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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第二部 復讐者篇

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「月下の誓い」

「はぁ……はぁ……」


 体中が重く感じる。

 俺は一体何回死んだ? 少なくとも50は逝っただろう。それでもまだ生きている。体にまとわり付く倦怠感は恐らく俺の魔力切れを示している。このまま戦い続ければ俺は死ぬだろう。


 地面に横たわり、そんなことを考える傍ら……


「……ちっ、殺しきれなかったかよ」


 体中に傷を作ったリックも同じように地面に背をつけているのが見える。

 途中から時間稼ぎの役目なんてすっぽり抜け落ちていたがこれだけ足止めできれば十分だろう。リリィが無事に逃げ切れていればいいのだが……


「オイ、聞いてんのかよ」

「……なんだよ」

「お前、この街に住んでんだろ? この先移住予定はあんのか?」


 疲れているから正直会話すらしたくなかったが、リックの強い口調に引っ張られるように答えてしまう。


「……少ししたら出て行くつもりだけど」

「どこにだ」

「……なんでそれをお前に教えなくちゃいけねえんだよ」


 もしも付いてくるなんて言われたら最悪だ。もうお前の顔は二度と見たくねえ。


「お前の顔を二度と見たくねぇからお前の拠点から遠くの都市に移動すんだよ」


 と、思ったらどうやら向こうも同じことを思っていたらしい。


 最初はあんなに楽しそうに戦っていたリックは時間が過ぎるにつれてどんどん顔を引きつらせていった。どうやら殺しても殺しても死なない相手ってのは精神的に疲れるものがあるらしい。


 まあ、それが分かって途中から灼熱の剣も引っ込め、持久戦狙いに切り替えた俺も俺だけどよ。あれ、燃費悪いからなぁ。

 不死の天権は魔力が切れると機能しなくなる。そして灼熱の剣は維持するだけでガンガン魔力を消費していくから二つ同時に使うのは非常に燃費が悪い。


 常に右手を修復し続けているってのもそれに拍車をかけているのだろう。とはいえ灼熱の剣を使うには右手を代償にするしかないのだから仕方ないといえば仕方ないのだが。


「お前とは当分戦いたくねぇ」


 漏らすリックに俺も頷いて返す。

 俺は当分というか一生戦いたくねえけどな。


「そんで? お前はどこに向かうつもりなんだよ」

「……王都だ」

「なら俺は東に行くことにする。海に行って旨いもん食う。今決めた」

「海の近くには旨いものあんの?」

「そりゃ海産物は鮮度が命だからな。金だせばどこでも食えるだろうが一番は現地だろ」

「ふーん」


 そういえばこっちにきてから魚料理はあんまり見たことない気がする。前に食べたフィッシュサンドは確か川で釣った魚を使っていたはずだし、海でしか採れない魚も必ずいるだろう。

 ──ちょっと食べてみたいかも。


「……おい、分かってんだろうな。行くなら北の海にしろよ。間違っても東の海には来るんじゃねえぞ。ばったり出くわしたら殺すからな」

「わ、分かってるっつの。ていうか俺には王都に行ってやることあるんだからそんな道草食ってる暇はない」

「ならいいけどよ」


 どもった俺にリックはこちらに聞こえるようにため息をつき、


「……オレはそろそろ行く。依頼人に見つかっても面倒だからな」

「依頼人? ……ああ、今回の誘拐のか」


 そういえば聞いたことがある。こういう普通のギルドで任せられないことを専門に請け負う裏ギルドというのが存在すると。


「オレが依頼を失敗するなんて……初めてのことだぜ、チクショウ。これで評判下がって仕事が減ったら恨むからな」

「知ってるか? そういうの逆恨みって言うんだぜ?」

「逆恨みも立派な恨みだ」


 いや、少しは引けよ。


「そんじゃあなカナタ。出来れば二度と会いたくねえが……」


 そう言いながら立ち上がるリックはちらりとこちらを見て、


「……なんだかまた会いそうな気がすんだよなぁ」

「奇遇だな。俺もだ」


 なんつーかそういう予感がある。俺もこいつも似たところがあるからな。こうやって裏の世界で出会ったのも偶然って気がしない。


「……あばよ」

「ああ」


 それが分かっていたからなのか、リックは特に何かを言い残すことなくあっさりと立ち去っていった。余韻もなく、一人残された俺は右手を空に向けて伸ばし、開く。


(……勝てなかったな)


 思うのはさきほどの戦いのこと。

 結果から見れば引き分けと言っていいだろうが、それは俺に"時間稼ぎ"という目的があったからだ。事実リックは俺が持久戦に切り替えたとたんに詰まらなさそうな顔をしたからな。

 ガチで戦っていれば……きっと俺は負けていた。


「くそっ……!」


 誰にでもなく毒を吐く。

 こんなことで……俺は目的を果たすことができるのか?


「ああ、ちくしょう。強く……なりてぇなぁ」


 強く握り締めた拳はただ何もない虚空を掴み、終わる。

 本当に何かを為すつもりなら……このままではだめだ。


 もっと、もっと、もっと、もっと。俺は強くならなくちゃいけない。

 爛々と輝く月が照らす中、俺はここにはいない誰かに向かい、改めて誓う。


 ──俺は強くなるから。


「……よし」


 少しだけ回復した気力に俺は重い体をもそりと持ち上げ、歩き始める。こんなところでいつまでも寝転がっていたらいいカモにされてしまう。俺も帰らなくちゃな。


 ──あいつらの元へ。

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