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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第二部 復讐者篇

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「来訪者」

 誰でもそうだとは思うが、高校で一緒のクラスになったからといってその全員が友達になるわけではない。俺にとって親しい間柄だったのは親友の宗太郎、幼馴染の紅葉くらいのもので、他のクラスメイトとは顔が合えば挨拶する程度の付き合いしかしてこなかった。


 中学の頃、少しばかりやんちゃしていた時期に知り合った拓馬ともほとんどクラスでは会話することもなく、淡々とした日々を送っていたように思う。

 だから突然目の前に現れたかつてのクラスメイトに抱いた俺の感情は唯一つ。


 ──ああ、ついに会っちまったか。


 俺が王都を目指している以上、いつかはそうなることは覚悟していたしそうなった場合の対応についていくつか考えてはいた。

 だがやはり、実際に会ってみると勝手は違うもので、


「……躊躇ってんのか、俺は?」


 こんなことで目的を……復讐を果たせるのか?

 ただのクラスメイト相手にここまで平常心を乱されているようでは、アイツらに再会した時どうなるか分かったものじゃない。


 落ち着け。

 俺は自分自身に言い聞かせる。

 まずは出来ることから一つずつ済ませていくべきだろう。

 さしあたっては……


「カナター、朝ごはんまだー?」


 かんかんとフォークとナイフを鳴らして朝食を催促するイリスのため、急いで料理を運ぶことにしよう。

 俺は鍋の中で煮込んでいたシチューもどきの料理を皿へと移し、イリスのもとへと運んでやる。


「熱いから気をつけろよ」

「はいはーい」


 適当な返事をするイリス。

 彼女は猫舌なので水も用意してやらないとな。


「あ、私も運ぶの手伝いますよ。カナタさん」

「おお、手伝ってくれるのかステラ。お前はいい子だなー、誰かさんと違って」


 率先して皿運びを手伝ってくれるステラの頭を撫でてやる。

 最近癖になりつつある気がする。高さ的にも丁度よいステラの頭は撫でていて気持ちよいので、どうしてもことあるごとに触りたくなってしまうのだ。


「はぁ、癒されるぅ。何このふわっふわの猫っ毛、いくらでも触れちゃう」


 なでなで、なでなで、なでなで。

 おっと、イリスの鋭い視線がこっちへ飛んできた。そろそろやめて給仕に戻ることにしよう。

 それから十数分、俺達は遅めの朝食にとりかかった。旅の間に手に入れた食材と、朝イチで市場から買って来た調味料のおかげで今日はいつもより豪華な内容になっている。


 ここに訪れたのも旅の休憩地点としての意味が大きい。ノインにいる間は多少の贅沢は許されるだろう。

 そんなひと時の休息を味わうひとときに、


「そういえば、カナタ。昨日馴れ馴れしく話しかけてた奴らは何だったの?」


 なんて言葉をイリスが突然言い放った。

 馴れ馴れしくって……まあ、イリスから見たらそうなるか。


「あれは俺のクラスメイトだよ。ほら、前に話したろ? 俺と一緒にこっちの世界に召喚された奴ら」

「え? 確かそいつらってカナタのこと裏切った連中なんじゃ……」

「そいつら以外にもクラスメイトはいる。というかそっちの方が人数が多い」


 俺を裏切った連中は四人。

 昨日の話を聞く限りその四人に対し俺が怨恨を持っているとはクラスメイトの誰もが思っていなさそうだったし、その点は助かった。


「ふーん。だったら彼らに用はないってことね」

「そうだな。聞きたい事は聞けたしこっちから会うことはしないつもりだ」


 イリスは単純にこれからの予定を聞きたかったのだろう。俺の答えに満足したようで、朝食に戻っている。

 それとは逆に、口を開いたのはステラだ。


「でも……いいんですか? あの人たちはカナタさんの仲間なのでは……」

「元、仲間だ。今更クラスメイトなんて関係に何の意味も感じちゃいないんだよ、俺は」


 ステラの言葉に被せるように、言う。

 友人だと思っていた子にすら裏切られたのだ。ただクラスが一緒だったというだけの連中に付き合う義理も、勇気もない。

 俺はもう……誰かに裏切られるのなんて真っ平ごめんだ。


「そう……ですか」


 俺の言葉にステラは納得できない様子だった。

 確かにここでクラスメイト達と合流するってのは一つの手段としてアリなんだろう。復讐云々を別にしても、しなくても。

 ただ俺の心情的にそれが出来ないというだけ。

 裏切られたくないという想いに加えて、もう一つ。


(……俺はアイツらのことも裏切ったんだ。今更仲間に戻るなんて出来るわけない)


 思い出すのはリンドウに連れ去られた最初の日、俺はアイツの脅迫に屈し、情報を売ってしまった。それは明確な裏切り行為。当時はそうすることしか出来なかったとはいえ、裏切ったという行為に変わりはない。


 そんな後ろめたさが俺に彼らとの交流を妨げさせた。

 これから復讐しようとしている奴が何を言ってるんだって感じだけどな。


「王都には三日後に出発しようと思う。二人とも準備しといてくれ」

「はーい」

「分かりました」


 罪悪感はある。

 だがそれでも俺には成すべき事があるのだ。

 立ち止まることは……出来ない。

 クラスメイトとの突然の再会に改めて今後の方針を固めた。その時だ。


 ──ゴン、ゴン、ゴン──


 俺達が借りている宿部屋の扉が音を立て、来客を告げる。


「俺が行く」


 食事中の二人にそう告げ椅子から立ち上がった俺は扉に向けて歩く。

 一体誰だろう。特に来客の予定はなかったはずだが……


「どちらさんで?」


 扉越しに相手の名前を問うと、


「あー、オレオレ。オレだよ」


 聞き覚えのない声がそう言った。

 ……本当に誰だ?

 オレオレ詐欺ならもっと騙されやすい奴にやればいいというのに。この部屋の住民は皆警戒心の塊みたいな奴ばかりだぞ。俺を含めて。


「……勧誘なら間に合ってますんで」

「は? 勧誘じゃねえって。冗談言ってないで開けろよな、青野」


 最後に付け足された俺の名前に相手の大体の予想がついたので、扉の鍵をはずし、開けてやる。するとそこには……


「よう。久しぶり。昨日はろくに話もできず悪かったな」


 にっ、と人懐っこい笑みを浮かべる森修也の姿があった。

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