表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第二部 復讐者篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/163

「迫り来る魔の手」

 森と舗装されていない道をゆっくりと歩く。

 思えば男二人で行動するなんてアーデル以来だから何だか懐かしい気分だ。


「それにしてもあの青野が女の子二人と一緒に行動してるなんてなあ」


 道すがらしみじみとした様子でそう言った森。


「何だよ。俺に女は似合わないってのか」

「女つーか、お前があんな風に誰かと一緒に暮らしてんのが意外だっただけだ」


 ただのクラスメイト相手にずいぶんと分かったようなことを言う。けど、俺は何となく森の言葉の続きを聞いてみたくて特に否定はしなかった。


「お前って勉強もスポーツも出来たくせに友達作ろうとしなかったろ? それが俺には周囲に壁を作ってるように見えてな。あんな風に誰かと楽しそうに笑ってるお前が想像出来なかったんだよ」

「……友達くらい俺にもいる」

「金井のことか? それにしたって向こうがお前に構ってただけだろ? 俺はお前から誰かに話しかけてるとこ、ほとんど見たことねえぞ」

「…………」


 どうだっただろう。

 日本にいた頃の俺はそんな風だったのだろうか。

 大して昔のことでもないというのに思い出すことが出来なかった。


「俺が見かける前はいつもぼーっ、と空見て退屈そうにしてた。それがこっちに来てから少しだけ楽しそうだったから……俺はちょっと嬉しかったんだぜ?」

「何でお前が嬉しいんだよ」

「だってこれでようやくお前と友達になれるかもと思ってよ」


 自分で恥ずかしいことを言っている自覚があったのか、森は頬をかきながらそう言った。


「お前、俺と友達になりたかったのか?」

「まあ、な。だって俺とお前って似てるじゃん?」

「俺はそうは思わないけどな」

「うわっ、ひでーこと言うなよ。そこは嘘でも合わせるところだろ」


 森と俺が似てる?

 そんなわけないだろ。片やクラスの人気者、片やクラスの日陰者。ほらな、全然違う。


 だけど……森が俺と友達になりたがっていたというのは意外だったな。俺はそんなことに気付かないほど周りが見えてなかったってことか。


(……そういや拓馬ともクラスではほとんど話したことなかったな)


 周囲に壁を作っている。

 確かにそうだったかもしれない。

 ずっと退屈に思っていた。代わり映えのしない日常に、何か面白いことが起こればいいのにと子供じみたことを考えていた。その結果がこの異世界召喚なのだとしたら笑える話だけどな。


 夢は夢でしかなく、幻想は幻想でしかない。

 それを俺はこの世界で痛いほど思い知らされたのだから。


「……森はこの世界に来たこと、後悔しているか?」


 俺は唐突に聞いてみたくなった問いを森へとぶつけた。俺と自分が似ていると言った、この男に。


「別に選べたことじゃねーからな。後悔ってのは少し違うけど……うん。別にこの世界に来たこと自体は嫌じゃないぜ。天権っつー面白い能力もあるし、これがあればこの世界で大抵のことは何とかなる。この前だって魔獣倒したら村の人たちからえらい感謝されちまってよ。日本にいた頃には味わえなかった達成感っつーか……なあ、分かるだろ?」


 そこまで言ったのなら最後まで言い切れよ。

 でもまあ……分からなくはないかな。俺の天権の場合、爽快感とかとはほど遠いけどちっぽけな全能感くらいは感じたことがある。


「だから俺の場合、他の奴と違ってあんま元の世界に帰りたいとかって気分にならねーんだよな、不思議とよ。こういう感覚の方がマイノリティーってのは分かってんだけどどうしても自分に嘘はつけねえ」


 森は笑顔を浮かべ、躊躇いもなく言い切る。


「俺はこの世界に来れて良かったと思ってる」


 その迷いない言葉に、俺は少しだけ羨ましい気持ちにさせられた。

 俺だって、昔はそう思っていた。けど今はとてもそんな風には思えなかったから。


「……俺とお前が似てるってのも、案外的外れでもないのかもな」

「ん? 何て?」

「なんでもない。森は楽観的だなって言ったんだよ」

「なんでもなくねーじゃん」


 ま、いいけどと森は気にした様子もなく歩を進める。

 それに付いていく俺はどこへ向かっているのかも知らず。


 もし……もしも運命の歯車って奴があるとして、それが少しでもズレていたなら……俺と森は良い親友になれたかもしれない。そんな風に思いながら。


 それから俺達は言葉もなく歩き続けた。街の景色が少しずつ疎らになり、ついには見えなくなってから俺はようやく森に問いかける。


「おい、どこまで行くつもりだよ」

「昨日帰りにちょっと良いとこ見つけてな。少しだけ付き合えよ」


 それだけ言って目的地を明かさない森。

 どの道ここまで来てしまったのだからと付き合う俺が辿りついたのは小さな採掘場だった。切り立った崖を正面に、大小様々な岩石が周囲に散らばるその開けた場所で、森は唐突に右手をかざし……


 ──ボウッ!


 と、その手の先に直径一メートルサイズの火の玉を作り上げた。


「『発火』の天権……」

「たまには周囲に気兼ねなく使いたくってな」


 にやりと笑った森はその火の玉を……


「おらあああああああぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁあl」


 近くの岩に向け、放つ。

 まるで小さな太陽のように輝く火の玉は岩にぶつかり、真っ赤に溶解していく。しかし、それだけの威力を持っていて尚森は満足していないのか、次々に火の玉を作り出していく。


 森の天権、発火は強力な反面、コントロールを誤るととんでもない大惨事に発展してしまう。今のこの場所のように開けた場所でなければ、更に言うなら木々などの燃え移る危険性のないもので限られている場所でなければその威力を存分に振るうことは出来ないのだ。


「はあ……すっきりした」


 かれこれ10分近く火の玉で遊んでいた森は唐突にそう言って発火をやめた。

 周囲は森の放った火の玉のせいであちこち焦げており、どこの火竜が暴れたんだという有様だ。これ、誰かに見つかったら確実に騒がれるぞ。


「悪いな、付き合わせちまって。青野の天権は『不死』だったよな。ならここじゃ何も出来ないか……」

「俺のことは気にしなくていい。見てるだけで参考にはなった」

「ん? そうか? ならいいんだが」


 森は俺の言ってることが良く分からなかったのか、不思議そうな顔をしている。それもそうだろう。俺が禁術を使えるってのは誰にも言っていない俺のトップシークレット、奥の手だ。

 俺は森が火の玉を操っている間、何とか自分にも同じことが出来ないかとずっと観察していた。前から思っていたのだが、俺の灼熱の剣は余りにも射程が短すぎる。剣を巨大化させればリーチも伸びるが、それに比例して消費する魔力も大きくなる。


 不死という天権が魔力頼りの能力である以上、俺は魔力残量には常に気をつけなければならない。

 燃費の悪い禁術と、そう言う意味では相性の悪い能力だと思う。


「気が済んだなら帰ろうぜ。そろそろ喧嘩も終ってるだろ」

「そうだな」


 俺の言葉に頷く森。帰り道は分かっていたので、俺は先に森へ背を向けるが……


「なあ、青野」


 真剣な声音の森に、呼び止められる。


「何だよ」

「……本当は何があったのか、俺にだけでも教えてくれないか?」

「は?」


 何があったのか、だって?


「どういう意味だよ」

「そのままの意味だって。お前が今まで何をしてたかは只野から聞いてる。けど、それって嘘だろ? いや、嘘じゃないのかもしれないけど真実でもない」


 森はいつになく真面目な表情で俺を見る。


「だってどう考えてもおかしいだろ。いくら自分のことで手一杯だったからって連絡を取ろうと思えば手紙なりなんなりいくらでも手段はあった。だけど、お前はそれをしなかった」


 森という男は普段おちゃらけてはいても馬鹿ではないらしい。

 俺の行動の矛盾点を的確に見抜いている。でも、その反応は織り込み済みだ。


「あのな、日本と違ってこっちは郵便一枚だすにも物凄い大金がかかるんだよ。わざわざ手紙を出すのに金をかけるくらいなら、その金を使って自分で王都まで行くに決まってんだろ」

「…………」


 俺の言葉に森は黙り込む。

 真実がどうあれ、俺がそう言い張ればそれ以上の追及は難しい。

 だけど……こういう質問をするってことは、少なからず森は俺のことを疑っているんだろうな。ここに連れてきたのもどうやらただ気分転換がしたかっただけではないらしい。


「青野は……少し変わったな。前はそんな風に言い返すような奴じゃなかった」

「お前が俺の何を知っている。分かったような口を利くな」


 お前はただのクラスメイト。ただそれだけの関係だろうが。


「……ああ、そうだな」


 森は少しだけ寂しそうな顔をして、


「お前が話したくないなら、これ以上は聞かない。けど何か困ったことがあったらすぐに言ってくれ。力になる」


 すぐに持ち前の笑顔を取り戻した。

 これには俺も、思わずたじろぐしかなかった。

 森は俺の言動に不信感を持っていたはずだ。そうでなければあんな質問はしてこない。なのに……それなのに、俺の力になるだって?


「……やめろよ」

「え?」


 そんな言葉なんて、俺は求めていなかった。


「善人面するのはやめろ。俺はお前に助けなんて求めないし、助けてもらいたいとも思っていない」


 俺の反応が意外だったのか、森は間の抜けた顔を作る。

 もしかしたらこんな風に好意を拒否された経験がないのかもしれない。だとしたら……彼はとても幸せな世界の中にいる。


「俺が変わったっていったよな。お前」

「え、あ、ああ……」

「俺からすればお前らが変わってなさすぎだ。本当にこの一ヶ月、何をしてきたんだ?」


 自分でも口調がキツくなっているのが分かったが、言ってしまったものはもう飲み込めない。俺に出来るのは言葉を続けることだけだった。


「人助けするなら勝手にしてくれ。俺の視界に入らないところでな」

「お前、何を……」

「俺に関わるなって言ってんだよ」


 なぜこんなにもイライラするのか、その答えは分かっていた。

 いまだに日本にいたころの雰囲気が抜けない森に、俺はかつての自分を思い出していたのだ。覚悟も、信念も、目的も、何も持っていなかったあの頃の俺を。


「青野……」


 呆然と俺を見る森。

 きっとこいつは俺に歩み寄ろうとしてくれたのだろう。不信感も、疑心も、全て呑みこんで。それでも俺と関わろうとしたのだ。


 だけど……駄目なんだよ。

 いくらお前が良い奴でも、俺の為を思ってくれようとも。

 俺はその善意を受け取ることができない。信じることが……どうしても出来ないんだ。


「……悪いな」


 微かに感じた罪悪感に引っ張られ、俺は森に聞こえるかどうか分からないほど小さな声量で呟く。

 これで決裂。俺と彼らの道は完全に別たれた。

 森に背を向け、帰路へ付く俺の視線の先に……


「……ん?」


 ──黒髪の女の子が立っていた。


 いつからそこにいたのかは分からない。もしかして会話を聞かれてしまっただろうかと焦る俺は……その女の子に見覚えがあることに気付く。


 黒髪黒目。


 まるで闇が纏わり付いたかのようにその風貌を晒す少女は日本人にも見える。だが……こんな女子、クラスにはいなかったはずだ。


(……誰だ?)


 見覚えはある。だが肝心の名前が出てこない。

 こんな存在感のある人物、一度会えばそう簡単に忘れるはずもないが……


「あはっ♪」


 俺が記憶から目の前の少女の情報を引き出そうとしていると、その少女は唐突に笑った。可憐に、可愛らしく。その少女は笑った。

 しかし……


「やっと、見つけた!」


 少女の漆黒の瞳だけは、少したりとも笑ってはいなかった。

 そのちぐはぐな笑顔に、俺は遅れながらその少女の正体に気付く。


「お前……ッ!?」


 すぐに思い出せなかったのも仕方がない。俺はこの少女に会ったことがなかったのだから。しかし、この顔だけは覚えていた。このちぐはぐの笑顔だけは覚えていた。

 それはカミラのギルドで見せてもらった、手配書の一枚。その顔写真。

 確か名前は……


「私の名前はアゲハ」


 俺が言うより先に、その少女は自ら名前を名乗った。


「やっと会えたわね。アオノカナタ」


 可憐で、可愛らしく、そして……どこまでも獰猛な笑みと共に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ