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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第二部 復讐者篇

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「絆の形」

 早朝のギルドでカミラ達と話し合いを終えた俺は借家に戻るべく、最後の挨拶を二人に伝える。


「それじゃあ俺は家に帰ることにするよ」

「あの、カナタさんっ!」


 席を立つ俺の服を掴み、リリィ。


「あの、あの……ありがとうございました!」


 深々と頭を下げ、一生懸命に感謝を伝えようとしてくれるリリィ。

 宗太郎の時もそうだったけど、どうも俺は誰かに感謝されるというのが苦手らしい。どういたしまして、っ言うのも変な気がした俺は、


「困ったときはお互い様だ」


 そういって後ろ頭を掻き、照れくさい気持ちを誤魔化すことにした。


「カナタ」

「え? ……って、うおっ!?」


 呼ばれた声に振り向くと、こちらに飛んでくる麻袋が。


「危ないだろうがカミラ。渡すものがある時は手で渡せ」


 相変わらず雑な奴だ。

 カミラが俺に投げつけてきた麻袋は中に何が入っているのか、結構な重量だった。揺れればジャラジャラと音がするので、何か壊れやすいものなら困ると中を確認するのだが……


「は? おい、カミラ。なんだよこれ」

「何だよ。見てわかんねーのか?」

「いや、分かるけど……」


 麻袋の中にはこの世界で流通している金貨が詰められていた。


「それは今回の礼だよ」

「礼って……いいのかよ。これ結構な額になるんじゃないのか?」


 紙幣への交換比率を俺は詳しく知らないため、この金貨がいったい幾らくらいになるのか分からない。だが、10万や20万程度で済まないだろうことは何となく分かった。


「俺からすりゃ端金だよ。リリィを助けてくれた礼って考えるなら少ないくらいさ」


 俺の動揺を見て笑うカミラはそう言って、ぐいっ、と隣に立っていたリリィの肩を引っ張り抱き寄せた。


「こいつは金には換えられねえ。だから……ありがとうな。心から感謝してるぜ。カナタ」

「お姉ちゃん……」


 姉に抱き寄せられたリリィはカミラの言葉に、うるっ、と綺麗なヒスイ色の瞳に涙を溜める。


 ……どうやらこれ以上ここにいるのは無粋みたいだな。


 本当ならこの金貨は返したかったが、どうもそういう空気でもない。ここで返せば折角のいい雰囲気に水を差してしまうだろう。


「……また近いうちに顔を出すよ」


 家族水入らずの時間を作るため、俺はそう言って立ち去ることにした。


「ああ。俺たちはいつでも歓迎するぜ」


 最後にぽすっ、と俺の胸元に拳をぶつけるカミラ。

 彼女なりの挨拶だ。

 カミラに抱かれるリリィもぶんぶんと頷いて、


「絶対また来てくださいね。私、もっと紅茶の淹れ方練習しておきますから」

「ああ。楽しみにしとくよ」


 最後にリリィと言葉を交わし、俺は部屋を出た。

 何やら二人の声が奥から聞こえてくるが盗聴の趣味はないので早々に退散させてもらう。

 

 妹想いの姉と、姉想いの妹。

 それはひとつの理想の形。

 

 家族というものを詳しく知らない俺にとって、それは絶対に手に入らない類のものだ。

 生まれた頃からそうだった。幼い頃に父を亡くした俺は母と二人で生きてきた。それが普通だったから、他の家庭を羨むことなんてなかったけど……


 ──俺は心のどこかでずっと、求めていたのかもしれない。


 かげがえのない、唯一無二を。

 他の全てを犠牲にしてでも守りたい、大切な何かってやつを。


「……今更だな」


 自分で自分の思考に失笑する。

 ただ一人の女の子も守れなかった俺に何が守れるというのか。

 この手は何も守らない。


 その代わり……代償を支払わせる。

 俺はそのために、生き延びたのだと信じている。


「……行くか」


 少し休んだら王都に向かうための準備をしよう。

 これ以上、待たせるわけにもいかないからな。


 眠気を吹き飛ばすように歩く道すがら、すれ違う人を尻目に俺は借家へと戻る。そういえばイリス達はちゃんと帰ったのだろうか。彼女達とは表通りに戻ったところで別れたからその後のことを俺は何も知らない。


 ──イリスは俺に愛想を付かしてしまったかもしれない。


 借家の玄関前で固まる俺の脳裏をよぎったのはそんな妄想だった。

 イリスとは酷い喧嘩別れをしている。いつも俺の帰りを待っていたイリスも、今回ばかりは怒っているに違いない。いや、下手をしたらあの短気な少女のことだ。荷物をまとめて出て行っているかもしれない。


「…………なわけないか」


 アイツが一人で生活できるわけがない。俺は一瞬浮かんだ不安を笑い飛ばし、借家へと上がりこむ。


「おーい。帰ったぞー」


 いつものように声を上げるが……帰ってくる返事はない。

 その代わりに奥の扉から顔を覗かせたのは……


「……あ」


 つい数時間前に俺が買ったばかりの、奴隷の少女だった。


「カナタさんっ!」


 俺の姿を見つけるや否や、少女はだっ、とこちらに駆け出して俺の懐に飛び込むようにしがみついてきた。


「お、おい突然どうした? というかイリスは? 一緒に帰るよう頼んだよな?」

「それが……」


 俺の問いに、少女は何があったのかぽつりぽつりと語りだす。

 その話を全て聞いた俺は……


「あの……馬鹿ッ!」


 イリスの短絡的な行動に、思わず汚い言葉が漏れる。


「お前はここで待ってろ!」


 少女の返事も待たず、俺は今来たばかりの借家を飛び出す。

 ああ、もう。なんでこう悪いことってのは重なっちまうんだよ!


 向かう先はイリスと別れた表通り周辺だ。

 しかし、走って向かったそこに、イリスの姿はなかった。どうやらもう移動してしまったらしい。他にイリスが向かいそうな先となると……


「裏路地か」


 またか、と愚痴を吐きたい気持ちをぐっと堪え、俺は三度その裏世界へと足を踏み入れる。表の世界にいられない、所謂浮浪者や犯罪者がたむろする裏路地は端的に言って危険だ。

 イリスのような小さな女の子が一人でいれば格好の獲物にされてしまうだろう。


(考えろ……イリスの行きそうな場所はどこだ?)


 変なところで度胸のあるイリスはこういう場面でも物怖じしない。それが悪い方向に転がることもあるだろうが、今回ばかりはその習性がありがたかった。

 これで少しは足取りの目処がつく。


「こっちか……?」


 半分推理、半分勘でイリスを探してさ迷い走る。

 そして……


 ──俺はその現場に出くわした。


 地面には何人もの男達が折り重なるようにして倒れている。目立った外傷や、血も流れていないことから気絶しているだけだと推測できるがその数が尋常ではなかった。

 一人、二人ではきかない。

 何十人もの男達が地面を無様に這い蹲り出来上がったその山の頂上に……


「カナタ?」


 いつも見ていた瑠璃色とは違う、真紅に染まる瞳を宿したイリスがいた。

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