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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第一部 王都召喚篇

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「幕間」

 ぽつぽつと灯る蝋燭の火のみが妖しく照らす廊下を、スザクはコテツとナキリを引き連れて歩いていた。

 ここは王国から少し離れた位置に展開されている魔族領と呼ばれる地域の中枢、彼らの主である魔王が住む魔王城の一角。


 任務を終えた彼らは帰還を果たしていた。


「魔王様は元気でやってるかねぇ」

「ナキリ、失礼」


 腕を頭の後ろに組んでへらへらとした笑いを浮かべるナキリを無表情のコテツが嗜める。そんな二人の態度に忠誠心の違いがよく現れていた。もっとも、ナキリの場合は忠誠心がないのではなく、魔王に対して友人が如き振る舞いを普段からしている気安さからくるものであった。


 主従のあり方としてはやや威厳にかけるが、彼らの主である魔王自身がそのことを承諾しており、むしろスザクやコテツに対して固過ぎると不平を漏らすこともしばしばだった。

 そのことに対して不満はないものの、自分とはスタイルの違う者と言うのはどうしても反発してしまいがちだ。スザクは内心ナキリの態度には納得いかないものがあったが、目的地であるとある部屋が見えてきたため、その文句を飲み込み、別の言葉を吐いた。


「そろそろ着くぞ、無駄話は止めろ」

「はーい」


 間延びした返事にため息をつきながら、スザクはその扉に手をかけ、開いた。

 そうして視界に入ってきたのは部屋の内部。

 廊下と同じように蝋燭の火だけが室内を照らす鬱々とした雰囲気の中、部屋の中で待っていた『彼ら』は一斉にスザク達へと視線を送る。


 部屋の中央に置かれた、馬鹿みたいに大きな円卓。向かいの端まで人一人が寝そべってもなお余りあるその大き過ぎるテーブルには椅子が十三脚用意されていた。


 そして現在、その椅子に腰掛けているものは九名。

 部屋に入ってきたばかりのスザクに最も近い位置に座っていた男がスザクを見て、顔に笑みを浮かべて言い放つ。


「よう、遅いご帰還だったじゃねえか。ええ?」

「こちらにも色々と事情があったのだ。突っかかるな、クレイ」


 クレイと呼ばれた男は逆立った髪を撫でるように整えて、


「いやいや、こちとら三時間も待たされてたんだぜ? そろそろ石にでもなったかと思う頃だ。多少嫌味を言うくらい構わないだろ?」


 自分のやっかみがまさに嫌味そのものだと分かっていてそのことをそのまま口にするクレイの性格の悪さに、スザクは頭痛のする思いだった。長かった任務を終えてようやく帰還したと思ったらこのお出迎え。愚痴の一つでも言いたくなるというものだ。


 スザクが頭を抱えていると、クレイの左斜め前方、部屋を上空から見たとき円卓の七時を示す位置に座っていた女が口を開いた。


「でも何かあったの? 遅刻には口うるさいあんたが遅れてくるなんて」


 椅子に浅く腰をかけ、だらしなく腕を椅子にかける女……アゲハと呼ばれる女が意外そうな表情でそう言った。


「それをこれから報告する」


 いい加減本題に入りたかったスザクはにべもなくそう言って自分の席へと向かう。それに合わせてコテツとナキリも自身の席へと腰を下ろす。

 その様子を見て、おや? という表情を浮かべたアゲハが再びスザクに問う。


「リンドウは?」


 それは四人で向かったはずの仲間に対する疑問であった。なぜ帰ってきたのが三人だけなのか。アゲハはそのことを聞いていたのだ。

 スザクにとっても、それは真っ先に報告しなければならないことだったので、質問に答える形で口を開く。


「リンドウは死んだ」


 端的に事実だけは伝えるその言葉に、室内に静寂が訪れた。

 全員が全員、スザクが何を言ったのか理解できなかったからだ。


「……え? ちょ、はぁ? おいおい、冗談きついぜスザクさんよお、あのリンドウだぜ? それが死んだ? 有り得ないだろう」


 両手を広げておどけて見せるクレイ。

 だがそんな様子にも、スザクは冷えた視線を送るだけだ。

 それだけで、スザクの言っていることが嘘や冗談の類ではないことがその場の全員に理解できた。


「……マジかよ。アイツは……リンドウは魔王軍の第五席だった男だぜ? それが死んだ? 一体何があったんだよ」


 おちゃらけた雰囲気から一転、真剣な表情になったクレイに水を向けられる形でスザクはこれまでの経緯を語りだした。

 召還者に関する情報は手に入れたが、もう片方の移動図書館確保の任務は失敗したこと。そして、その力は捕虜として捕らえていたとある召還者の下にあるという事実。

 そしてその男……青野カナタがリンドウを殺したということを。


「……おい、スザク」


 全てを語り終えたとき、クレイが底冷えするような視線をスザクに送り、低い声で呼びかけた。スザクが視線だけそちらに向けると、確かに憎悪をその瞳に宿したクレイが問いかける。


「お前はその現場を見てたのかよ。見てたらなら……なんで手を貸してやらなかった! テメエ、リンドウを見殺しにしやがったのかよ!?」


 がたっ、と椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がったクレイにスザクは変わらぬ態度で答える。


「俺が気付いたときにはもう手遅れだった」

「なら……どうしてそいつを見逃した。お前の『能力』なら簡単に見つけられたんじゃねえのかよ」

「それは無茶振りだ。確かに俺の能力なら索敵もある程度は可能だが、本領はそちらではない。それに……俺だって心を痛めているのだ。あまり言わないでくれ」

「……ちっ」


 クレイは明らかに腹を立てた様子で席から背を向けた。


「どこへ行く?」

「今日はもう寝る。嫌な事は寝て忘れるに限るからな」


 まだ話の途中だというのに勝手に部屋から出て行ってしまうクレイ。我がままな男だと、スザクは小さく独り言を漏らす。スザクは魔王軍第二席の実力者、つまりは魔王に次ぐ力を持つ男だ。それ故に魔王の代わりに魔王軍を指揮する立場におかれることが多く、自我の強い彼らを束ねることに苦労していた。

 やはり自分ではカリスマに欠ける。

 そのことを自覚していたスザクは自分の左隣、部屋の最奥に位置する席へ座る男へと視線を向け、声をかけた。


「今後の方針はどう致しましょう……『魔王様』」


 これまで一言も喋らずただ座っていた魔王……彼らの主はゆっくりと立ち上がりその輪郭を薄暗い室内にくっきりと現した。

 体格はそれほど大きくはない。リンドウに比べてもいささか線が細い印象は拭えないその体は、それでもリンドウなど比べ物にならないほどの存在感を放っていた。

 威圧感。そう呼んで差し支えの無いオーラを感じる。

 色素の抜けた真っ白な頭髪を揺らし、薄く目を開いたその眼光はゆっくりと魔王軍の面々へと視線を移す。


「……リンドウが死に、我々は遂に十二名となってしまった」


 重苦しい雰囲気の中、魔王が最初に言ったのはリンドウの死を悼む言葉だった。


「彼はこの場の誰よりも勇敢で気骨ある男だったことを私は一生忘れない」


 胸に手を当てて、瞳を閉じる魔王に彼の配下は一斉に同じ形を取る。仲間が死んだときにはいつもそうだ。魔王は決まって彼らの死をこういう形で弔っていた。

 彼は慈愛溢れる男だった。


 リンドウの死に心を痛めているのが言葉の節々から伝わってくる。リンドウは決して褒められるような性格をしてはいなかったが、魔王にとってはそんなことなど関係がない。彼にはこの場の全員が家族のように愛おしく、平等に大切な存在だったのだ。


 故に……彼は許せない。

 魔王は決して許さない。

 自らの星を砕くものを、その光を奪うものを許さない。


「汝らに新たな任務を頼みたい」


 それは運命に愛された男の頼みでもあった。


「リンドウの魂の救済のため……復讐を」


 瞳に怒りと悲しみを潜ませた魔王がその言葉を吐く。

 復讐。

 やられたらやり返すのだと、はっきりと言葉にしたのだ。


「どの道、移動図書館の件も放ってはおけん。誰か志願するものは?」


 魔王の問いに、スザクは真っ先に手を挙げようとした。彼の側近として、彼の右腕として彼から与えられる任務は全て自分の手で完遂させる。それだけの覚悟と情熱がスザクにはあった。

 だが、今回ばかりはそのスザクよりも先に手を挙げる者がいた。


「私が行く」


 確かな覚悟を滲ませるアゲハだった。

 先んじられたことに対する不満を僅かに視線に込めてしまっていたのを悟られたのか、アゲハは睨むような視線をスザクに投げる。


「何よ、スザク。私が行くことに何か問題でもあるの?」

「……いや」


 案外鋭い女だ。

 スザクは小さく首を振って目を伏せた。

 そんな態度にアゲハは鼻を鳴らしてみせる。

 少し雰囲気の悪くなった室内で、彼らの頭領たる魔王がゆっくりと口を開く。


「……お前はリンドウとは昔馴染みであったな。よかろう、今回の任務はお前に任せる」

「はい。必ずや仕留めてみせます」


 ぎゅっ、と握りこぶしを作るアゲハ。

 リンドウとは最も振るい付き合いだった彼女のこと、きっとこの場の誰よりも怒りに燃えているはずだ。


「では連絡役にコテツ、お前も向かってくれ」

「……分かりました」


 一人では何かと不便なことが多いため、サポートにと魔王がコテツを指名する。それに対してコテツが頷いたのを見て、魔王は今回の会議を締めくくる。


「では今日の集会はこれで終了とする。皆、ご苦労だったな」


 その言葉に対し、恭しく頭を下げる魔王軍の面々。

 こうして、彼らの会談は幕を閉じた。

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