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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第四部 魔族侵攻篇

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「新しい同行者」

 クレイとカグラの襲撃から三日が経った。

 いまだ俺はノインの村に滞在している。というのも、魔族の襲撃はなぜか今回村を半壊する程度の被害で収まっていたのだ。今までは再起不能なまでに壊滅させられていたというのにだ。

 とはいえノインの西側は人が住めるような環境にはなくなっている。そのため、今は東側の宿を探して借り受けているのだが魔力の回復や装備品の新調にかなりの時間を食ってしまった。

 早いところケルンへ向けて、移動しなければ。


「…………」


 ふと頭を過ぎるのは三日前の戦闘のこと。

 俺はあの日、クロのおかげでクレイの拘束から逃れることが出来た。もしクロが助けに来てくれなかったら俺はあのまま死んでいただろう。そういう意味でクロは俺の恩人だ。

 だからこそ、今の現状は俺にとって贖罪に近い。

 この……




「お兄さーん。お腹すいたからお団子買ってきてー」




 クロの奴隷としてこき使われている現状は。



「……なあ、クロ。お前の怪我もそろそろ良くなってきてるんだし自分で買いに行くという選択肢はないものだろうか?」

「ないね。自分で買う団子より、お兄さんに買ってもらった団子のほうが美味しいし」


 味は変わらないだろうが、と突っ込みを入れたくなるが返ってくる反応が予想できるので口には出さない。その代わりに潔く俺は外でお団子を買って来ることにした。

 三日前、死に瀕したクロの前で俺は一つの誓いを立てた。


 それは大切な人を守るための誓い。

 もう二度と、大切な人を失わないための誓いだ。

 俺が弱かったから、クロは死にかけた。ならばその代償は俺が支払わなければならない。そうでなくては採算が取れない。

 その一つの代償行為として団子をクロへと献上する俺は、ついでに容態も確認しておくことにした。


「クロ、傷の具合はどうだ」

「んー? もう、大分治ってきたよ。剛力の天権は肉体の活性、つまり自然治癒力の増加にも機能しているからね。どうしても痕は残っちゃうけど……」


 そう言って病人用のベッドの上で服をまくりあげ、その素肌を晒すクロ。以前見たシルクのようなきめ細かい肌の一部が赤黒く変色してしまっていた。それは切り傷にしてはあまりにも不自然な傷跡。


「……悪いな。俺のせいで」


 女の子の体に消えない傷を付けてしまったことに罪悪感を禁じえない。

 俺はあの日、クロの傷を塞ぐために灼熱の剣でクロの傷口を焼いて治療したのだ。治療と言えるようなものでもないけど、あの場ではそれ以外の方法が思いつかなかった。

 バツの悪い顔を浮かべる俺に、クロは気丈に笑って答える。


「お兄さんのせいなんかじゃないよ。あのままだったらクロは間違いなく出血多量で死んでたんだから」

「でも、その原因を作ったのは俺がクレイに捕まっていたからで……」

「もー、そんなこと言い出したらキリないでしょ! クロがいいって言ってるんだからいいの!」

「でも……」

「でもは禁止!」


 ビシッ、と鼻先に突きつけられるクロの指先。

 その仕草はどうも苦手なので止めてもらい、クロの横で俺もベッドに腰掛ける。たとえ、クロが良しとしていても俺には納得できないこともある。


「……クロ、俺はお前に助けられた。なのに俺はお前に何も返せていない」

「だからそれは……」


 またも口を挟んでくるクロの唇に指を当て、物理的に口を閉ざさせる。俺はどうしてもここで言っておきたい言葉があった。


「ケルンまで付き合ってくれるのもそうだ。俺はお前に恩を返したいんだよ。与えられるだけで何も返さないってのはどうにも気持ちが悪い。お前が俺に何も求めていないってのは分かってる。だけどそれでも俺はお前に何かをしてやりたいんだ。そのことだけは分かってくれ」


 俺の言葉にクロはじっとその藍色の瞳で覗き込む。

 そっと指を離すと、クロは少しだけ何かを考え込んだ後、俺の背中にぎゅっとその体を密着させてきた。


「気にしないでって言ってもお兄さんは気にしちゃうんだよね? だったら一つだけ……約束しない?」

「約束?」

「うん。何があってもクロのこと、嫌いにならないって約束」


 クロが提案してきた約束は俺にとって思いもよらない内容だった。俺がクロを嫌いになることなんてない。すでに返せないほど大きな借りがこの少女に出来てしまっているのだ。嫌いになるどころか、頭すら今後上がりそうにない。


「本当は色々言いたいことはあるんだけどね。傷の責任とって、とか。でも今のお兄さんだと本当にその通りに行動しちゃいそうだからさ。そういうのってなんか違うと思うし、クロがお願いするのはそれだけでいいの」

「……分かった」


 もう少し具体的な内容のほうが俺としては気が晴れたのだが、クロがそういうのだから仕方がない。もう少し時間をかけて彼女のためになることをしてやろう。


「それとケルンへ向けてそろそろ移動するぞ。今から行っても間に合わないとは思うが……それでもどうなったかぐらいはこの目で見ておきたい」

「そうだね、魔族の情報も入るかもしれないし。クロはもう完治したからいつでもいいよ」

「だから動けるなら団子くらい自分で買いに行けよ……」


 嘆息する俺に、てへっ、と小さく舌を見せて微笑むクロ。

 可愛いから許す。


「体の調子が戻ったならそうだな……明日の朝にはここを出よう。昨日あたりから"もう一人の同行人"がうるさくてな」

「その人もケルンに急ぎの用事があるんだっけ? なら悪いことしちゃったかな。クロのせいで時間取らせちゃって」

「怪我なら仕方ないだろ。それにお前の旅道具がないとそもそも話にならないんだから好きなだけ待たせておけばいいさ」

「うーん。お兄さんってその人のことになると辛らつだよね。何かあったの?」

「別に。昔色々あっただけだ」


 クロの追求を言葉少なにかわしておく。アイツとの関係性を説明するのは色んな意味でしんどいからな。


「それじゃ、俺は出発の日時が決まったことを伝えてくる」

「ん、分かった。早く帰ってきてね。今日はまだお兄さんで遊び足りてないからもう少し構ってくれないと駄目だよ?」

「……出来ればそこはお兄さんと、って言って欲しかったよ」


 最早諦めに近い感情を抱いたまま、俺はその宿を後にする。

 一気に人の少なくなったノインの村を歩きながら向かうのはもう一人の同行人のところだ。今回から俺達と共にケルンへ向かうことになった同行人は俺達とは別の宿を取っており、そこで毎日連絡を交わすことにしていた。

 辿り着いたその部屋の前で、俺は二度ノックを繰り返す。


「来たぞ……藍沢」


 俺の声に反応してか、やがてガチャリと扉を開いて顔を見せるのは藍沢真……俺と同じ、召喚者の一人だ。憔悴し、疲れきった表情の藍沢は声をかけることもせず、部屋の中へと戻っていく。いつ来ても同じ対応なので俺ももうすっかり慣れてしまった。無言のまま、室内に上がらせてもらうと日当たりが悪いのか、部屋はどんよりと薄暗く靄がかかっているかのような雰囲気だった。


「それで……日取りは決まったのか?」


 俺は室内を見渡していると、唐突に藍沢が俺に聞いてきた。


「ああ。明朝に出発することになった。準備は間に合いそうか?」

「ふん。準備ならとっくに出来てる」


 鼻を鳴らして答える藍沢はしかし、体の節々に包帯を巻きつけており到底満足に動けるような体には見えなかった。


「なあ、もう少し治療に時間を取ったほうがいいんじゃないのか?」


 そんな言葉が口から出かかったが、途中で飲み込んだ。そんなことを言ってもこいつが止まるはずがないからだ。何があったのかはこいつと再会した日に全て聞いた。仲間を全員殺された藍沢は魔族に対して恨みを抱いているようだ。分からない感情ではないが、相手が悪すぎる。戦闘向けの天権でもない藍沢に仇が討てるかどうかは甚だ疑問だった。


「……用事はそれだけだ。また明日な」

「ああ……」


 しかし、それを言っても仕方がない。

 事はすでに出来るか出来ないかなんてレベルの話ではないからだ。

 最後に一応の挨拶を残し、俺は宿へと戻ることにした。


 正直、心情的には藍沢に力を貸すことに全く抵抗がないわけではない。こいつが宗太郎にしたことを俺は忘れたわけじゃないからな。だが、藍沢と再会したあの日、事情を説明し合うと相沢は持っていた金銭全てを俺に指し出し、言ったのだ。


『俺をケルンまで送ってくれ。俺はアイツに……魔族に返さなくちゃならない借りがあるんだよ』


 あの時藍沢が見せた目は忘れられそうにない。

 そのことがあったからこそ、俺は不本意ながら藍沢のやりたいようにやらせてやることにした。俺も同じ復讐者として、もしかしたら共感する部分があったのかもしれない。


(でもまさかあの藍沢と行動を共にすることになるなんてな)


 最近、人生とは思い通りにならないものだと思うことが増えた。主に悪い方向に、というのが辛いところだ。だがそれでも歩みを止めるわけにはいかない。藍沢から貰った金で食料品や借り馬の調達も出来たのだし、今は好き嫌いで行動している場合ではない。


 今は一刻も早くケルンへ辿り着かなくてはいけないのだから。同行人が増えることはそのまま旅の行軍速度にも影響してくるだろう。

 願うのはイリス達が無事であること。

 焦りや確執を飲み込み、俺はただそれだけを願っていた。

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