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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第二部 復讐者篇

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「王都へ向けて」

 結局俺は只野達と共に王都を目指すことになったのだが、それにはいくつかの問題が浮上した。

 まずは俺が逃げ出さないように監視をつけようという宮本の意見と、知らない人間とは同行できないというイリスの意見とが食い違ったのだ。俺としてはどうしても王都へ向かわなければならない用事があるため逃げ出すことなんてあり得ないのだが、それを宮本は信じない。


 お互い譲れない部分だったため、妥協点が求められた。

 その妥協点として、俺達のグループに吉本小春一人が加わる形になった。名目上は監視役ということだが、彼女は俺のことを疑っていない様子だったし問題は無いだろうと言う事でイリスも何とか説得させた。


「ふん、随分その女のこと信用しているみたいじゃない。後で足元すくわれないよう気をつけることね」


 なんて、いつになく不機嫌な様子を見せてはいたが。

 とにかくこうして俺、イリス、ステラに新たな同行者を加えて、俺達は改めて王都へ目指すことになった。


 人数が増えて安全になったか、と言われれば微妙なところだ。もともと外敵への警戒はステラ一人いれば事足りたしな。

 そのステラだが新しい武器としてナイフを渡してやると、嬉しそうな顔で、


「これでもっとカナタさんの役に立てますね! 頑張ります!」


 と、最近献身的すぎるんじゃないかと心配になる調子でやる気を出していた。

 とはいえステラにも戦ってもらわないと厳しいのは事実だったので、特に反論もしなかったが。


 吉本が加わることで俺は必然的に灼熱の剣の使用を禁止させられてしまった。そういう意味ではむしろ戦力は落ちたかもしれない。いざとなれば使うつもりだが当面はステラに負担がかかるだろう。すまん、ステラ。今晩はお前の好物作ってやるから許してくれ。


「ってことで、今晩はシチューを作ろうと思う」

「どういう前後関係で献立が決まったのか分からないんですけど……分かりました」


 俺の言葉に新しく調理担当に加わった吉本が頷く。

 うむ。細かいことを気にしない奴は面倒がなくて助かる。


「けど、悪いな。料理まで手伝わせちまって」

「……全部やってもらうのも申し訳ないので」


 本当に申し訳なさそうな顔でそう言う吉本。イリスにもこれくらいの遠慮というか慎みをもってもらいたいものだ。ちなみにそのイリスは疲れたのか近くの倒木に寄りかかるようにして眠っている。このぐうたら魔人め。寝てるくらいならステラと一緒にテントの準備してくれればいいのに。


「……あの、青野君?」


 俺が余所見していると、躊躇いがちの吉本の声が聞こえた。


「どうかしたか?」

「その……イリスさん達とはどういう関係か、聞いてもいい?」

「正直聞かないでくれると助かるんだけど……まあ、気になるよな」


 いつかは追及されると思っていたこと。

 ただその答えは一応用意してあった。


「ただの仲間だよ。妙な縁で繋がった、な」

「……仲間」


 俺のはぐらかした答えに、吉本は一応の納得はしてくれたみたいだった。

 しかし……こうしてイリス達との関係を改めて聞かれると答えに困るな。友達と言うにも、知り合いというにも違和感が拭えない。同じ目的を持つ同士、そんなニュアンスがしっくりくる。


 もしくは、同族。

 裏切られた者同士の共感は他では得られない感覚だろう。


(……結局、お互い傷を舐めあってるだけなんだろうけど)


 惰性的な関係だ、と思わないでもない。

 同じ目的を持つとは言っても、その対象は同じではないのだから。

 俺には俺の道があり、イリスにはイリスの道がある。


 イリスは単にまだ力不足だからと、準備期間を俺に当ててくれているだけだ。もしかしたらイリスは俺の力を期待しているのかもしれない。力を貸してやったのだから、力を貸してくれと。

 あの高慢ちきな女の子のことだから決して口に出しては言わないだろうけど……まあ、いいさ。俺の中ではとっくに腹は決まっているのだから。


「何だか、前の青野君とは少し変わったね」


 俺が鍋で具を煮込み始めると、少しだけ寂しそうな顔をして吉本がそう言ってきた。


「みたいだな。森にも言われた」

「そうなの? でも……そう見えても仕方ないかな、今の青野君……本当に幸せそうだもん」

「……え?」


 俺は予想してなかった言葉に、思わず面食らう。

 俺が幸せそうだって?


「だって日本にいたころの青野君、何だか退屈そうだったから。周りに合わせて楽しんでは見せても、心から喜んではいない、そんな感じだった」

「…………」


 吉本の言葉に、俺は少なからず動揺していた。

 日本にいた頃の俺は確かにそんなだった自覚がある。平穏な日々に退屈さを覚え、諦めていた。何かを変えようとする気概もなく、ただ怠惰に日々の生を全うする。


 そんな生きているのか死んでいるのか分からない生き方を俺はしていた。

 だけど……俺は今、幸せなのか?

 昔の俺を正確に見抜いていた吉本の目にそう見えたのなら、それは真実なのかもしれない。

 しかし、俺自身にそんな自覚はなかった。


「……何かの間違いだろ」

「そんなことない、と思うけど……」


 歯切れの悪い吉本の声に、俺は頭を掻いて誤魔化す。これ以上、この話題は引っ張りたくないな。


「というか吉本、お前って俺のことそんな風に見てたんだな。全く気付かなかった」


 クラスにいた頃の吉本の印象はとにかく影が薄い、目立たない女子だった。だから特に意識したこともなかったのに、吉本は周りのことをよく見ていたんだな。


「……ずっと見てたから」


 なぜか恥ずかしそうにそう言った吉本はちらちらとこちらを見て、様子を伺っている。何だろう、何か返事が欲しいのか?


「まあ、いいことだと思うぜ。そういう周りがよく見えてる奴が今は必要なんだと思うし。チームワークは大切だからな」


 今、まさにクラスのチームワークをかき乱している俺が言うのもなんだがな。


「……そうじゃないんだけどなあ」


 俺の言動の矛盾に吉本も気付いてか、がっかりした表情を浮かべる。

 悪いね、もう少し気の効いた言い回しが出来れば良かったけど口下手なんだよ、俺。


「ま、話を戻すと俺とあいつらの関係は深く話すほどのもんじゃないってことだ。今はちょっとイライラしてて態度きついけど許してやってくれ。根は悪い奴じゃないんだ」


 事実宮本なんかと比べればずっと性格の良い二人だ。イリスも宮本も暴力的という面では同類だが、その理由をきっちり詰めている分、イリスの方がより可愛げがない。

 本当に、良い性格しているよ。


 そんな暴力的な二人だが、やはりというか何と言うか相性は悪かった。こうして吉本が監視役を名乗り出てくれなかったら、ずっと話は平行線だったと思うし。


「…………ん?」


 そこまで考えて、ふと疑問が頭をよぎった。

 あの宮本がよくその妥協点で納得したな、と。


 正直、吉本に監視役としての適正があるようには思えない。まだ只野や宮本自身のほうがよほど適しているだろう。この気弱な少女を、俺達がどうにかして逃げるという可能性に気付かないわけがないだろうに……。


(いや、違う……"逆"だ)


 宮本は吉本をこそ、監視役として適切だと判断したのだ。

 そうでなければ理由がつかない。性格的にも、心情的にも監視役に適さない吉本が監視役として選ばれた理由。それはつまり"能力的"に監視役として適切と判断されたに違いなかった。


 つまりは宮本の念力、只野の魔力操作。取り押さえることに関しては優秀な能力を持つ二人の強力な天権より、"吉本の天権のほうがより優秀"だと判断されたわけだ。


 そしてそれは吉本がこの"戦場の最前線とも言うべきチームに入っている"という事実から裏づけされている。これほど優秀な能力が揃った部隊に属する吉本の天権が、優秀でないわけがない。


「……なあ、吉本」

「はい?」

「お前の天権、なんだっけ」


 俺は吉本の天権を知らない。

 元々クラス全員の天権を知っていた訳ではないからな。


 その中でも吉本は特に口数の少ない女子だったし、彼女の天権に関する情報は耳にした覚えがない。

 改めて尋ねる俺に、吉本は少しだけ頬を染め答える。


「……恥ずかしいから秘密」


 天権はその人の望みを具現化した能力だと言われている。だからこうして天権を隠す人もいる。自分の心の中を曝け出しているようで恥ずかしさが勝るのだ。


 それだけ彼女の天権は彼女の願いを分かりやすく形にしているのだろう。俺の不死もそうだけど。

 しかし……気になる。非常に気になる。

 人は禁止されればされるほどそれを破ってしまいたくなるものだ。

 秘密にされた俺も、好奇心がむくむくと沸いてきてしまい、それから何度も吉本に天権について聞いてみるのだが結局はっきりとした答えは得られなかった。

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