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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第二部 復讐者篇

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43/163

「第二回会議」

「えー、それでは……」


 静粛な雰囲気が漂う借家の一室で、俺は高らかに宣言する。


「これより、第二回青野家緊急会議を始めます!」

「わーわー、ぱちぱちー」

「お、おー?」


 俺の宣言にイリスが適当な声を上げ、獣人の少女がぎこちない声で続く。

 第二回からすでにぐっだぐだな空気になってしまっているが仕方ない。俺はおほん、と咳払いをしてから本題に入る。


「とりあえず今日から本格的に行動を開始しようということで、色々と決めておきたいことがある。まずは……」

「?」


 俺が獣人の少女に視線を送ると、きょとんとした表情が返ってくる。

 そう、一番の問題はこの子についてだった。


「いつまでも名無しってのも不便だからさ。いくつか考えてみたんだけど……」


 正直恥ずかしい。

 他人の、しかも女の子に名前をつけるとなればそのプレッシャーは尋常ではない。自分のネーミングセンスに自信があるわけじゃないしな、俺。


「それで? どんな名前にしたの?」

「えっと……一応の候補というか、もちろんこれで確定じゃないから別に嫌なら嫌って拒否してもらってもいいんだけど、というかこっちの世界でこの名前が当たり前かも良く分かってないからとりあえず良し悪しの判断から……」

「前置きが長いっ!」


 ビシッ! とイリスのチョップが俺の脳天に直撃。

 酷い……少し予防線を張っただけなのに。


「分かった、言うよ……」


 いい加減腹を決めた俺は、



「──ステラ」



 その名前を口にした。


「……ってのはどうかな」


 最後に少しだけ自信の無さを露呈しつつ。

 これでも寝ずに考えた名前だったのだが、二人の感触は……


「いいんじゃない? それで」

「私もそれで構いません」


 予想外に悪くなかった。

 まさかこんなにあっさりと決まるとは思っていなかったので少し拍子抜けだ。


「本当にこれでいいのか? 俺なんかが決めた名前で」

「なんかじゃないですよ。カナタさんが一生懸命考えてくれた名前ですから。私、大切にしますね」


 俺の謙遜に獣人の少女、改めステラはにっこりと微笑んでそう言った。

 か、可愛い……。ぴこぴこと動いている獣耳を今すぐ引っ張ってやりたい衝動に駆られるが我慢。折角いい感じの関係が築けているのだからここでセクハラ紛いのことはできん。

 でも……


「ぐっ……収まれ、俺の右腕ッ!」


 体は正直なものでステラの耳に伸びようとしていた手を必死に押さえてなんとか事なきを得る。


「馬鹿言ってないで話進めなさいよ」

「…………」


 そして、俺とステラのやり取りを不機嫌そうな顔をして遮るイリス。この前の事件から少しだけ柔らかい態度を取るようになったと思ったら時たま以前のイリス……いや、それ以上に辛らつな一面を見せるようになった。

 本当になぜだ。いい傾向にあったのに。

 とはいえ、それを口にしても意味が無いのは学習済み。俺は確認の意味も込めてステラへと尋ねる。


「えーと、ステラにはまだ俺の目的のこと話してなかったよな?」

「前にちょっとだけ聞いたような気はしますけど、詳しくは知らないです」

「そっか。なら改めて言っておく」


 もしかしたら軽蔑されるかもしれない。

 けど、これだけは譲れないところでもあったので俺は恐る恐るステラへと俺の目的……かつての仲間への復讐を語った。すると、


「なるほど……カナタさんの目的は分かりました」


 一度頷いたステラは俺の瞳を真っ直ぐに見据え、


「私は何を手伝えばいいですか?」

「え?」


 予想していなかった反応に、思わず聞き返す。


「手伝ってくれるのか?」

「はい。もちろんです。私はカナタさんの望むことを助ける為に買われたんですよね? だったら当然のことですよ」


 あっけらかんと言い放つステラに虚勢や虚言の空気は感じられない。本気の本気、純度100%の本心でそういっているのが分かった。


「手伝ってもらえるなら俺としては嬉しいけど……いいのか? これから俺たちがしようとしているのは"そういうこと"なんだぞ?」


 敢えてはっきりと口にはしないが、ニュアンスは伝わったはずだ。

 それは俺自身、理解していること。俺のやろうとしていることが人の道を外れた畜生の所業だということを。だというのに、


「私は構いません」


 ステラは真っ直ぐな瞳のまま、言う。


「短い付き合いですけど、カナタさんがただの道楽でそんなことをするような人じゃないことくらい、分かっているつもりです。それに私を買ってくれたあの日のことを、私は本当に感謝しているんです」


 下手すればあのまま牢の中で一生を過ごしていたかもしれないと、ステラはいつか語っていた。牢の中にいた頃は不安で、それこそ夜も眠れない毎日だったと。


 それは俺にも経験があることだったから、その感情は痛いほど理解できた。もしもあの日、俺を助けてくれる人物が現れたとするならそれが例え大嫌いな藍沢だったとしても感謝しただろう。結果としてイリスが俺を助けてくれた形にはなったがな。


 そう考えるなら、ステラが俺たちに懐くのも理解できる。

 だが、それとこれとは話が別だ。俺はステラが少しでも嫌がるようなら復讐には手を貸してもらわないつもりだった。だった、のに。


「どうか私にも、手伝わせてください」


 ──ここまで真っ直ぐな瞳を向けられては、断ることも出来ない。


「……分かった。そこまで言うなら頼むよステラ。お前の力を貸してくれ」

「はいっ!」


 元気よく返事するステラ。

 なんだか嬉しいような申し訳ないような複雑な気持ちだ。もともと俺たちに何の関係ない彼女を巻き込んでしまうことに躊躇いを感じないと言えば嘘になる。


(それでも結局は手をとっちまうんだから……最低だよな)


 最後の最後に感じた躊躇いを飲み込み、俺は改めてイリスに向き合う。


「それからイリス。お前にも」

「……え?」

「お前がいなけりゃ今の俺はない。今までなあなあで付き合ってきたから言ったことなかったが……ありがとな。お前にはすっげー感謝してる」

「な、な、な、何? 何? いきなりどうしたのよ? お礼なんてっ」


 ガタッ! と椅子を揺らし、あからさまに動揺した様子を見せるイリス。その顔はまるで熟れたリンゴのように真っ赤になっていた。


「ま、まあ別にカナタが私に感謝したいって言うなら構わないわ。これからもその気持ちを忘れずにいることね」


 腕を組んで鼻を鳴らすイリスは何でもないように振舞っているつもりだろうが、口元が思いっきり緩んでいる。ゆるゆるだ。そんなんじゃ喜んでます、って言ってるようなもんだろうに。


「そういえばカナタさん達は王都に向かうんでしたよね。ルートはもう決めているんですか?」

「ん? ああ。ルートか。一応の目星はつけてる」


 ステラの質問に俺はテーブルの上に持ってきた地図を広げてみせる。


「まず今俺たちがいるケルンを出発するだろ」


 すっ、と指で地図をなぞりながらルートを確認していく。


「王都までの道のりは結構長いからな。途中でいくつかの街を経由する予定だ。ひとまずはここ。ノインを目指して行く」

「移動手段はどうするんですか?」

「基本は歩きだな。だから王都まで結構時間がかかっちまうだろうけどそこは我慢してくれ」


 旅の移動手段はいくつかある。

 高い金を払って飛竜に乗る。そこそこの金を払って馬車に乗る。金の無い奴は黙って歩く。基本的なのはこの三つだ。んで金が無い俺達は当然のように歩きというわけだ。


(まあ、無理をすれば馬車くらいは借りれるんだがな)


 この前カミラに貰った謝礼で財布は相当潤っている。だが、それも旅のための道具を買い揃えているうちに馬車を借りれる額を下回ってしまうだろう。それでも馬車を優先すれば借りれないこともないが、その反動で食料費や装備、旅に必須の道具を買い揃えなくなれば王都までたどり着くことは出来ない。


 俺たちのような旅の初心者は特にそういう道具の準備は入念に行わなければならない。冒険者や警備兵が管轄している街中と違って、道中はいつ誰に襲われるか分かったものじゃないからな。何があっても対処できるようにしておかなければ。


「でも、そういうことならどこかの旅団(キャラバン)に入れてもらったらどうですか? 冒険者として活動しているカナタさんなら証明書も発行できますから身分の証明も問題ありませんし」

「あー、その方法も考えたんだけどな……」

「私は嫌よ。どこの馬の骨とも知れない奴と一緒に行動するなんて」


 俺の言葉を受け取りイリス。相変わらずブレない奴だ。

 俺は肩を竦めてやれやれってポーズをしてみせる。その後すぐに飛んできたイリスの拳を顔面に受けながら話を続ける。


「ぐふっ……ま、まあ。そういうこと。だから途中で他の旅人と会っても情報交換とかは極力しない方向でいく」

「確かに旅人を装った山賊とかは怖いですけど……」


 俺たちの方針を聞き、何ともいえない表情を浮かべるステラ。

 まあ、そうだろうな。確かにこれは非効率なやり方だ。他の人間と協力すればずっと旅は楽になるだろう。だけど……それは俺たちにはあまり向いていない。いや、向いているいないじゃないか。俺たちには不可能なのだ。そのやり方は。


「三人いれば歩きだろうと王都まで旅することは不可能じゃないわ。ってことで、この話はおしまい。今日は買い物をする予定なのよね? 暗くなる前にさっさと行くわよ」


 ぱんっ、と手を打ったイリスの言葉で第二回の会議は終了した。

 言いたくない議題だからって強引に話を終わらせるなんて子供かよ、お前は。あ、子供か。

 何とも言えない歯切れの悪さはあったが、買い物する時間がなくなるのも問題だ。俺はやれやれと嘆息しながらもイリスの小さな背を追って買い物の支度を進めるのだった。

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