「復讐への道」
イリスに急かされ報酬の高い任務を受けるようになってから数日、俺のギルド内での立場も少しずつ変化するようになっていった。
「よう、カナタ」
今日も今日とてギルドで任務を受けようと大掲示板に視線を向けていると、俺の名を呼ぶ声が耳に届いた。振り返ってみると、黒服を連れてちょうどギルドに入ってきたところらしいカミラの姿があった。
「何だ、カミラか」
「何だとはご挨拶だなあ、おい」
少し疲れた様子のカミラは俺に向かって近寄り、俺が覗いていた掲示板に目を移すと不思議そうな顔で口を開いた。
「討伐系、か。カナタはいっつも一人でいるけど任務も一人でこなしてんのか?」
「ああ、基本的にはな」
たまにアーデルと一緒に任務を受けることもあるが、それも最近ご無沙汰だ。
「ふーん」
「何だよ」
「いや、難易度が高い討伐系を一人でやるなんてよっぽど腕っ節に自信があるんだろうなって思っただけだ」
「そんなんじゃねえよ、ただ誰かと組んで戦うってのが苦手なだけだ」
「確かにお前、根暗っぽい顔してんもんな」
そう言って快活な笑みを浮かべるカミラ。これが地顔なんだよ、放っとけや。
「ま、怪我だけは気をつけろよな。身の丈に不釣合いな任務を受けて死んじまった奴も少なくねえ」
そう言って俺の胸に拳をぶつけるカミラ。彼女なりの挨拶らしく、別れ際にこうしていくことが常だった。わずかに感じた衝撃を胸に、離れていくカミラを見送る。
ギルドの奥、ギルドメンバーしか入れない一室に向かうカミラに付き従うように寄り添う黒服と……
(あの子は確か……リリィって名前だったか)
カミラに良く似た双子の妹、リリィがカミラの背中に隠れるようにして歩く姿が目に映った。まるで鏡写しのようにそっくりな二人、外見で違うところと言えば髪の長さくらいのものだ。
色素の薄い黒髪を短く大雑把に切りそろえているカミラに、肩口で丁寧に切りそろえているリリィ。それだけで二人の性格が大体分かってしまいそうだ。
とはいえ妹のリリィとは話したことがないのでどんな性格なのかは知らないけど。リリィはよくカミラと一緒にいるが、俺とカミラが話しているときはきまって俺から少し距離を取るようにしてカミラが話し終わるのを黙って待っている。今だってカミラと俺が話している間、黒服のそばで立ち止まったままこちらに近寄る素振りすらなかった。
「…………まあ、いいか」
少し引っかかる気分だったが、別に話ができたからなんだと言うわけでもない。俺は改めて掲示板に向き合い、今日の食い扶持を探すことにした。
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その日の仕事を終わらせた俺は借家へと戻っていた。
木製の古臭いドアを開け、中にいるであろうイリスへと声をかける。
「イリスー、いるか?」
玄関を抜け、リビングの方向へと向かいながら俺は返事が帰ってこないことに首をひねる。いつもこの時間帯なら家にいるはずだが……寝ているのだろうか。
「イリス?」
リビング、キッチン、寝室とくまなく探してみたがどこにもイリスの姿はない。どうやら珍しく外出しているようだ。
俺は手に持ったお土産……今日の任務が上手くいった祝いに買ってきた甘味を持ったまま頭をかく。
肩透かしを食らった格好だがいつまでもこうしてはいられない。俺は仕方なくイリスが帰ってくるまでの間に溜まっていた家事を消化することにした。ほとんど一日中家にいるくせにイリスは家事のひとつもしやがらないので大抵の家事は俺がすることになっている。
「くう……冷てぇ」
衣類を手もみで洗濯していると水の冷たさが肌に突き刺さった。
どうやらこの世界にも大体の四季はあるようで、今の季節、日本でいうところの冬の入り際に位置するこの時分に水に手を漬けるのは非常にこたえる。
「……めんどくせえなあ」
暇なんだからイリスがやってくれればいいのに。本当にあの幼女は使えない。
というかこの世界の家事があまりにも大変すぎるのだ。日本に居たころならばボタン一つで洗濯が完了するというのに、この世界ではいちいち手で洗わなければならない。
王城にいた頃は他の奴が代わりにやってくれていたから気付かなかった苦労だが……
「…………」
王城にいた頃、か。
あの頃は気付いたら洗濯された衣服が自室に用意されていた。当時は何の疑問も感じないまま使っていたが……もしかしたら、あの子がやっていてくれていたのかもしれないな。
「…………」
いつの間にか止まっていた両手。
俺はゆっくりと意識的に手を動かして思考を破棄しようと試みる。
だけど、一度考えてしまったその想いはなかなか頭の中から離れてはくれなかった。
今でも夢に見る、あの日のこと。
俺が臆病だったから、俺が無力だったから。
あの子を……シェリルを守ってやることができなかった。
後悔なんて生易しいものではない。これは痛みの記憶。肌を刺される感覚よりも鋭敏に、肉を焦がす熱よりも鮮明に、骨を砕く衝撃よりも重く俺の心に居座る癌だ。
それはチクチクと、あるいはズキズキと痛みを主張して俺の背を押してくるのだ。前へ、前へ、前へと。
──あいつらをコロセと、囁き続けるのだ。
「…………分かってるさ」
そう、分かっている。
これが単なる八つ当たりに過ぎないってことは。
シェリルが死んでしまった原因はあいつらにだけあるわけではない。もちろん、俺を裏切ったあいつらを許すつもりは毛頭ないがシェリルの死の原因全てを押し付けるつもりも同じようにない。
シェリルの死の原因は確実に俺にもあるのだから。
そう言う意味では俺の復讐はただの八つ当たり。行き場のなくなった感情をもてあます子どもの癇癪そのものだ。
けれど……それでも俺は立ち止まるわけにはいかない。
あの地獄の日々に誓ったのだから。
そうでなければ俺は何のために生きているのか分からなくなってしまう。何のために……リンドウを殺したのかが、分からなくなってしまう。
「……よし」
俺は思考を振り払うように手を払って水気を飛ばす。
洗濯を終えた俺は次なる家事に取り掛かるため、家を徘徊するのだった。
あちこちに溜まっていた埃を払い、ゴミを片付ける。小一時間ほどそうしたところで玄関から「ただいまー」と、イリスの声が聞こえてきた。
「おかえり、お前が外出するなんて珍しいな。どこ行ってたんだ?」
姿を見せたイリスに問いかけるとイリスは憮然とした表情を作ってみせた。
「カナタが働いている間私が何もしてないとでも思ってたの?」
「うん」
即答する俺にイリスの拳が飛ぶ。
ぽすっ、と情けない音と共にぶつかる拳は驚くほどに軽かった。精神世界では無敵のイリスもリアルでは単なる女の子に過ぎない。自分の力では俺にダメージは与えられないと悟ったのか、イリスはため息をついて続ける。
「情報収集してたのよ」
「情報収集? 一体何の?」
「……なんでもいいでしょ」
俺の問いに言いずらそうに顔を背けるイリス。こいつがこういう態度を取るときは決まってこいつの『目的』に関連するときだ。つまり、イリスの復讐絡みの情報なのだろう。
イリスは復讐について俺に何も教えてくれない。俺から積極的に聞き出そうとしないってのもあるが、イリスは誰に復讐つもりなのかも、どうやって復讐するつもりなのかも、いつ復讐つもりなのかも、一切俺に教えようとはしなかった。
俺を彼女の私情に巻き込まないためにそうしてくれているのかもしれないが……正直、俺はこの状況を納得してはいない。
彼女が求めるならば彼女の復讐に手を貸してやるくらいのつもりはあるのだ。それくらいの覚悟がないならばあの日、イリスの手を取ったりなんかそもそもしていない。だというのにイリスはまだその一線が越えられないのか、俺に何があったのかその詳細を打ち明けようとはしないのだ。
「なにふくれているのよ」
「別にー、何でもないですよー」
「明らかに拗ねてるじゃない」
呆れた様子のイリス。どうやら不満が顔に出てしまっていたらしい。
「はあ、まあいいわ。それより今後の方針に関する情報を手に入れてきたのよ。少し話、いいかしら?」
落ち着いて話そうと提案するイリス。どうやらそれなりに真面目な話らしく俺達はいつものテーブルで向かい合って座り、改めて話をすることに。
「地図を出すわね」
まず第一声でそう言ったイリスは部屋に吊るしてあった地図をとりテーブルに広げた。俺に見やすい向きで開かれた地図、その上の文字をイリスの細い指が撫でる。
「まず私達のいるこの街、ケルンがここよ」
「ふむ」
アストル大陸の全域が記された地図、その北側に位置する人間種の生存圏の東側に位置するのがケルン。教えてもらえるまで分からなかったが、結構大陸の端のほうまで来ているらしい。
「それで次にここが魔族領ね」
そう言って指を西側にスライドさせるイリス。
地図上で真っ黒に塗りつぶされているのが魔族領にあたるようで、そこには街の名前はおろか地名すら載っていない。まあ、塗りつぶされているのだから当然だが。
「こうしてみると王城と魔族領って結構近いんだな」
「そうね、目と鼻の先とまでは言わないけど。馬車なら3日程度の距離ね」
「まあ、魔族領に近い街なら他にもあるけどよ。王様のいる王城が魔族領の近くってのはまずいんじゃないのか?」
「そうかしら。魔族領に近い最も戦力の終結する場所に王を置くのはそれほど間違った戦略でもないと思うけれど」
うーん。確かにそういわれればそうかもしれない。しかしどちらにしろ俺達は戦略家でもなければ騎士団員でもない。王城がどこにあろうと気にすることはない。
「話を戻すわよ。この魔族領と王城の間にある街……ミランが潰されたみたいなの」
「潰された……って、誰に?」
穏やかではないイリスの台詞に思わず聞き返す俺を、イリスは馬鹿をみるかのような視線で見つめ、
「魔族に決まっているでしょう」
と、吐き捨てた。
「魔族、か」
「ええ。人間と魔族は今戦争中。貴方達もその戦力として呼ばれたのでしょうに」
なんでこんなことにもすぐ気付かないのかと言外に告げるイリス。
確かにこれはすぐに気付いてもおかしくないことだったな。まだ平和ボケしていた頃の感覚が抜けきれていないらしい。
「人間側には多数の死者が出たらしいわ。ここまで大規模な魔族側の侵攻は大体10年ぶりね」
「魔族が動き始めた、ってことか」
「まだケルンからは遠いけど、いずれ戦力の徴収がかかるかもしれないわ。冒険者ギルドに登録している以上、完全に無視はできないわ」
「……なるほどな」
冒険者は街の安全を守るのが仕事だ。そのためそれらの業務を管轄するギルドから直接降りる徴兵は断りづらい。要請を突っぱねればギルドから睨まれることになるだろうし、他の冒険者に侮蔑されることも想像に難くない。
つまり……
「そろそろ冒険者家業も終わり、ってことか」
「そうね。そうするのがいいと思うわ」
俺達は暢気に戦争なんてしている暇はない。俺達には為さねばならないことがあるのだから。
「もう少し資金が溜まったらこの街を出ることにしよう」
「カナタはどこか向かうアテはあるの?」
「ああ」
そろそろ決着を付ける頃だと思っていた。
この痛みにも。
「俺は王城に向かう」
断言した俺の言葉に、イリスは僅かに表情を強張らせた。
「……ついに始めるのね、復讐を」
「そうだ」
頷く俺にイリスは唇に手を当て、ちらりとこちらに視線を送る。何か言いにくいことでもあるのだろうか?
「ねえ、提案があるのだけど……」
ゆっくりと口を開いたイリス。
「何だ?」
「いや、その……もし迷惑だっていうのなら断ってくれてもいいのだけれど……」
いつものイリスらしくない歯切れの悪いその言葉に俺は内心首をかしげていた。いつもなら言いたいことを好き勝手に言いまくるイリスがこうして言い淀むのだから相当に相当なことなのだろうと身構えていたのだが、
「カナタのその旅に……私も同行してもいいかしら?」
そんな思ってもいない提案をしてきたのだった。
へ? って感じだ。
「へ?」
感じではなく思いっきり声に出ていた。
「い、いやカナタが無理だって言うのならもちろん諦めるわよ? ただ、旅って何かと大変じゃない? その為のパートナーが必要なら、私が付き合ってあげないこともないかもしれないってことよ」
俺の素っ頓狂な声に慌てた様子でイリスが早口でまくしたてる。
後半何を言っているのか分からなかったが、とりあえず確認しておきたいことがあった。
「イリス、お前」
「な、何かしら?」
「……付いて来ないつもりだったのか?」
「……へ?」
今度はイリスが間抜けな声を上げる番だった。
「いや、俺は当然イリスも付いてくるものだと思ってたんだけど」
「え? そ、そうなの?」
「ああ」
当たり前のこと、大前提として考えていたから改めて同行の許可を求められると面食らってしまった。イリスが付いて来ない、つまり俺と別行動をするなんて……そんなの考えられない。
「そ、そっか……当然なのね……」
「ああ、今から別行動なんて……無理だろう」
「そ、それなら仕方ないわね! カナタがどうしてもって言うなら付いていってあげないこともないわ!」
いつの間にやら付いて来るから付いていってあげるに変化していやがる。図々しいやつめ。
というか本当にここで分かれるって事態も視野にいれていたのだろうか、こいつは。イリスが俺と別行動なんてそんなの無理に決まっている。そんなことしたら……イリスが死んでしまうではないか!
目の前で「やっぱりカナタには私が付いていないと駄目ね!」と薄い胸を張る少女は俺のサポートがなければ明日の食うにも困る状況だ。俺という命綱がなくなってしまえば即座に人生の崖下へ転落してしまうことに違いない。
死にはしなくても行く先は奴隷商の元か、快楽街の娼婦となるか……ろくな未来が待っていないことは間違いない。基本的に騙されやすい性格してるからな、こいつ。
「まあ、そういうことだから。これからもよろしく頼むぞ、イリス」
「ええ。大船に乗ったつもりでいなさい」
ただそんなことを指摘しようものなら鉄拳が(精神世界で)飛んでくることは確定的に明らか。口には出さない。
「数日中には出れるように身支度はしておいてくれ」
「分かったわ」
これで方針は決まった。
地図を丸め始めるイリスに俺は少しだけ気になっていた事を聞いてみた。
「なあイリス。ミランで起こった戦闘は人間側の死者多数って言ってたよな」
「ええ。それがどうかしたの?」
「いや、人間側にそれだけの被害が出たなら魔族側はどうだったのかなって思ってさ」
単純に戦力比が知りたいというのもあった。今の人間側に、魔族に対抗できるだけの力だどれだけあるのかという質問だったのだが……
「ゼロよ」
「…………ゼロ?」
イリスの口から放たれたのは信じ難い情報だった。
「いやいや、戦争なんだろ? いくらなんでもゼロってことはないだろう」
「間違いないわ。魔族側の被害はゼロよ」
聞き返す俺の言葉をイリスはぴしゃりと跳ね返す。その冷たい声音からイリスが冗談を言っているのではないと分かった。しかし……
「……信じられねえ」
街一つが潰されるほどの被害だ。相当の戦火が巻き起こされたのだろう。だというのにそれが片方のみに被害が集中しているとは……一体どれほどの戦力差があればそんなことになるのだろう。
「というかそんだけ力の差があるなら何で人間はいまだに生きているんだよ」
「それはまあ……単純に数の問題でしょうね」
「数?」
「ええ。貴方は知っている? 今魔族がどのくらいの数いるのか」
イリスの問いに俺は首を横に振って答えた。
それに対してイリスはでしょうね、と呟いて……
「13よ」
背もたれに寄りかかるように体重を傾け、そう言った。
「何が?」
イリスの口にした数字が何のことか、俺には分からなかった。
「魔族の人数」
それに対するイリスの答えは単純なものだった。
「……マジで?」
俺の問いに今度はイリスが首を振る番だった。しかし今度は縦に、だ。
魔族の人数が少ないであろうことは何となく察していたが……まさかそこまで少ないとは思っていなかった。これは王城にいたころ、ルーカスにも教えられていない情報だ。
「彼らは人数が少ないから攻めるにしても時間がかかるのよ。本拠地を疎かにできない以上、ある程度の人数は防衛に割く必要もあるし」
「なるほど……でも13人しかいないってんなら少し楽になるな」
敵がたったの13人しかいないなら、すぐに人間側がどうこうなることもないだろう。そう思ってのことだったが、
「何言ってんのよ」
鋭い口調のイリスによって言葉を遮られる。
イリスは俺の言葉にため息でも付きそうな顔で、いや実際に少しため息を漏らしながら言葉を続けた。
「13人しかいないのに人間側を追い詰めている。その事実がどういう意味を持つのかもっとしっかり考えなさい」
「……けどさ、リンドウにしたって俺にやられたくらいだぜ? 魔族って言ってもそんなに強いわけでもないだろ?」
「……はあ」
イリスは俺の言葉に今度こそはっきりとため息を付いて見せた。
何だろう。何も分かってないコイツ、みたいな視線を感じる。そんなにおかしなことを言っているだろうか。
「まあいいわ。それより問題なのは13人しかいなかった魔族の一人を貴方が殺してしまったことよ。人数が少ない分、彼らの絆は他の何よりも深いはず。夜道には十分注意することね」
「怖いこと言うなよ……」
イリスが言うとマジでそうなりそうで怖い。
まあこれから復讐しようって奴が報復を恐れてどうするって話だが。
「まあそれはカナタがどうにかするとして、これからの予定を立てましょう」
そして不安にさせるだけさせといて責任放棄かよ。本当に良い性格をしていらっしゃる。
「これから王城まで旅をするなら仲間が必要ね」
「だな、流石に2人で旅するのはきつい」
町の外は普通に魔物がうろついている。休憩中の見張り要因を考えると最低でも3人は欲しいところだ。
「どうする? ギルドで募集してみるか?」
「お金かかるから却下よ。それに裏切られる可能性もあるわ」
俺の提案をばっさり切り捨てるイリス。けど確かに裏切りのリスクは怖い。金銭報酬によって繋がれた関係は同等以上の金銭によって崩壊する。旅の途中で俺達を殺して身包み剥いだほうが金になると思えばそれを実行しない手はない。
誰かに何か言われても「魔物に殺された」の一言で済んでしまうし。まあ、俺の場合は死なないんだけどな。けど死なないにしても裏切られるリスクを抱えるのは面倒だ。それならイリスと二人で旅をしたほうが精神的に楽だろう。
「ギルドで募集するのは駄目だとして……ならどうする? このまま二人で行くか?」
「いえ、それは流石に無謀というものよ。貴方だって魔力が切れれば死んでしまうのだから仲間は多いにこしたことはないわ」
魔力は言い換えれば精神力でもある。睡眠時間や体力が削られれば当然魔力は回復しないし、戦闘が続けばそれだけであっという間に魔力は枯渇する。それが長期戦となる旅であれば尚更だ。
悩む俺の目の前でイリスはパンと、手を叩く。何か案があるらしい。
「ここは王道を行きましょう。こういう時のためにあるような最適の案があるわ」
「おお、いつになく自信満々だな」
これは期待が持てそうだ。
俺は耳を傾けてイリスの次の言葉を待った。
そして……
「奴隷を買いましょう」
イリスは満面の笑みで、そう言った。




