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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第二部 復讐者篇

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「冒険者ギルド」

 冒険者ギルド。

 それは冒険者や旅人、傭兵達が仕事を求めて集う場所だ。情報の集中化を図るために街に一つしか用意されていないそのギルドと呼ばれる建物に集う者は数多い。


 すでに仕事を探しに来た冒険者の人達の姿が散見される中、一際大きな一段が集まる一角……大掲示板の前に俺は向かう。

 高さ5メートル近い大掲示板に張り出された依頼の数は、今まで見たことが無いほどに多かった。基本的に依頼の追加は朝一で行われるため、この時間帯が一番依頼数が多いのだ。


 俺はある程度の区分けがされた依頼書の内、討伐系の依頼が集まっている一角に近づく。危険な任務も多い討伐系の依頼を受けるのは血の気の多い野蛮人ばかりだ。

 屈強な男達が立ち並ぶそのエリアに行くと……


「……カナタ! カナタじゃないか!」


 大声で俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 一体誰だよと思いつつ振り返ってみると、そこには金髪と漆黒のマントを揺らす少年の姿があった。歳は俺と同じくらい、憎たらしいくらい整った顔には俺を見つけた喜びが感じ取れた。


 そうだった。つい、うっかりしていた。

 どうして俺がこの時間帯の依頼を避けて昼頃に向かうことになったのか、その原因を。


「……久しぶりだな、アーデル」


 俺は苦虫を噛み潰したかのような顔で目の前の少年に一応の返事をする。正直、こんなところで会いたくはなかった。


「全く、最近姿を見せないから心配していたぞ。何か大切な用事でもあったのか?」

「最近は昼に来るようにしてたんだよ」

「なぜだ?」


 お前に会うのが嫌だからだよ。

 とまでは流石に言えない。俺は結局話をそらして誤魔化した。


 アーデル・ハイト。


 こいつは俺と同時期にこの冒険者ギルドにやってきた駆け出し冒険者だ。偶然同じ依頼を受けようとしたところ、意気投合して一緒のパーティを組むことになった。それから数日間、一緒に依頼をこなしていたのだが……こいつにはどうしても許容できない大きな問題点があった。


「それよりカナタ。例の件……考えてくれただろうか?」

「はあ……」


 会うたびに聞かれるその台詞。俺はいい加減うんざりしていた。こいつも本当に懲りない。

 こいつに聞かれた例の件とは、アーデルのことをイリスに紹介するというものだ。どうしてそんなことを頼まれているのかと言うと……


「嗚呼、あの宝石のような瞳。白雪のような肌、輝く銀の髪。もう一度……もう一度だけでもあの天使様にお会いしたいものだ……」


 コイツは超が付くほどのロリコンだったのだ。

 一度アーデルの飲みに付き合った時のこと。夜遅くまではしゃいでいるとお腹を空かせたイリスが俺を探しにきた。そして、その時にその姿を見て一目惚れしてしまったらしい。


 確かに顔だけは可愛らしいイリスのこと、しかしイリスは幼女と言ってもいい外見をしている。本人に言ったらぶっ飛ばされるだろうけど。

 正確な年齢は聞いたことがないが、きっと12か13くらいの年齢だと思う。


「お前確か20近いんだったよな。何度も言ってるけどやめとけって。おまわりさんに捕まりたくはないだろ?」

「なぜ警備兵に捕まってしまうのかは分からないのだが……僕のこの情熱は本物だ。とても押さえつけることなんて出来ない!」


 バッ! とマントを翻し、宙に拳を掲げるアーデル。いちいち仰々しい奴だ。


「イリスちゃんと君は別に恋仲でも何でもないのだろう? だったら紹介くらいしてくれてもいいではないか」

「あいつ、人見知りなんだよ」


 さらっと嘘を付いて場を誤魔化す。


「そうか……それなら無理強いするのも良くないな」


 純粋なアーデルは俺の言葉を信じ込んだようで、そう言って引き下がる。ロリコンであることを除けばこいつはかなりの人格者だ。だから俺も最初は見誤ったのだ、こいつの本質を。


「むっ!? あれは!?」


 突然目を見開いて、驚いた声を上げるアーデル。今度は何だよ。


「おお! こんな朝早くからお目にかかることが出来るとは! 今日はツイてる!」


 アーデルが視線を向けるその先には、黒服を引き連れる二人の少女の姿があった。このケルンの冒険者ギルドの管轄を行っている大ギルド、【天秤(アイリス)】の一団だ。


「ああ……カミラちゃんとリリィちゃん。今日も可愛いなあ……」


 うっとりとした表情で漏らすアーデル。この変態っぷりが無ければいい奴なんだが。


「おい、アーデル。お前が何を思おうとお前の勝手だが口に出すのはやめろ。俺にまでとばっちりが飛びかねん」

「おっと失礼。思わず声に出してしまっていたようだ」


 しかも無意識かよ。救えねえ。

 アーデルがご執心なのは何もイリスだけではない。どうもこの変態は幼女なら誰でもいいらしく、見境がないのだ。


 今アーデルの視線を奪っている二人の少女……カミラとリリィは商業ギルド、天秤(アイリス)の中核に位置する二人だ。何でも天秤の土台となったカフマン商会の大商人、カフマンの娘ということで将来を期待されその才覚を遺憾なく発揮しているとかなんとか。


 商業ギルドとの付き合いはないため、俺も深いことは知らない。

 ただ、この街の冒険者ギルドを管轄しているのは天秤(アイリス)だ。彼女達に目を付けられれば依頼を受けることすら出来なくなる。そう言う意味では逆らってはいけない絶対的上位者。つまり、アーデルの不敬の巻き添えを食らうわけにはいかないということだ。


 もっとも、目を付けられれば別の街に移って他のギルドが管轄する冒険者ギルドに行けばいいだけだが、そんな面倒は避けられるなら避けるべきだ。


「もし今の聞かれてたら……取り巻きにぶっ殺されてたかもな、お前」

「うむ、次から気をつけよう」


 全く反省した様子もなく頷くアーデル。

 本気でコイツとの距離感は考え直した方がいいのかもしれない。


「そういえばカナタ、君はどこのギルドに所属しているのだったか」

「ん? 俺か? 俺はどこのギルドにも所属してないぞ」

未所属(フリー)だったのか。しかし、それだと活動しにくくないか? 良かったら僕の所属するギルド、【黄金の夜明け(ファウスト)】に渡りをつけるが」

「いや、いいよ。俺あのギルド少し苦手だし」

「は、はっきり言うのだな。君は……」


 確かにそのグループに所属しているアーデルを前にして言うにはいささか配慮が足りなかったかもしれない。だけど、本当に嫌いなんだもん。あのギルド。


 ギルドにはいくつか種類がある。商業ギルド、情報ギルド、輸送ギルド、研究ギルド、魔術ギルド。そのギルドには個々の目的があり発足されたものなのだから、細分化されるのは当然だ。しかし、アーデルの所属するギルド・黄金の夜明け(ファウスト)は中でも幅広い活動を行っている。


 一応、分野としては戦闘ギルドという扱いになっているがその活動内容は様々。三大大手と呼ばれるギルドの一角を担うだけあって、黄金の夜明けのメンバーは多い。その分、色んな依頼を同時に引き受けることが出来るという訳だ。


 駆け出し冒険者が入るなら、黄金の夜明けが一番良い。そういう風に言われることも多い。それが黄金の夜明けというギルドの特色だ。

 だけど……


「門戸が広い分、ガラの悪い奴も多いからな。大手っつっても一長一短だよ」

「ふむ……確かにそうかもしれんな。だが仲間は多い方が何かと便利だぞ? 入ってくる情報も未所属とは段違いだろうし、何より収入が安定する」

「まあ、な」


 黄金の夜明けが駆け出し冒険者に好かれる理由。それは数あるギルドの中で、唯一初心者支援が行われているという点だ。

 ギルドの規約により、全てのメンバーの報酬の内一割が新人育成に使用されることになっている。金銭的に安定しない駆け出しのうちに、こういった支援が受けられるのは本当に大きい。


「ま、仕方ないか。カナタは団体行動とか苦手だものな」

「ギルドに所属してる癖にいっつもボッチのお前には言われたくねえ」

「それを言うなよぉぉぉぉっ!」


 案外気にしていたらしい。

 俺を黄金の夜明けに誘ったのも、もしかしたらギルド内で知り合いが欲しかったからなのかも……だとしたら哀れすぎるな。


「つか結構時間経っちまったな。俺はそろそろ行くよ」

「うむ。僕も今日はギルドの会合があるのでな、一緒に依頼にはいけないのだ。すまない」


 誰も一緒に来てくれなんて頼んでねえ。


「ではまた会おう、カナタ」

「ああ、またな」

「それとイリスちゃんに僕のことを……」


 アーデルが言い終わる前に、俺はその場を離脱した。

 これ以上、アーデルに割く時間はない。

 背後でアーデルが何か言っているような気がしたが……俺は気にしないことにした。変態への対応なんて、こんなもんで十分だ。

 思わぬ時間を食ってしまったことに嘆息して、俺は改めて依頼を探すことにした。

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