風のうわさというやつだ。
当然実家に住んでるのだろうと、偶然を装い「女に会えたらいいな」と
何日か通ったが、結局合うことができなかった。
1週間ぐらい経ち「本当に女がここにいるのか?」と
少々不安になり、塀を超えて女の家に忍び込んだ。
2階に女の部屋があるのは調査済だったため、その様子を見るのは屋根裏しかないと思い
夜中に屋根まで上がり通気口からまんまと忍び込んだ。
鉄筋の梁はしっかりしており、その上を歩けば、音も聞こえないだろうと思えた。
一角に約2帖ぐらいのもの置きになるスペースがあり
そこなら、悠々横になることもできた。
下からもの音というより、幽かな寝息が聞こえた。
翌日、女やその家族が外出しているであろう昼の時間に、屋根裏から抜け出し ホームセンターでキリを買って戻ってきた。
念のため音をなるべく立てず、穴をあけた。
小さく貫通した穴を除くと 十分すぎるぐらいにしっかり見えた。
スマホをいじっているところ、着替えているところ、雑誌を読んでいるところ、寝ているところ、女の全部を監視できた。
毎日少しずつ、昼に抜け出し、自分の部屋の布団や枕、雑誌、時計などを取りに帰り、この屋根裏に運んでやろうと思った。
コツコツとやる事が嫌いだった俺が、毎日コツコツ、我慢強く荷物を運んだ結果
ここはもう、しっかり俺の部屋となった。
昼に、部屋に降り立ちコンセントも2つ確保できたので
たこ足を使えば、スマホも充電ができるしお湯だって沸かせる。
最近は、女の部屋を覗くこともしていない。
マンションの下の階に好きだった女が住んでいるような感覚だ。
いつでも覗けるという興奮もあるが、極端に狭い、変わったところで生活しているという興奮のほうが大きい。
明日はバイトの面接にいく。
ぷー太郎だった俺は住むところを変えて、人生にやる気が出てきた。
ここは、風水的にも良い場所なんだと思う。