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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第二部 復讐者篇

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「予期せぬ再会」

 とある小さな村の酒場にて、その一団は今日の成果について自慢げに語り合っていた。


「しっかし、今日は大収穫だったな。ギルドからの依頼金も合わせりゃ相当な額になったんじゃねえか?」


 語るのはこの四人組のチームリーダーを務める少年──森修也だ。

 いくつかのチームに分かれている召喚者達の内、すでにルーカスから一人前の認定を受けたものは王都を離れ、任務に就き始めていた。

 今回の遠征もその一つ。王都から離れたこの町で彼らは魔獣駆除の依頼を受けやってきたのだった。


「魔獣の素材が高く売れたのが助かったわね」


 森の言葉に頷くのは彼の相方である宮本小春だ。『発火』という優秀な能力を持つ森と同様、『念力』の天権を持つ宮本は召喚者達の中でも上位に位置する実力者。今回の遠征でもその優秀さを存分に発揮したところだ。


「でも魔獣っつっても大したことはないんだな。今の俺達なら楽勝だぜ」


 森はそう言って頼んでいた酒を一気に煽る。

 それからぷはー! と一息入れて、正面に座るチームメイトのもの言いたげな視線とぶつかった。


「何だよ全然飲んでねえじゃねえか只野」

「一応未成年なんでね。僕はほどほどにしておくよ」

「けっ、こっちにゃ未成年の飲酒を制限する法律なんてねーのに真面目だなあ」


 そう言ってごくごくとハイペースに酒を胃につめる森を見つめるのは只野仁志。この世界では珍しい黒縁の眼鏡を時折指で押さえながらちびちびと自分のペースでこの酒場を楽しんでいた。

 未成年だからと理由をつけてスローペースを維持しているが、結局は森に付き合って飲んでしまうのが彼の「らしさ」でもある。杓子定規になりすぎない付き合いの良さ。それとは対極に一切酒に口をつけようとしないのが彼の隣に座る女子生徒……吉本日和だ。


「あ、あの、もう時間も遅いですし、そろそろお開きにしません?」


 おどおどと何かに怯えるような所作で提案するが、森にとっては久々の酒の席だ。そう簡単に終わってしまうのはつまらない。


「もう少し付き合えよ吉本。どうせ明日は一日休暇に当ててんだから」

「でも……」

「付き合い悪いわよ吉本さん。修也がそう言ってるんだから飲んでいきなさいよ」


 言いよどむ吉本の肩を抱き、飲酒を煽る宮本。女同士の気安さからとはいえ性格的に正反対の二人はどう見てもアンバランスだ。テンション高く酒に付き合う宮本に対し、うつむいて静かにグラスの底を眺め続ける吉本。


 結局いつものようにこのチームの中核を担う森と宮本の二人に意見できない吉本と、それを肩をすくめてため息混じりに見つめる只野。

 それが四人一組で行動する召喚者達の一グループ、通称『進攻組』だ。

 召喚者達は王都を離れ、各地で魔族を探索する『進攻組』と王都にて専守防衛に努める『防衛組』に分かれていた。


 森たちのグループは前者。


 ルーカスの采配により、各地へと出撃する彼ら『進攻組』は所謂天権エリートだ。その実力を認められた彼らの意識を高い。魔族を倒し、この世界での立ち位置を確保する為に積極的に行動していた。

 今回の依頼もその一環。

 この村の住民達が手を焼いていた魔獣をたった一日で殲滅した彼らは自分達の実力をよく分かっていた。


 ──自分達は強い。


 この世界の住民なんか比べ物にならないほどに。

 自惚れでも過信でもなく、ただの事実としてそのことを認識していた。


「召喚されたばっかの頃はどうなることかと思ったけどよ……案外どうにかなるもんだよな」


 ぐいっ、と酒の入ったジョッキを傾けしみじみと語りだす森。


「ザコい魔獣倒すだけで金になるんだ。もう王国の援助なんてなくても十分生きていけるぜ、俺達」

「え? 修也は冒険者になるつもりなの?」

「やろうと思えば出来るって話だよ」


 自慢げに語る森の言葉に、只野が反応する。


「確かにそれも一つの選択肢だな。このままだと僕達は確実に魔族と戦わされる。その前に王国から離れるのも悪くないかもしれない」


 ──その場合、自分達で戦うことを放棄した『防衛組』を見捨てることになるが……。


 続く言葉を飲み込んだ只野はじっと森を見据え、真意を探す。

 実際王都の防衛に助力しているとは言っても、それは建前みたいなものだ。天権の性質や個人の性格上の問題から戦うことを選ばなかった者たちの受け皿。それが『防衛組』の本質だ。

 確かに森の言うとおり、この四人のことだけを考えるなら王国から離れても十分生活は続けていけるだろう。だがそれは王国を裏切り、クラスメイトを危険な戦場に置き去りにすることと同義だ。

 酒の席で漏れた言葉とはいえ、今後の方針に大きく関わる森の発言を只野は放置出来なかったのだが……


「いやいや、流石にそれはねえだろ。冗談くらい軽く流せよな」

「……なんだ、冗談か」


 森の軽い言葉に、いつもの軽口かと落胆する只野。

 ──少しは今後について考えているのかと思ったが……どうやら的外れな期待をしてしまったようだ。


「それに魔族と戦うことになっても大丈夫だろ。俺達なら勝てる勝てる」

「アンタのその自信は一体どこから来るのよ」

「この世界の住人には倒せなかった魔獣を俺達は楽勝で倒せた。それだけで十分だろ」


 魔獣も、魔族もこの世界の人間にとっては等しく脅威だ。そしてその内の一つがあっさり倒せたことで、森は魔族に対する認識を下方修正していた。


「どうせ噂だって尾ひれ付いてるんだろ。ミランだったっけ? 一晩で潰されたとか、魔族側には一人の被害も出なかったとか……普通に考えてありえねえだろ? もし事実だったとしてもそれはミランの警備兵が弱すぎただけ。俺達なら今回みたいに楽勝だって」


 へらへらと軽薄な笑みを浮かべながら、ウエイターに追加の酒を注文する森。

 お気楽な森と違って慎重な吉本は彼の言葉に賛同することなんて到底出来なかったが、口には出さない。愛想笑いのような笑みを浮かべてグラスを弄るだけだ。


 正直疲れていたので早く宿に帰って休みたかったが、リーダーの森の意向には逆らえない。ようやくこの場がお開きとなったのはどっぷりと日が暮れてからのことだった。


「うー……ひっく」

「ちょっと修也、アンタ飲みすぎ。宿に戻るまで吐かないでよ」


 酒精をまとう森に肩を貸し、千鳥足で歩く宮本。正直二人とも危ない足取りだったが恋人同士である二人の間に手を貸すのは憚られた。


「会計は僕がやっておくよ」

「あ、ごめんなさい。只野君」

「いいよ。それより二人が変なところへ行かないかだけ見張っといて」

「うん。分かった」


 只野の言葉に従い、二人の後を追う吉本。

 勝手に宿に帰り始めている二人の背を追って道に出た。その時……


「だーかーら、何度も言ってんだろ。昼に変なおっさん達に絡まれたから、これ以上ステラに負担かけたくないだけだっつの」

「それで何で手を繋ぐ必要があるのかしら? 簡潔に10文字で説明しなさい、"カナタ"」

「うーん……何となく?」

「よーく分かったわ。貴方がどうしようもない変態の色情魔だということはね」

「何で手を繋いだだけでそこまで言われねえといけないんだよ!」


 それは聞き覚えのある声。

 そして……確かに聞いた"カナタ"という単語。

 それは一ヶ月前に死亡したはずの少年の名前だった。


 咄嗟に振り向いた吉本の瞳に写ったのは……


 ──間違いなく、求めていた少年の姿だった。


「……あ……青野君っ!?」


 一瞬遅れて飛び出した言葉。

 それに向こうも気付いたようで、吉本と少年の瞳が交差する。


「──えっ」


 少年の口から漏れたのは驚きの声。

 まさか、という言葉がその見開かれた瞳から読み取れる。


「お前……吉本か?」


 その言葉を聞き、確信する。

 ──ああ、この人は間違いなく青野君だ。


「青野君……良かった……私、てっきり……」


 ルーカスからは死んだと聞かされていた人物との思わぬ再会に、うまく言葉が出てこない。目の前の光景が信じられず立ち尽くす吉本の隣に、会計を終えた只野が酒場の扉を開き、現れる。


「……これ、一体どういう状況?」


 彼の問いに対し、誰も答えることは出来なかった。

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