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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第一部 王都召喚篇
5/163

「嫌な奴ら」

 次の日の昼。

 俺たちは城内にある中庭に集められていた。中庭と言っても学校のグラウンド以上の広さがある中庭だが。

 そろそろこの馬鹿げた規模にもいい加減慣れてきたな。


「今日、君たちを呼んだのは他でもない。昨日を持って三十名全員が目覚めたので、今一度諸君らに現状の説明をさせてもらいたい」


 俺たちを前に、よく通る声を響かせているのは甲冑を来た騎士装束の男だった。


「私の名前はルーカス。階級は一級騎士。君らの指導を頼まれているものだ。よろしく頼む」


 ルーカスと名乗った男は俺たちをぐるりと見渡して、言葉を続ける。


「我々ハイリッヒ王国は魔族の侵攻によってその領土を侵されている。このままでは我々は皆殺しだ。無茶を言うのは分かっている。だが、どうか我々に力を貸してはもらえないだろうか」


 俺たちは誰も口を挟まない。

 皆が皆、他の誰かが口を開くのを待っているのだ。


「…………」


 奏の話では、戦いなんて御免だと思っているクラスメイトがほとんどのようだった。俺もその類だしな。けれど奏は違った。この異世界で本気で生き残ろうと思ったら、王国に従うしかないと言っていた。

 情報も、力も、財力も、何もかもが不足している俺たちに選べる道なんてないのだと。奏の話を聞いてからは俺も同じ気持ちだった。


 少なくとも、自分たちでやっていける確信が持てるまでは王国に従うしかない。好むと、好まざるとに関わらず。

 だから俺は誰かがネガティブな発言をする前に、口を開いた。


「あのさ、質問なんだけど、いいかな」


 手を上げて発言した俺に、ルーカスが視線を向ける。


「ああ、構わない」

「えーと……俺個人としては戦ってもいいと思っている。けど、命を落とすのだけは御免だからさ。話に聞いてた『天権』について、詳しく説明してくれないか?」


 戦うのか、戦わないのか。

 自分たちに戦うだけの力があると分かれば、皆の気持ちにも余裕が生まれる。選択することが出来るようになるのだ。勿論、それだけでみんなが戦うことを選ぶとは思わないけど。それでもこの『天権』とやらは俺たちの唯一の財産なのだ。それを使わない手はない。


「ふむ……そうだな。まずはそこから説明しよう」


 ルーカスも俺の質問に納得したのか、説明を始めてくれた。


「天権とは召還者に与えられる特別な能力だ。その効果は人それぞれ違う。これは君たちが世界を渡る際に神から与えられた贈り物……という風に私たちは考えている。故に『天権』、そう呼ばれているのだ」


 ルーカスは顎に手を当てて、思い出すような仕草をした後、「例えば……」と、話を続ける。


「過去の文献では雷を操ったり、触れてもいないのに物を動かしたり、物質を消滅させたりなんて能力が確認されている。これは勿論、異常なことだ。こちらの常識から考えても有り得ない。それだけ天権は特別な力なのだ」


 ルーカスの言葉ににわかにざわめくクラスメイト達。

 俺は何だか代表者にでもなったかの気分で質問を飛ばす。


「自分の天権を確認するにはどうしたらいいんですか?」


 誰だって、そこが気になっている点だったのだろう。俺の質問に対するルーカスの答えを、その場の全員が待っていた。


「天権が何なのか……それは個人差があるので、すぐに気付くものもいれば中々見つからないものもいる。本当に個人差があるのでな。お前たちの中にはすでに気付いているものもいるかもしれない」


 ルーカスの言葉に俺たちは顔を向け合う。

 誰か、そんな奴がいないか探しているのだ。すると……


「お、俺!」


 端の方に立っていた一人が声を上げた。

 その男子生徒、名前は森だったはずだ。イケメンで有名な男子生徒で、隣には彼女の宮本さんもいる。


「昨日さ、部屋でちょっと色々あって……多分これが『天権』なんだと思う」


 そう言って森は右手をかざした。

 何をするのかと思っていると……ボッ! と勢いよく森の手から炎が飛び出した。


「うおっ!」

「きゃっ!」


 近くにいた生徒が驚きの声を上げている。

 昼間でもはっきりと分かるその明るい炎は確かな熱量を俺たちに伝える。


「おお! 君の能力は『発火』のようだな! 文献にもある能力だ。非常に優秀なものだぞ、それは」

「本当っすか! よっしゃ! ラッキー!」


 ルーカスの言葉に森がガッツポーズしている。宮本も嬉しそうに森の近くではしゃいでいる。ちっ……爆発しろ。『発火』の操作誤って爆発しろ。


「お、俺たちも何か試してみようぜ!」

「森君! どうやって使えるようになったか教えてよ!」


 クラスメイト達が次々に口を開いていく。

 昨日までのお通夜状態とは違って、皆表情が明るくなったように思う。やっぱり誰だってこういうシチュエーションには燃えるようだな。うんうん。分かるぞ、その気持ち。


「……上手くいきましたね、カナタ君」


 俺が一人頷いていると、傍に寄ってきた奏が耳打ちしてきた。


「ああ、これで少しは気持ちが上向きになってくれればいいけど」

「きっと大丈夫ですよ。これも全てカナタ君のおかげです」


 にこにこと本当に嬉しそうな様子でクラスメイトを眺めている奏。


「……そんなことはないよ」


 ぽつりと漏れた声は奏に届かなかったようで、反応は無い。

 けれど、こうしてみんなが盛り上がっているのは間違いなく奏の功績だ。彼女が頭を悩ませて考えてくれたおかげで今の状況がある。

 素直にそう思えた。


 クラスメイト三十人。

 結局その日、天権に目覚めたのはその半数。十四名だけだった。それでもそれは一つの大きな転機になった。皆が俯いていた顔をようやく上げ始めたのだ。


 ちなみに俺の天権が何かは分からなかった。

 とはいえ、まだ半数が見つかっていない状況だ。

 俺もいずれ分かるだろう。そんな風に暢気に構えていた。

 なのに……まさか……あんなことになるだなんて。この時の俺は思いもしていなかったのだ。




---




「あのさ……カナタ? 元気だしなって。きっとカナタもすぐに天権が見つかるって!」

「うう……そう言ってくれるのは宗太郎だけだよ……」


 俺は天権を扱うために用意された練習場の隅、休憩室にて宗太郎に励まされていた。

 机にうなだれひっそりと涙を流す俺。

 こんな状況になっているのには理由がある。

 クラスメイト三十名。そのほとんどがこの三日で天権を発見することが出来た。だというのに、俺だけが! 唯一俺だけが! 未だに天権を見つけることが出来ずにいたのだ。


「ぐうう……何で俺だけ……」


 俺が唸っていると、ガチャリ、扉が開く音がして外から四人の生徒が顔を見せる。


「お、青野じゃん。こんなところで何してんの?」

「バッカ、お前青野は『無能力者』なんだから練習の必要ねぇんだよ」

「あ! そっかー! いいなー、青野は練習サボれてさー! 俺たちなんて能力の特訓で忙しくて困るぜ!」

「ちょっとアンタ達、あんまり言ってあげなさんなって。可哀相じゃない」


 口々に勝手なことを言う四人組。

 藍沢、東野、北宮、西村の嫌な奴カルテットだ。

 俺が中々天権を見つけられないからって好き放題言いやがって……。


「なあ、青野。確かお前、戦うのは構わないってルーカスさんに言ってたよな? お前このままどうやって戦うつもりなんだ? 剣でも握ってみるか?」


 にやにやと、意地の悪い笑みを浮かべる藍沢。

 顔を寄せるなよ、気持ち悪い。


「るっせえな。ほっとけ」

「ははっ、悪かったよ。だけど俺らもマジで心配してんだって。お前このままじゃ真っ先に死ぬんじゃねえかってよ」


 全く心配してる様子がない藍沢に、いい加減我慢の限界だったのか宗太郎が口を挟む。


「ちょっと、藍沢君。あんまりそういうこと言うの良くないと思うよ」

「ああ? 何だよ金魚の糞が。何か文句あんの?」

「…………」


 藍沢に睨まれた宗太郎が顔を歪ませる。

 元々、宗太郎は気が強いほうではない。こういう雰囲気になるだけでも胃が痛むことだろう。


「おい、止めろって」


 俺は立ち上がり、宗太郎と藍沢の間に割って入る。

 腕で藍沢を押しやりながら、宗太郎を下がらせる。


「……やんのかよ、青野」

「だったら何だってんだ」

「今は俺らの方が強い。それを忘れんなって言ってんだ」

「はっ! 強ければ勝てるとでも思ってんのか? だったら試してみろよ、その天権とやらをよ。丁度良いじゃねえか、ママンに買ってもらった玩具の性能を試すにはよ」


 少し煽り過ぎかとも思ったが、宗太郎の方に意識が向かっている以上、改めて俺の方に注目させる必要がある。これくらいは必要だろう。


「……ちっ」


 ここで殴りあいにでもなるかと思ったが、藍沢は舌打ちするだけでそれ以上何も言わずに部屋を出て行った。

 慌てて後を追う残りの三人。

 どうやら全員ボコられた記憶が忘れられないようだ。助かった助かった。


「あー、焦った。喧嘩にならなくて良かったな……って、どうした宗太郎」

「だって……」


 振り返ると、宗太郎が今にも泣きそうな顔で拳を握り締めていた。


「ごめん……カナタ」

「気にすんなって」


 幾度と無く交わしたこの会話。

 俺は宗太郎の頭を叩いてやりながら、笑ってみせる。


「俺たち親友だろう? 細かいこと気にしてんじゃねえよ」

「……っ……あ、りがとう……カナタ」


 ついに我慢しきれなくなったのか、ポロポロと涙を零す宗太郎。

 本当に……涙脆い奴だよ。

 俺は気にしてないと伝えるために、ポンポンと肩を叩く。宗太郎が泣き止むまで、何度も、何度も。


 俺と宗太郎は趣味が合うだけで、性格は結構正反対だ。

 そんな俺たちが仲良くなったきっかけ、それは半年ほど前のことだった。



 ──宗太郎は藍沢たち四人組にイジメられていた。



 見るに見かねて藍沢たちを注意してやったのが、俺たちの出会い。それから色々あって、今に落ち着くのだが、未だに藍沢たちは俺たちを敵視している。

 それをウザイと思うことはあっても、宗太郎を助けたことを後悔したことなんて一度もない。

 本当に、出会ってよかったと心から思っている。


「ほら、いつまで泣いてんだよ」

「う……だって……カナタぁ……」


 何だか俺が泣かせたみたいで居心地が悪い。いや、実際その通りなんだけどさ。


「飲み物とってきてやるよ。少し待ってろ」


 居たたまれたなくなった俺は逃げ出すようにその場を後にした。

 正直……感謝されるのは苦手だ。

 扉を開けて、外に出る。


(……何なんだろうな、この感覚は)


 さっきまで天権のことで悩んでいたのが嘘みたいに、俺の心は晴れやかだった。


「…………そこで何してるの、上原さん」


 扉の外で蹲る上原さんを見つけるまでは。


「いや、ちょっと鼻血が……はは、興奮しすぎちゃった」

「…………」

「あの、良かったら外、見張ろうか?」

「お前のせいで色々、台無しだよ!」


 折角良い話で終わりそうだったのに!


「ご、ごめんね。ムード壊しちゃって。そ、そうだ! 私のことは路傍の草とでも思ってくれて良いから!」


 嘆く俺に、そんな検討はずれな事を言ってくる上原さん。

 本当に……もう……誰か、この人を早く何とかしてくれ……

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