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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第四部 魔族侵攻篇

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「参戦」

 俺の攻撃手段は主に二つ。

 

 一つは『灼熱の剣(レーヴァテイン)』。

 これは攻撃力にステータスを極振りしたような性能で、射程と魔力消費量においては欠点が目立つ。当たれば勝負を決する必殺の剣だが、それを当てるのが困難だ。クレイの射程距離(リーチ)を前に何の苦労もなく、奴の懐までたどり着けると楽観できるほど俺の頭はめでたくない。


 もう一つは『炎舞(レーゼン)』。

 これは魔力消費も優しく、高速移動を可能にする魔術でかなり使い勝手が良い。威力も申し分ないしな。だが如何せん射程が短すぎる。俺の体を部分的に加速させる魔術なのでその射程は徒手空拳と変わらない。灼熱の剣よりも更に短い射程ということだ。


(結局、超近距離技しかないのがネックなんだよな。俺の場合)


 アゲハと戦った時にも感じたが、攻撃できる半径というのは勝負においてかなり重要な要素だ。兵器というものの歴史を紐解いても、古来より剣より槍が、槍より弓が、弓より銃が重宝されていたように射程の長い武器ほど優遇される。


 相手の攻撃が届かない位置から一方的に攻撃できるのだからそれも当然。問題は今、俺がその攻撃される側に回っているということ。


 俺を取り囲むように展開する死人の数々はカグラの生み出した文字通りの意味の死兵だ。試しに小太刀を使って斬りつけてみたりもしたのだが、相手は死人。痛覚もない相手にいくら切り傷を作ったところで効果なんてありやしない。炎舞を使い、頭を蹴り飛ばしながら包囲網を突破しようと試みるが、その先に待ち構えるのは彼ら以上の強敵、クレイだ。


「おらおら、キリキリ舞いやがれ!」


 足元を狙って放たれた真紅の鎌を跳躍して回避する。だが、それもクレイには想定内の動きだったようで次なる一手が俺に向け襲い掛かる。

 ぐにぐにと一瞬にして形を変えるのは奴自身の血液。紅に光を反射するその刃が空中にいる俺の首元に迫るが……


炎舞(レーゼン)!」


 空中(そこ)は俺の領域だ。足元に発火、即座に方向転換した俺は悠々とその一撃をかわし、近くの建物の壁へと"着地"する。


「ちっ……ふらふら逃げやがって!」


 こちらに追撃をしかけるクレイから逃げるように壁を伝って上へ、上へと炎舞を展開。炎の推進力を利用しながら重力に逆らい、屋根上へと到達した俺をクレイが追う。

 奴は血液をフック状に固定し、それを足元にスパイクとして配置して強引に壁を登ってきやがった。まるで有名なアメコミの蜘蛛人間だな。


「おらッ! いい加減死に晒せ!」

「死ねって言われて死ぬ奴がいるかよッ!」


 クレイが放つのは血液の弾丸。本物の銃弾もかくやという勢いで俺の肉を抉りに来るその攻撃は流石にかわしきれない。肩、脇腹、左足と各所に着弾しながらも即座に回復しながら逃走を続ける。


(わたくし)のこともお忘れなきようにっ!」


 そしていつの間にか回り込んでいたカグラによって挟撃のような形へ追い込まれる。前門のクレイ、後門のカグラ。どちらが突破しやすいか瞬時に判断し、俺はカグラの方向へ駆ける。

 奴の武力は基本的に取り巻きの死人共に依存する。要は数こそ多いものの固体としての脅威度は低いということ。手の出しようがないクレイに比べれば随分楽な相手だ。


「真っ直ぐ私に向かってくるとは随分と舐められたものですわね。いいでしょう、"少し踊ってあげなさい"。貴方達」


 カグラの前に躍り出るのは四人の騎士。その全てがすでにカグラの支配下に落ちている。もとより死んでいる人間に手加減するつもりなどなかった俺は懐から取り出した小太刀を構え、その集団に突撃する。

 彼らは騎士の死体というだけあって、そこらの村人よりも身体能力に優れていた。騎士剣を持っているということもあり、それなりに脅威ではあるだろうが……


「俺と戦うには能力の相性が悪すぎるだ、カグラッ!」


 それは通常の戦いであればの話だ。

 天権というチートを持つ俺にそこらの騎士程度が何人束になったところで適いやしない。それは召喚者の誰にしても言えること。要は今回のように一つの都市を陥落させるためには優秀な能力なのだろうが誰かと一対一で戦うには運用が難しい能力ということ。


 小太刀を使い、時に炎舞で戦いの主導権を握りながら俺は四人の騎士をものの数秒で蹴散らす。二度と起き上がらないよう、足元を重点的に狙っておいたから奴らはもうこれ以上役に立たないだろう。


「何だよカグラ、だらしねえなあ。どけよ俺がやる」


 だが、後ろから迫るクレイにとってはその数秒の足止めで十分だった。


「血潮を上げろ──血闘乱舞(ヴァーミリオン)ッ!」


 俺の頭上から落ちてくるのは獣の爪のように途中で枝分かれした極大の鎌。咄嗟に小太刀を頭上に掲げ、その一撃を受け止めようと力を込めるが……


 ──バキバキバキバキッッ……バガンッッッッ!


 足元の屋根が衝撃を受け止めきれずに悲鳴を上げ、崩れる。一瞬の浮遊感の中なお勢いを緩めないクレイの一撃は俺の腹部に突き刺さりながら下へ下へと加速し、最後には建物内部の床へ突き刺さる。


「く、はっ……」


 口から泡のように血が漏れ出る。

 突き刺さったままの爪は俺の体を地面に固定し、逃さない。天井からこちらを覗く二組の顔は勝利の美酒に酔っていた。


「ふん。屍竜さえ持ってきていれば(わたくし)一人でもやれましたのに」

「知ってる? それ、負け犬の遠吠えっていうらしいぜ」

「私は負けてなんかいませんわっ!」


 今にも折れてしまいそうな屋根の骨子へ地団太踏んで悔しがるカグラ。冗談みたいな奴らだが……強い。強すぎる。

 今更だが魔族は本当に強い。俺のように不死の天権がなければ相対した瞬間に即殺されてもおかしくない。こんな奴らと戦わされようとしていたなんて、何の悪夢だと笑い飛ばしたくなる。状況は全くもって笑えないが。


「く、そ……が……」


 腹に突き刺さる真紅の刃を握ってみるが一向に抜ける気配がない。

 まずい。このままだと嬲り殺されてしまう。俺の不死は殺されても死なない能力だが、殺され続けて死なないというわけではない。そして、クレイ達は躊躇なくそれを行うだろう。俺はまだ、こんなところで死ぬわけにはいかないというのに。


「ふん……リンドウがやられたって言うからどんな奴かと思ってみれば……案外大したことねえじゃねえか。そりゃ最初はちょっとビビッちまったかもしれねえが、特筆するほど戦い慣れてる訳でもねえ。何でこんな奴にあのリンドウがやられたんだ?」


 屋上から室内へ飛び降りてきたクレイが俺に歩み寄りながらぼやく。続いてがしがしと頭を掻き、上に控えるカグラへと視線を送る。


「今、この村の制圧具合はどんなもんだ?」

「そうね。私の兵隊をかなり広範囲に展開できているし、大体70%といったところかしら。いまだ抵抗を続ける一部の連中を片付ければ任務は完了よ」

「それならさっさとレオの旦那のところへ戻って帰る支度をしようぜ。"祝詞"まで使っちまったし、流石の俺も疲れた」


 俺との勝負はすでに終わったかのように話すクレイ。しかし……祝詞とは何のことだ? 詠唱のことだろうか? もしかしたら奴らには奴らなりの能力の制約があるのかもしれない。魔族の弱点に繋がる情報が得られないか、彼らの会話に耳をそばだてていると、


「そういうわけにはいきませんわよ。"他の土地へ侵攻に向かった同胞"と合流するのが先です」


 どうしても聞き捨てならない台詞が鼓膜を震わせた。


「お、おい! お前らが攻めているのはノイン(ここ)だけじゃないのか!?」


 思わず荒くなった声に二人が反応する。何だ、まだ生きてたのかって顔だ。そう間単にくたばってたまるかよ。


「……腹に大穴開いたまま話されると違和感やべえな」

「ですわね。まさかここまで文字通りの『不死』だとは思っていませんでしたわ」


 まるで新種の生物を見つけたかのように興味深そうな視線を向けてくる二人。なんだか全く嬉しくない同情を買っているような気もするが今はそれどころではない。


「どこだよ、他の仲間はどこに向かってる!」

「何だよ。今から死ぬお前がそんなこと気にしてどうすんだ」

「いいから答えろ!」


 ざわざわと、胸に去来する嫌な予感は果たしてただの思い過ごしか。そうであってくれればいいと願いながら確認すると、クレイは「仕方ねえ、冥途の土産だ」と言って詳細を話し始める。


「俺達は言わば分隊。本命を落とす前のかく乱用の兵だ。本命はケルン。ここから更に東にあるこの国の中枢を担う商業都市だ」

「ちょっと、クレイ!」

「別に構わねえだろ。死ぬ前の願いだ。一つや二つ答えてやってもバチは当たらねえよ」


 注意を飛ばすカグラに対し、どこまでも陽気に答えるクレイ。

 だが……今、こいつは何と言った? 本命はケルン、だと?


 そこにはイリス達が向かっているはず。しかも、宗太郎達にも出来れば来るように伝言を残している。だとするならば……最悪のタイミングで彼らがかち合うことになる。そうでなくてもあそこにはリリィにカミラ、他にも世話になった連中が山ほどいるんだ。


「ぐっ……」


 何とかしなければ。今すぐにでもケルンへ向かう必要がある。

 こんな……こんなところで……死んでるわけにはいかない。

 だが、


「くそ、抜けろっ! 抜けやがれッ!」


 俺の体に突き刺さる刃はびくともしない。それどころか、俺の体に突き刺さっているままのせいで不死の天権が機能していない。脳髄を焼くような痛みが断続的に襲い掛かる生き地獄の中……




「──ねえ、貴方達。何をしてるの?」




 俺はその女の子の声を聞くのだった。

 それはここ数日で聞きなれた声音。耳に届く柔らかくも可愛らしいその声もこのときばかりはトゲを含んでいる。


「その人は……お前らなんかに殺されていい人じゃないんだよ」

「あん? 誰だ、お前」


 いや、それはトゲなんて生易しいものではない。激怒、憤怒、赫怒。その類のものだ。だがその常人ならば見ただけで震え上がるような激情を前に、俺が感じたのは一抹の嬉しさだった。

 きっと、彼女は俺の為に怒ってくれているのだろうから。


「分かったらとっとと離れろ。その人は……お兄さんはクロの大切な人なんだからッ!」


 こうして突如現れたその女の子──クロは激しい怒りを纏い、この修羅の間に飛び込むのだった。

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