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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第一部 王都召喚篇

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「移動図書館」

 私の父は親友に裏切られ、窮地に陥った。

 この魔眼の能力を利用しようとする者は後を絶たない。代々引き継がれてきたこの能力を父から受け取るとき、父は今際の際で私に言った。


「強く生きなさい。自分の目で選び、自分の手で掴みなさい」


 精一杯の声量で、そう言った父が何を伝えたかったのか私はきっと分かってはいないのだと思う。だって、父は復讐なんて望むような人ではなかったから。


 次第に冷たくなる父の手を掴み、私は誓った。

 この手の冷たさを忘れない。


 復讐を、忘れない。


 裏切られ、殺された父の姿は私の中である種の指針として花を咲かせた。

 もう二度と誰も信じない。裏切られるぐらいなら、最初から誰も信用などしない。そうすれば、こんな思いはしなくてすむから。


 追っ手から逃げる日々の中、私はそう胸に誓った。

 だと、言うのに。

 私は出会ってしまった。

 あの、不思議な雰囲気の少年に。

 父と似ていると言ったのは嘘ではない。時折見せるあの困ったような笑顔が、生前の父を思い起こさせる。


 私はそれを、痛いと感じた。

 失ったものは、帰ってこない。

 だからこそ、この胸に空いた穴はふさがることの無い傷として痛みを主張し続ける。彼はその痛みを促進させる針のような存在だった。


 そんなもの、遠ざけて当然。

 だというのに……私は近づいてしまった。


 共にいれば傷つくと分かっていて、彼に話しかけたのだ。

 辛そうな瞳を宿した彼を、放っておくことが出来なかったから。

 今、彼は私の為に立ち上がってくれている。私が一人でこの暗い世界に取り残されることを、彼は良しとしないようだった。


 何で? そう思わずにはいられない。私と彼は血縁でもなければ友人でもない。ただ部屋が隣だったというだけの理由しかないはずなのに。


 つぅっと、頬を伝う涙に気付く。

 ああ、彼は本当に父に似ている。

 私を庇って、死んでいったあの父に。

 彼の背中に、父の背中を重ねた瞬間。


「カナタ! 私の瞳を見なさい!」


 気付けば私は叫んでいた。



---




「カナタ! 私の瞳を見なさい!」


 その声が聞こえた瞬間、俺は半ば無意識にイリスへと視線を移した。

 命を賭けた戦場で、相手から視線を逸らすなんて自殺行為以外の何者でもない。けれど、俺は何かに導かれるようにイリスへと向かいあった。


 そして……世界が、崩壊した。

 イリスの魔眼によって精神世界へと連れてこられた俺に待っていたのは、涙を流すイリスの姿だった。


「……貴方は本当に馬鹿ね」

「……自覚はある」

「本当に馬鹿よ、私なんか助けても何の得にもならないのに」


 イリスは俺を出来の悪い弟を見るかのような目で見ていた。

 彼女にとって助けてもらうという行為は痛みを伴うものなのだろう。辛そうな表情のイリスを見て、初めて気が付いた。彼女は本当に助けなんて求めてなかったのだと。


 けれど、イリスが望んでいなかったとしても。

 俺にも譲れないことはある。

 俺はそれをどうしても伝えたくて、言葉を送るのだ。


「……俺はさ、守れなかったんだ」

「え?」

「昔話……ってほど昔の話でもないけどな。俺は大切だと思っていた人を守ることが出来なかった。ビビッて、自分勝手な保身から彼女を見捨てたんだ」

「…………」


 イリスは俺の話を、何も言わず聞いていた。


「その時に思ったんだ。俺はなんて最低な奴なんだろうってさ。笑っちまうよな。こんな能力を持っているのに、俺は死ぬのが怖かったんだ」


 この臆病な心の代償が、彼女の死だった。

 俺がもっと早く立ち向かうことが出来ていれば、あんな結末なんかにはならなかったはずのなのに。だから、これは俺の責任なのだ。


「俺が死ねば良かったんだ。どうせ治る体なら、俺が盾にでもなれば良かった。けど、俺はその一歩が踏み出せなかったんだ」

「……カナタは後悔しているの?」

「ああ。すっげー後悔してる。だからさ、決めたんだ。誰かが傷つくくらいなら、俺が前にでて戦ってやろうってさ」


 死を身近に感じて、それを恐怖した。

 それは当然の心の動きだったのだと思う。けれど……俺は自分で自分が許せなかった。もしも俺がその恐怖を乗り越えることが出来たなら、と。


「カナタは……強いね」

「俺は強くなんてない。もしもそう見えるんだったら、それはそれを教えてくれた奴がいたからだ。俺の強さじゃなくて、そいつの強さだよ」


 俺の言葉に、イリスが一瞬瞳を伏せた。そして、やがて顔を上げたイリスは何かを決意した表情を見せる。


「……私は自分の力がずっと怖かった。この力にはもう一つ、カナタには言っていない使い道があるの」


 そう言ったイリスが手を掲げ、一冊の本を手に取った。


「私の魔眼にはもう一つ……自分の知識を相手に移す力がある。そして、それこそが『移動図書館』の本領で、彼らが狙っていたものよ」


 それはどこか禍々しさを感じる本だった。

 黒い装丁のその本を、イリスはゆっくりと俺に差し出す。


「これはとある『禁術』を収めた本、禁書よ。本来なら誰にも見せるつもりの無かったものだけれど……カナタなら、使いこなせると思う」


 差し出された本。

 反射的に伸ばした手が、その本に届く寸前、


「けど、これだけは覚えていて。禁術は使用者に莫大な負担を強いる。だからこそ、長い間禁じられてきたの。使えば死んでしまってもおかしくない。だから……私を軽蔑してくれても構わない。こんな力を貴方に託そうというのだから、恨まれても文句は言わない」


 禁術。

 禁書。

 俺の中でようやく話が繋がった。


「そうか……これがお前の抱えてきたものだったのか」

「そうよ」

「……だったら何の問題もねえよ」


 俺は自分の頬が緩むのを自覚する。

 本当に……嬉しかったから。


「な、何笑っているのよ」

「いや、さ。ようやくイリスが本心を語ってくれたかと思うと嬉しくてさ。お前、いつも俺から距離を置こうとしていた感じがしたけど……今はそうでもない」

「……それはお互い様でしょうに」

「だな」


 俺は迷いもなく、黒の禁書を手に取った。


「……良いのね? その情報を受け取るということはある意味私と同じ立場に置かれるということよ。その禁術を狙う者も当然いる」

「分かってるって。だからその手を離せ、イリス」


 最後の最後、僅かな力で本を手放さないイリスに俺は告げてやる。


「俺はお前に助けられた。だからこれはただのお返しだ。お前が気に病むことじゃない。俺が望んでやっているんだからな」

「……うん」


 俺の言葉に、ゆっくりとイリスの力が緩み、


「ありがとう……カナタ」


 俺はその禁書を、受け取るのだった。

 そして、突然開いた禁書はバラバラと空中にページを撒き散らす。何が起こるのかと思っていると、それらは俺を取り囲むように展開し、その内容を俺の脳内へと叩き込む。


「…………ッ」


 直接脳内に情報が流れ込んでくる。

 その余りの情報量に、頭痛が走るが俺は必死に耐える。


 これはイリスが抱えてきたもののほんの一部なのだろう。この程度、耐えられなければ男が廃る。

 ドクドクと血流が暴れまわる。

 まるで世界が加速したかのような気分の中、


 ──俺はその禁術を、得たのだった。




《剥奪者よ、賊心あまねく現世(うつしよ)よ、骨肉排して慈悲を請え──》




 口から漏れるのは呪文。

 体系的には魔術と変わらない禁術にも、やはり詠唱が必要のようで、俺は導かれるようにその祝詞を紡いでいた。

 あれだけ必死になっても獲得出来なかった魔術を、こんなにあっさり習得してしまったことに思わず笑みが漏れる。もしかしたら、アイツもこんな気分で魔術を覚えたのかもしれないな。




《刃は救いに非ず、その身を焦がす焔に同じ。然れば……我此処に、愚者の理を顕す──》




 すでに俺はこの魔術がどういったモノなのか体感的に理解していた。


 それは復讐者の刃。


 自分という存在を燃やし、その熱を持って事を成す。相殺の技だ。

 イリスがこれほどの力を持っていて、どうして使おうとしなかったのか。今なら分かる。なるほど……この力は、どうやら俺にぴったりのようだ。


 俺は笑みを浮かべ、その名を呼んだ。

 今度こそ大切な人を守るための、剣の名を。




《出でよ──灼熱の剣(レーヴァテイン)!》




 万物万象、あらゆるものを焼く尽くす、灼熱の剣がここに顕現した。

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