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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第四部 魔族侵攻篇

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「もう一人の召喚者」

 ノインの街並みが戦火に包まれる少し前のこと。

 カナタが耳にしたこの村に訪れているという召喚者、四人一組のチームの一人、藍沢真は宿で借り受けた自室にて同じ仲間から詰問を受けていた。


 彼を見つめる視線は都合三組。


 それぞれ彼とは中学からの付き合いである西村愛莉、東野聡、北宮信二の三名である。彼らのグループはこうして遠征に出ているが、森達のチームとは違い諜報をメインにした部隊だ。

 藍沢の天権、『嘘』と同じく彼らの天権はそれぞれ『透過』『幻覚』『探知』と戦闘以外での実用性が高い。そのためこうして魔族に関する情報を集めるよう、ルーカスから言われて旅に出ているのだが……


「なあ、藍沢、俺たちいつになった王都へ戻るんだよ」

「そうよ。魔族の情報についても収穫があったんだし、一度戻りましょう」

「正直この生活にも疲れた。これ以上はもうついていけない」


 彼らは任務が完了しているのにチームのリーダーである藍沢の指示により、王都への帰還を先延ばしにされているのだ。そのことに疑問を覚える彼らに対し、いつも決まって藍沢はこう答えていた。


「王都へ戻ってどうする? また飼い殺しの日々に戻るつもりかよ」

「それは……確かに訓練はきついけど、面倒は少ないし飯だって豪華だ。こんな辺鄙な村でだらだら過ごすよりはよっぽど有意義だと思うけど」


 東野の狭い考え方に藍沢は内心「そういうことじゃねえんだよ」と目の前の仲間に愚痴を吐き捨てる。藍沢が考えているのはもっと広い視点の話。王国側の狙いについてだ。魔族と戦わせようという彼らの考え方は分かるし、事実そうして欲しいのだろう。だがそれにしては自分達にもたらされる情報があまりにも少なすぎる。


 そのことについて藍沢は深い疑惑を抱えていた。

 カナタや只野仁志が気付いたように、彼もまた王国が自分達に何かを隠していることに薄々だが感づいていたのだ。


「王都に戻るのはいつでも出来る。王都を離れている今だからこそ、今にしかできないことをするべきだ」

「そうは言うけど……このままだと路銀すら尽きそうだぜ?」

「そんなもん、いざとなったら冒険者家業でも始めればいいだろ。とにかくまだ俺は王都へ帰るつもりはねえ」

「間単に言うぜ、まったく……」


 仲間達の間に明らかに不満がたまっていることを藍沢は気付いていた。気付いていて、それを無視した。同じチームであり、良くつるんでいた友達ではあるが彼らに対して藍沢が期待していることは何もない。最悪、自分の元を離れたとしても構わないとすら思っている。


 藍沢真が望んでいるのは真実。


 彼は幼少の頃から嘘をつかれるのが大嫌いだった。始まりは両親のついた嘘、父親の不倫が母親にばれ、不仲になりながらも彼らはそれを子供に隠した。彼が事の次第に気付いたのは全てが手遅れになってからだった。

 父親が家族に対してついた嘘、母親がわが子に向かってついた嘘、それらは藍沢の価値観を大きく揺るがした。自分の信じていたもの、足元が崩れ落ちるような錯覚にすら襲われた。


 それ以来、彼は分かり易い人種を好むようになった。


 今付き合っている彼らもそうだ。周囲に流され、自分という強い自意識を持たない彼らと付き合うのは楽だった。いちいち彼らの言葉が嘘かどうか気にしなくて良かったからだ。しかし、それもこの異世界においては悪いように作用する。


 自分を疑わない人間は他人も疑わない。


 それが藍沢の持論だった。そして、王国に対し何の猜疑心を持たない彼らとの考え方の違いをまざまざと見せ付けられ、少しばかり嫌気が差してもいた。


「ほら、分かったらお前らも部屋に戻れ」

「…………」


 そっけないその言葉にしかし、顔を見合わせるだけで出て行こうとしない仲間達に藍沢は顔をしかめる。


「どうした。俺は出て行けと言ったぞ」

「……悪いけど、俺たちはここまでだ」

「あ?」


 唐突に告げられた言葉は北宮からのものだった。


「俺たちは俺たちで王都へ戻る。今回の話し合いでお前がどういう結論を下そうと、事前にそれは決めていたんだ。藍沢も一緒に来てくれれば嬉しかったんだが……」


 その先から口を噤み、黙り込む北宮に藍沢は溜息を一つ。


「そうかよ。それなら俺のことはもういい。こっから先は別行動だ」

「ね、ねえ。今からでも一緒に行きましょうよ。私たちずっと四人でやってきたじゃない。今更こんな、置き去りみたいなの、嫌だわ」


 その場で唯一の女生徒である西村がそう言うが、藍沢の心は変わらなかった。


「ここに残るのは俺が決めたことだ。そして、王都へ戻るのもお前らが決めたことなんだろ? だったらそれでいいじゃねえか。こんな世界に来てまで必要以上にべったりする必要はねえ」


 その一言が別れを決定付ける一言となった。

 すぐにでもここを去るつもりだったらしい三人は荷物をまとめ、宿を去る。それを見送りに宿の外まで付き合う藍沢に三人は申し訳なさそうな顔をしていた。


「気にすんな」


 藍沢にはそれしか言えなかった。

 彼らは自分に対し嘘をつかなかった。自分に黙って王都へ戻ることも出来たというのに、だ。藍沢にとってはその当たり前とも言うべき誠実さだけで十分だった。


「それじゃあ、お前もすぐ王都へ戻れよ? 俺たち、待ってるから」

「ああ。調べたいことが全て終わったら戻るよ」


 最後に手を振り、別れようとする、その寸前のことだった。


「──ッ! 誰だッ!?」


 突然、北宮が大声をあげ背後に振り向いたのだ。

 彼の天権は『探知』。彼が常時から"敵意"を持つ者に対してアンテナを張り巡らせていることを知る彼らは揃ってその方角へ体を向ける。それぞれに懐からナイフや剣など、武器を手に取りながら。

 そして、その方角にいたのは……




「ふむ……なかなか鋭い観察眼を持っているようだな。俺の隠行を見破るか」




 黒のダークコートを羽織る、いかにも不吉な相貌の男だった。すらりと伸びた体躯はまるで影と同化しているかのような存在感のなさだ。恐らく北宮の天権でなければ直接見たとしても認識できなかっただろう。


「なるほど。どうやら探知系の天権を持つ者がいたようだな。となると……貴様、キタミヤシンジだな?」

「っ!? お、お前なんで俺の名前を……ッ!?」

「気にするな。とある捕虜から聞き出しただけのこと。それに……」


 北宮が男に向け、意識を集中した。その瞬間、


「──これより死に逝くお前には何の価値もない情報だ」


 男は北宮のすぐ目の前に移動していた。


「ッ!?」


 全く反応が出来なかった。彼の天権は敵の存在を探知するものだというのに。それは男の移動速度が常識の外にあるという証左である。そして……ゴキッ! と嫌な音が周囲に響き渡った。


「キタミヤシンジ。お前は残念ながら不要対象だ、安らかに……眠れ」


 男が呟くと同時に、"ねじ切った北宮の首元"から手を離す。すでに意識を永遠に闇へと手放した彼は重力に引かれ、地に落ちる。その衝撃の音により、他の三人はようやく目の前で何が起きたのかを理解した。


「お前……何、やってやがるッ!?」

「見て分からんか? ただ殺しただけだ」


 細長い腕からしなやかに伸びる指先をコキコキと鳴らしながら、次の獲物を探すように周囲へ視線をさまよわせる男。


「理解の遅いものは嫌いだ。さっさと構えろ。それぐらいは待っていてやる。それともこう言わなければ分からないか?」


 黒い服に身を包む男は朝焼けが広がり始める空の元、朗々と名乗りを上げる。


「私の名はレオ、魔王軍第十一席。お前らの……敵だ」


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