「真実を知る者」
眼前に悠々と立ち塞がる二人の魔族。
いや……魔族という呼び方は王国が勝手につけた呼び名だったか。俺達と起源を同じくする召喚者達。言うなれば同類を前に俺が出来ることが唯一つだけだった。
「……一体何の用事で俺を呼び出した」
油断無く二人を視界に収めつつ真意を問いただす。
いつでも不死王が起動できるように身構えながら。
「まずはここまで来てくれたことを感謝するよ。もしかしたら来てくれないかもと思っていたから」
「そういうのは良いんだよ。こっちも忙しいんだ。さっさと用件を言え。ここで殺し合いがしたいってんなら今すぐ殺してやるからよ」
「……随分と好戦的な性格になったね。まるでいつかのリンドウみたいだ」
コテツの口から漏れた懐かしい名前にぴくりと反応する人物が一人。
「その名前を二度と私の前で言わないで」
それはコテツの隣で憮然とした態度で立ち尽くすアゲハだった。
最初に俺を貫いた攻撃。あれは恐らく彼女の放った天権だろう。
光を操る天権使いであるアゲハは光の弾丸を放ったり、光の屈折を利用して位置情報を誤認させたりと多様な技を用いてくる。俺としては厄介な相手だ。以前戦ったときはほとんど相打ちのような形で撃退することに成功したが、遠距離攻撃を持っていなかった俺は随分と苦戦させられたのを覚えている。
だが……
「いい加減にしろ。用が無いなら殺すぞ」
今の俺は昔とは違う。
自分の本質を悟り、禁術を操れるようになった今ならこの二人を同時に相手にしたとしても大した問題にはならない。
魔力も十全。やろうと思えば丸一日だって戦い続けることが出来るだろう。
「ああ、待って。今回は戦う為に呼び出したわけではないんだ」
「……なに?」
手を振り静止するコテツに思わず眉を潜める。
戦うことが目的ではないなら俺たちの間には何の関係もありはしない。まさかお友達になりましょうなんて言い出すわけもないしな。
「どういうつもりだ」
「別に。少しお話がしたいと思ってね」
あくまで自分のペースで会話するコテツに、俺ははっと思わず失笑が漏れる。
「いきなり攻撃から入る対話がどこにあるよ。ふざけたことぬかすな」
「確かに先に手を出したのは謝るよ。アゲハは直情的な女性だからね。大目に見て欲しい」
殺されかけて許して欲しいだと?
こいつは一体どこまで舐め腐ってやがる。
「遺言はそれで良いんだな?」
これ以上語ることはない。
そういう意思を込め、一歩を踏み出そうとする俺に……
「──魔王」
コテツはポツリ、とその場の全員が知る名前を持ち出してきた。
「彼の話を聞きたくはないかい? きっと有意義なものになると思うよ。特に君にとってはね、アオノカナタ」
「……どういう意味だ」
「君と彼の因縁の話さ。疑問に思ったことはないかい? どうして自分は魔王とあそこまで外見が似通っているのか。君は直接彼と対峙したことがあるのだろう? だったら分かるはずだ。君と彼はあまりにも似すぎている。他人の空似で片付けるには不自然なほどにね」
「…………」
確かにそれは疑問だった。
どうして俺と魔王の姿があれほどに似ているのか。
ステラに至っては匂いまで俺と誤認したことがあるらしい。幾つかの仮説を考えつつも、答えを得ることは出来なかった。そんなものはないと思いたかったのかもしれない。
なぜなら……
「もしかしたら君にとっては嬉しくない情報かもしれない。知らないままでいる方が幸せでいられるのかもしれない。だけど……僕は知っていて欲しいんだ。彼と、彼にまつわる話を」
どんな仮説を立てようとも、結局は俺にとって理となるような状況にはならなかったからだ。これからコテツが語ろうとしている内容。それはきっと俺を更なる混沌へと叩き落す。
それは分かっていた。
そんなことは分かっていた。
だけど……
「……話せ」
俺は気付けばコテツにそう催促していた。
聞きたかった。知らなければ幸せでいられるとしても、俺はそれをどうしても知りたかった。
真実という名の甘い果実を前に、俺はどうしても我慢することが出来なかったのだ。
そして……
「分かった。では、そうだね……まずは彼が何者かという話からしようか」
俺は知ることになる。
禁断の果実、その味を。
「魔王。彼の本当の名は……」
過去を巻き戻したとしても失うことの出来ない、その真実を。
「──青野空。君の……お父さんだ」




