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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第四部 魔族侵攻篇

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「反りが合わない二人」

 イリス達と宗太郎達が合流した次の日。

 今度は紅葉と奏を連れた宗太郎と拓馬は改めて四人でイリス達の元を訪れていた。


「あ、あの。ようこそいらっしゃいました……」


 ギルドの奥にある一室へ案内するのは藍色の髪を腰の辺りまで伸ばしている少女……天秤の片割れであるリリィだ。この日はカミラに用事があり、代理としてリリィが宗太郎達を案内することになっていたのだが、そんな事情を知らない宗太郎は完全に二人を同一人物と間違えて話しかける。


「あれ……昨日と随分雰囲気違いません? それに髪も伸びてるし……」

「その子はカミラの双子の妹。リリィよ」


 宗太郎の間違いを正すイリスは昨日と同じく、最高級のソファに座って踏ん反り返っていた。

 窓から差し込む光が室内の壷や大型時計、絵画などの調度品を照らす室内で会話の口火を切るイリスは足を優雅に組み替えながら宗太郎達を見渡す。


「さて、お互い話すことは色々ありそうだけど、ひとまずその前にはっきりさせておかないといけないことがあるわ……貴方達、本当にカナタの味方なの?」


 じろり、と効果音がつきそうな視線で宗太郎達を見るイリスは核心に触れる質問を飛ばす。

 それに対する宗太郎の回答はあっさりとしたものだった。


「ええ。そうですよ。だからこそこうしてカナタの助言に従ってケルンまでやってきているんですから」


 四人を代表して答える宗太郎の言葉に、しかしイリスは納得していない様子だった。


「カナタを騎士団に突き出すためにやってきた、という可能性がないわけではないわ。あまり見ない顔もいることだしね」


 そう言ってイリスが視線を送るのは昨日はいなかった紅葉と奏の二人だ。

 イリスは王都にいた時、この二人とは何の接点も持っていなかった。そんな彼女から見れば突然現れた二人組み。疑り深い彼女にとって用意に信用できるような相手ではなかった。


「見ない顔って……何よそれ。そっちだってあたしからすれば見ない顔よ!」


 そして、イリスの物言いに即座に反発するのが赤坂紅葉という少女だ。彼女からしてみればカナタを追って辿り着いた街でなにやらカナタのことを"知った風に"語るイリスは心情的に受け入れにくいものがあった。


「見ない顔は見ない顔よ。貴方、カナタとはどういう関係なの?」

「だからそれはこっちの台詞! あたしとカナタが一体何年付き合ってきたと思ってるのよ!」

「知らないわよ。でもカナタの口から貴方の名前を聞いたことが一度もないのだけは事実。つまりカナタにとって貴方はその程度の価値しかなかったってこと。分かったかしら、"誰かさん"」


 まるで挑発するかのようなイリスの態度にムキになって言い返す紅葉。ここまで相性の悪い二人もなかなかない。放っておけば取っ組み合いになりそうな二人を止める奏とステラ。


「ちょっと落ち着いて、紅葉ちゃん!」

「イリス様も、今日はお話をする為に集まってもらったんじゃないですか!」


 二人の制止もあり、何とか暴力沙汰は避けられたが室内は微妙な雰囲気に包まれていた。


「……カナタがいればもう少し落ち着くのかね」

「そう願いたいよ」


 その一部始終を見ていた拓馬と宗太郎は揃って溜息をつきたい気分だった。個性の強すぎる女性陣に完全に呑まれているのだ。


「そういえば、ケルンにも遠征に出ているグループがあったはずだけど。そっちのほうはどうなってるんだろ」


 ポツリ、と宗太郎の口から漏れるのは王都にいた頃依頼を受けて各地へ遠征に出た三つのグループに関することだった。一つは森達のグループ。これは魔獣討伐の任を受けており、すでに王都へ帰還しているグループである。

 その組と違って、宗太郎達が王都を出るまで戻ってこなかったのが二組。一つはノインにて情報を集めている藍沢のグループ。そしてもう一つが……


「確か上原のいるチームだったか」

「うん。カナタがいなくなってから随分落ち込んでいたみたいだったから。心配だよ……」


 上原麻奈はかつてゴブリン討伐の際に拓馬と宗太郎、そしてカナタと同じチームに所属していた。その頃のことがあって、二人は上原とはそれなりに付き合いのある仲だったのだが、カナタが魔族に連れ去られて以来どことなく疎遠になってしまっていた。


「出来るなら合流したいよね」

「何、貴方達誰か探しているの?」


 宗太郎と拓馬が話し込んでいると、割り込むようにイリスが口を挟んできた。紅葉とはソリが合わないということで物理的に引き離されてこちらへとやってきたのだ。


「うん。上原さんっていう、僕達と同じ召喚者なんだけど、今この街に来ているはずなんだ。もしかしたらもう移動しちゃっているかもしれないけど……」

「貴方達と同じ召喚者ということは、その人も黒髪黒目なのよね? だったら思い当たる人がいるわ。カミラに貴方達の捜索を頼んでからすぐに見つかったのだけど、人違いと分かってすぐに帰って貰ったのよ」


 イリスが思い出すのは先日、カミラに連れて来られた女の子のことだった。

 その時は人違いということで完全に意識から外してしまっていたのだが、今の宗太郎達の会話で思い出したのだ。


「ならそいつが今、どこにいるか分かるか?」

「そこまでは聞いていないわね。名前は一応聞いた気がするけど……忘れちゃったわ。興味ないことは覚えないタチなのよ、私」


 当てにならないイリスに少しだけ肩を落とすが、召喚者らしき人物がこの街にいると分かっただけでも収穫だ。外見的特徴から見分けやすいので、探す事もそれほど難しくはないだろう。


「それならもう一度見つけたら今度こそ、捕まえて置くように頼んでもらえないかな?」

「それは……どうかしらね。その人達は本当に信用できるの?」


 宗太郎の頼みに眉を潜めるイリス。

 宗太郎は短い付き合いではあるが、なんとなくイリスの性格を分かり始めていた。この部屋に入ったときにも聞かれたことだが、この少女はとんでもなく慎重な性格をしているのだ。だが、それも指名手配されているという身の上を考えれば分からないでもない。


「イリスさんが心配なら、そうだね……僕達にだけ会えるようにしてくれればいいよ。もちろん、僕達はイリスさんが王都でやったことは誰にも言わないから」

「……貴方の言葉が嘘ではないという保障はどこにもないのだけれど……いいわ。後でカミラに頼んでおく」

「ありがとう、イリスさん」


 にっこりと笑みを浮かべる宗太郎。紅葉とは逆にイリスとの相性はかなり良さそうだった。その様子を見てこれからは宗太郎をイリス担当にしようと、ひっそりと決意する拓馬。彼もイリスからは好かれていないので、宗太郎の存在は非常に助かった。


「それで貴方達はこれからどうするの? 私達のようにカナタを待つつもり?」

「そうだね。とりあえずはその方針になるかな? 王都から出るのが目的だったわけだし、今のところ別の場所へ移る気はないよ」

「そう……だ、だったら一つ、頼み、があるのだけれど」


 すっ、と視線を逸らし、非常に言いにくそうに噛みまくるイリス。人に頼るということが極端にへたくそな彼女は恥ずかしさ故か、頬を赤く染めて何とか言葉を搾り出す。


「私達は王都で誰かに嵌められた。その事実に関して私はどこまでも追及するつもりよ。だけど私は王都の内情に関して詳しくないから、その……力を貸してくれると助かる、というか……」

「……いいよ」


 その様子を背伸びする子供を見るかのような温かい眼差しで見る宗太郎は二つ返事で了承した。


「どの道僕もそのことでカナタに協力するつもりだったからね。力になれるかは分からないけど、僕に出来る範囲でなら何でも聞いてくれていいから」

「……あ、ありがと。貴方……良い人ね」


 もしこの場にカナタがいたら、イリスの言葉に飛び上がって驚いていただろう。世界すら斜に構えて見ているイリスがこんなことを言うなんてまさに驚天動地。天変地異の前触れと疑わずにはいられない珍事である。

 そして、そのことを自分らしくない態度だと自覚しているのかイリスは照れ隠しの変わりに傍にいた拓馬を指差し、言い放つ。


「そして、貴方は悪い人よ」

「何でもかんでもオチを付けないと気が済まないのかよ、お前」


 拓馬からしてみればイリス達に対して思うところは全くないので、この対応はいい加減やめてもらいたいところであった。しかし、そう思われても仕方ないことをしているのだし、最早慣れっことなった対応に諦めに似た心境を抱えるしかない。


 拓馬がやれやれと言わんばかりに肩をすくめて見せる。その時だ。

 騒がしい足音が廊下から聞こえてくるかと思えば──バンッ──と勢い良く小部屋のドアが内側に向けて開かれ、額に汗を滲ませるカミラが飛び込んできた。


「リリィ! いるか!?」

「お姉ちゃん? どうかしたの?」


 室内を見渡し妹の姿を発見したカミラは真っ先にリリィの元へ飛んでいき、その小さな手を握り締める。


「リリィ、すぐに避難するんだ! ついでにそこのお前らも!」


 その場の全員に向け、号令を飛ばすカミラ。だが、あまりにも突然のことにその場の誰一人行動に移すことが出来なかった。


「ちょっとカミラ。どうしたのよ。貴方らしくもない。魔族でも襲撃してきたのかしら?」


 ひとまず落ち着くようにと冗談を交えてカミラへ話しかけるイリス。

 しかし……


「……そのまさかだよ」


 この場、この瞬間においてそれは余りにも笑えない冗談であった。

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