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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第三部 王都暗殺篇

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「偽りの殺意」

「さよならだ、拓馬」

「…………ッ!」


 まるで悲鳴そのものを表情にしたかのような顔で、拓馬は叫ぶ。


「生成ッ!」


 俺の灼熱の剣が拓馬の額を割る、その寸前。


 ──ビシュッ──


 俺の前腕を拓馬の作り出したレイピアが突き刺した。それにより軌道を変えられた太刀筋は空を斬り、そのまま地面へと裂傷を刻む。それを見て拓馬はこの剣が見せ掛けだけの刃でないことを悟り、荒い息を繰り返した。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「……やれば出来るじゃねえか」


 俺の声に呆然と顔を上げる拓馬は自分の手にある武器と、それが伸びる先にある俺の体を見て、愕然とした様子だった。


「あ……お、オレは……な、何を……」


 自分で自分のしたことが信じられない。そんな表情だった。

 でもな、拓馬。お前は正しいことをしたんだよ。たとえ昔の仲間だろうと、刃を向けなければならないこともある。もしもそれすら出来ず、死を待つだけならきっと救いは訪れない。


 だからそんな表情をする必要は無いんだよ。拓馬。

 お前は確かにこの世界を生きていける資質を持っているんだから。

 レイピアの柄から手を離し、その場にへたり込む拓馬を尻目に俺は腕からレイピアを引き抜く。その際に血が噴出して地面を塗らすが、この程度の傷ならなんともない。一瞬後にはすでに傷も塞がっている。


「オレは……」


 額に手を当て、憔悴した様子の拓馬。

 これ以上俺がかける言葉はない。

 先の一撃を離別の一撃と決めたのだから、後は去るのみだ。

 拓馬に背を向け、城内に戻るその途中……


「……覗き見とは趣味が悪いぞ、イリス」

「あら、貴方の無事を心配してあげたのだからそこは有難うというべきではないかしら?」

「ふん。俺が死なないことくらい、お前が一番良く知ってんだろうが」


 途中で気付いたのだが、俺と拓馬のやり取りをイリスも伺っていたのだ。すぐに気付けなかったのだからイリスの隠密行動能力も馬鹿にならない。そんな特技隠してるならもっと早く言えっての。


「それにしても随分と"優しい"じゃない、カナタ。昔の仲間に会って親切心でも沸いた?」

「……何のことだ」


 イリスの言葉に内心ドキリとしながら、何とか誤魔化す。だがそんな下手な芝居はイリスには通用しないようで、


「カナタのことは私が一番よく分かってる。貴方がそう言ったのよ? 数秒前のことももう忘れた?」


 にやり、と底意地の悪い笑みを浮かべるイリス。

 はあ……色々含みのありそうな笑みだなあ。


「戦うってことの意味を知らない彼にわざと敵役を演じて危機感を叩き込んであげたのでしょう? あんな"分かりやすい作られた殺気"を本物と勘違いしてしまうほどの世間知らずだものね。カナタでなくても心配になってしまうのも分かるわ」


 何を言われるのかと内心びくびくしていると、俺の内心を知ってか知らずかご丁寧に先ほどの一件を解説してくださりやがるイリス様。ほんともう、勘弁してくれ。


「……それで? お前は俺を弄りに来ただけかよ」

「最近弄れてなかったからそれもいいけど……そろそろ本題について話しておこうかと思ってね」

「……なるほど」


 確かに復讐について、イリス達に何も詳細を話していなかったことを思いだす。そろそろ詰めておかないと彼女達も不安になるだろうし、良い機会なのかもしれない。


「それならステラも一緒の時に話そう」

「ええ。そう言うと思ってすでにカナタの部屋で待機させているわ」

「そりゃ準備の良いことで」

「というより貴方が中々帰ってこないから私が探しに来なくてはいけなくなったのよ。それを言うに事欠いて覗き見だなんて、酷い言い草じゃない?」

「へいへい、俺が全て悪う御座いましたよ」

「あら、カナタにしては物分りが良いじゃない。これからもそれぐらい卑屈でいてくれたら助かるわ」


 ああ、もう。本当に。人を(なじ)る時だけ活き活きしてやがるよな、こいつ。今回ばかりは俺に非があるからなんとも言えねえけど。


「カナタ」

「ん?」

「……迷ったら駄目よ」

「…………」


 まだ俺を弄るのかと思ったらイリスは真面目な表情で俺を見つめていた。


「迷えば刃は行き先を見失う。そうなった時、貴方はきっと貴方でいられなくなるわ。考えるのをやめろとは言わないし、出来ない。けど、迷っているのなら私達を見て。私達のことだけを考えて」

「…………」


 ここ数日の俺を見ての感想がそれなのだろう。

 俺の内心を良く分かっての言葉だとしたら俺には従うほか無い。と、いうより……


「元よりそのつもりだ」


 この王城に着いてから何度も何度も何度も感じた想い。

 俺の居場所はこんな場所にはないという、強烈な疎外感。それをイリスやステラといる時に感じる安心感と比べたら選ぶなんていう考えすら浮かんでこない。


「俺はお前達と一緒にいたい。お前達と同じ道を歩みたい。その想いはずっと昔から変わってなんかいない。だから心配しなくていい。俺は俺のままだ」

「そう……」


 呟き、俺の腕をそっと掴むイリス。まるでどこにも行かないで、と嘆願するように。

 もしかしたらイリスは俺が元の生活に触れ、決意が鈍ってしまうことを恐れていたのかもしれない。もしそうなればイリス達の存在は宙に浮かぶことになってしまう。


 目的を失い、覚悟を失い、復讐を見失うのではないかと危惧していたのだ。

 そんな想いがあったからイリスは俺を探しに来たし、もしかしたら食堂で俺を待っていたのも居心地が悪かっただけでなく、単純に心細かったのかもしれない。


 そう考えると……確かにここ最近の俺はイリス達を蔑ろにしすぎていたかもしれない。これではイリスの私達を見て、という言葉を笑えないな。もっとしっかりしなければ。


「俺は復讐を遂げる。他の何を犠牲にしてもな。それだけが俺の生きている意味だ」


 俺はイリスを安心させるため、断言してみせる。

 復讐こそが俺の生きる意味だと。

 それだけの為に生きてきたのだと。


 シャルロットは俺に言った。シェリルの言葉を忘れるなと。

 ああ……言われるまでもないんだよ。忘れることなんて出来るはずがない。


 ──俺はシェリルの想いを背負って生きているのだから。


「行くぞ、イリス。これより本格的に──動く」


 いくらポーズだけとは言え、俺は離別の意味を込めて拓馬を斬った。

 もう引き返さないと。過去を切り裂くために。

 これにより儀式は完了した。

 心残りは最早、ない。

 俺は……復讐を遂げる!


「…………」


 静かに決意を固める俺の横で、ぎゅっと掴む腕に力を込めるイリスに……その時の俺は気付くことが出来なかった。

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