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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第二部 復讐者篇

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「空気の読めない男達」

 森修也という人物について俺は良く知らない。

 というのも半年前に同じクラスに配属されるまではお互い名前すら知らない状態だったのだ。それから半年間、特に親しい付き合いをした訳でもないため俺は森についてほとんど情報を持っていない。


 しかし、クラスの中でもムードメーカー的な存在だった森について、俺のところにもいくつか話は飛んできていた。


 一つ、森修也は宮本小春を彼女に持つリア充である。


 もうこれだけで俺とは人種が違うということがすぐに分かってしまう。

 人懐っこい森は話し上手で女子に人気があった。さらにサッカー部のレギュラーだったこともあり、男子からの人望も高いいわゆる学校の人気者って奴だ。


 そんな奴がなぜ突然俺達の宿を訪ねてきたのか。

 それを彼に直接聞くと、


「え? 用がないと来ちゃいけねえのか?」


 と、どこの彼氏彼女だと言いたくなるようなことを言い出しやがったのだ。

 正直すぐにでもお帰り願いたかったので、今は朝食を食べているところだから対応が出来ないという事から始まり、やんわりと「帰れ!」という意味の内容を告げてやった。

 すると……


「じゃあ、中で待たせてもらうなー」


 森は俺の許可も得ないまま、ずかずかと部屋の中へ入ってきてしまったのだ。

 どうやら俺の言葉の真意が伝わらなかったらしい。人気者の彼は邪険にされているかも、という一般的な思春期高校生なら当然持ち合わせている感情をどこかに置き忘れてきたようだ。


 訂正しよう。


 こいつは人懐っこいんじゃない。ただプライバシーという単語を知らないだけだ。

 俺の中で評価がだだ下がりしているとも知らず、森はイリス達を見つけるや否や暢気にも挨拶を始める。


「どうも始めまして。俺は青野の友人で森修也って言います。よろしくね」


 いつ俺はお前の友人になったんだよ。

 聞いてねえぞ。そんな話。


「あ、そう」


 そしてイリスはイリスでいつもの調子で冷ややかだ。イリスはこういう自分から擦り寄ってくるような人種に対してはとことん冷たい。見ろよ、森がちょっと泣きそうな顔になってんだろうが。


「は、始めまして。私はカナタさんの従者でステラといいます」


 それとは対照的にぺこりとお行儀良く頭を下げるのはステラだ。

 というかこっちも、俺がいつステラを従者にしたというのか。

 聞いてねえぞ。そんな話。


「はは、これはご丁寧に……ん? 従者?」


 そして従者という単語に引っかかったのは俺だけではないらしい。

 森はぐるんと体ごと視線をこちらに向け、


(おい青野! 従者ってどういう意味だよ!?)


 こそこそと耳打ちしてきた。


(ステラがそう言ってるだけだ。流せ)

(いや、流せって……というかお前、こんな可愛い子達とどうやって知り合ったんだよ)

(別にいいだろそんなこと。それより顔が近ぇ。離れろ)


 森にイリス達との関係を根掘り葉掘り聞かれそうだったので、俺は森の体を押しのけテーブルにつく。俺だってまだ食事中だったんだからな。


「ぐぅぅ……青野のくせに女の子侍らせやがってぇ……」

「おい、聞こえてんぞ。そういうのは本人に聞こえない場所で言え」


 それはそれで嫌味な感じになるが、知らないだけ本人的にはマシだろう。

 というか、


「お前には彼女がいただろうが」

「彼女がいても可愛い女の子とは仲良くなりたいじゃん?」


 はい、屑ー。俺の中で森は屑人間という地位に落ち着きましたー。

 ……まあ、気持ちは分からなくもないんだけどな。


「それで? どっちが青野の彼女さんのわけ?」

「何でそんなことお前が気にするんだよ」

「だって青野の彼女には馴れ馴れしく出来ないでしょ、流石に」


 ほう。どうやらこの男にも他人の女には手を出さないという紳士的な部分があったらしい。いや、それが普通なんだけど。

 しかし、ここで問題なのは二人とも俺の彼女なんかではないということだ。どうやって二人との関係を誤魔化そうか言葉を探していると……


「ふんっ、まさしく愚問ね」


 さっきまで黙々と食事を続けていたイリスが口を開く。


「カナタと一番付き合いの長い私が最もその地位にふさわしいに決まっているじゃない」


 胸に手を当て自信満々に言い放つイリス。

 まあ、こいつの場合彼氏なんて(てい)のいい労働力としか見てないんだろうけど。

 しかし、まあ無難な言い方ではあるか。彼女と明言している訳ではないのでイリスの尊厳は守られつつ、このバカ話を終わらせることが出来る良い一手。なかなかどうしてイリスも分かってるじゃないか。

 このままこの話は終わる。そう思ったその時だ。


「つ、付き合いの長さで親しさまで決まるとは限らないじゃないですか」


 ステラが身を乗り出しながらそう言った。

 これにはイリスも俺も驚いた。普段自分から意見を主張することの少ないステラの突然の発起。何が彼女にそうさせたのか分からなかったがこの流れは非常にまずい。


「へえ……ステラも言うじゃない。それだけ譲れないことってことかしら?」

「い、イリス様に逆らうつもりはありません。でも……大人しく譲るつもりもありませんからっ!」


 思った通り、段々喧嘩口調になっていく二人。


「へ、へえ……名前、イリスちゃんって言うのか。いい名前だね」


 そして何とか場をまとめようと森が話を逸らそうとするも、その場の誰一人彼の話なんて聞いていなかった。


「大体イリス様はずるいんですよ。いつもいつもカナタさんにわがままばっかり言って……」

「あら、ステラも甘えたいなら素直にそういえば良いんじゃない?」

「べ、別に私は甘えたいだなんて……」


 最近までうまく付き合えてたはずなのにな……やっぱり人間同士、衝突することもあるのだろう。俺は何とか二人が仲直りできるよう、話に割って入る。


「おい、二人とも。喧嘩はやめろって」

「「カナタ(さん)は黙ってて(ください)!」」


 はい。一瞬で撤退しました。

 というか超怖ぇ……女の子のあんな目、始めてみたぞ。まるで視線だけで他人を殺せるような……うう、夢に出てきそうだ。


「そういえば俺が他の女の子とメールしてるとき、小春もあんな目してたなあ……」

「……お前も色々大変なんだな」


 お互い話から弾かれたもの同士、謎の視線を交し合う俺と森。

 やっぱり、男には分からない女の事情という奴があるのだろう。くわばらくわばら。


「ああなったら男の話なんて聞きやしねえからな。少し外行ってようぜ」

「ああ、そうだな。たまには距離を置くのも大切だろう」


 俺は森の言葉に誘われ、一緒に宿を出ることにした。

 別に今の二人の喧嘩に巻き込まれるのが怖かったわけではない。たまには個人の時間も取るべきだと思ってのことだ。今日は休憩日と決めていたし、今までずっと一緒にいたからな。こういう時間も必要だろう。


 俺は二人に見つからないよう、こっそり視界の隅を移動していく。これも二人の喧嘩を邪魔しては悪いと思ってのことだ。たまにはこうしてぶつかることも必要だよね。


(雨降って地固まるっていうからな。さらば、二人とも)


 俺は心の中で敬礼をして、部屋を後にした。

 再度言おう。


 べ、別に怖かった訳じゃないんだからねっ! 

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