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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第六部 天権戦争篇

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「迫る刻限」

 俺とかつて死闘を演じた強敵、アザミは何食わぬ顔で俺の拠点に居座っていた。藍沢との戦闘で戦死したものだと思っていたが……どうやらしぶとく生き延びていたらしい。

 何を目的に近づいてきたかは分からない。だが、この小さな少女が俺にとって脅威であることは変わりがない。俺はかつて、この少女に手も足も出なかったのだから。油断できるはずもない。


「答えろ。何が目的だ。俺に一体何の用だ」


「……私はあの人に生かされた」


 俺の問いに対し、どこか的外れな答えを返してくるアザミ。


「あの人ってのは藍沢のことか?」


「……うん」


 今度はきちんと頷き返すアザミ。全く会話が成立しないというわけでもないようだ。表情が薄くて何を考えているのかいまいち分からないが。


「あの人は私に嘘をついた。あの人が使っていたパラライズビートルの毒は神経毒。それも死に至るような作用は持っていなかった」


「藍沢は意図的にお前を生かしたってことか?」


「……たぶん、そう」


 まさか子供だから手を下せなかったってわけもないだろうが……一体、藍沢は何を考えてやがったんだ?


「……あの人は私に言った。運良く来世を見つけられたなら、もっと強い生き方をしろと」


「藍沢が?」


「……うん。私は今の状況こそが、あの人の言った来世だと思ってる。あの日、あの時、魔王軍として戦っていた私は死んだ。あの人の『嘘』に殺されたの」


 藍沢の嘘、か。なるほどね。


「つまりお前はもう魔王と行動を共にしてはいない、って認識でいいのか?」


 俺の問いに再びこくりと頷くアザミ。

 だが、それだとまだ分からないことがある。


「それならどうしてわざわざこんなところに来た。俺に殺される可能性があることくらい分かっているだろう」


「……貴方に私は殺せない」


「ぐっ……いや、まあ確かにそうだけどよ」


 どうやらアザミの中で俺は負けない相手に分類されているらしい。

 事実その通りだから反論も出来ないが……めちゃくちゃ悔しいな、これ。


「……私は貴方に興味がある。傷だらけで、血だらけで、泥だらけの貴方の生き方に」


「俺は観賞用の動物じゃねえ。ついでに誰かに傷を見せて喜ぶ趣味もないんでな。悪いがそういう相談には乗れない」


「……あの人は言った。貴方のように強くなれと」


「俺のように?」


「……私は知りたい。貴方の強さの秘密を。そして……私が今後、どうするべきなのか。それを私は見つけたい」


「……はあ、つまり行くところがないから仲間にしてくれってことだろ。要するに」


「そうとも言う」


「なら最初からそう行っとけ」


「……どこに行くの?」


 部屋を後にしようと背中を向けた俺を、アザミが引き止める。


「これでも長旅から帰ってきたばかりで疲れてんだ。少し休む」


「……私はどうすれば良い?」


「好きにしろ。仲間に手を出さない限り、追い出したりもしねえから」


「……分かった」


「ただ、お前も自分の食い扶持くらいは自分で稼げよ。働かざるもの食うべからず、ってな。いずれお前の手を借りることもあるだろうから、その時に清算してくれれば良い」


 最後にそう告げて、俺は自室へと向かうことにした。

 休憩する前にアザミのことを他の皆にも伝えておかないとな。

 クロあたりが見つけたら話し合う前に殺し合いになりかねないし。


「……ふっ」


 しかし……面白いことになった。

 藍沢も大きな土産を残してくれたものだ。これでまた一つ、使える駒が増えた。俺の悲願も、これでまた一つ前進したぞ。


(魔王軍の戦力はこれで魔王、スザク、ナキリ、コテツ、アゲハに絞られた、か。結局強者だけが生き残ってるってのが何だかな)


 敵は五人。

 それに対して、こちらが使える戦力はどれほどだ?


(戦闘に関して頼りに出来るのは俺、クロ、ステラ、アーデル、紅葉と……リック、それとアザミが辛うじてってところか)


 数としてはこちらが上回っている。しかし、魔王を筆頭とする強力な天権使い達に単独で勝てそうなのはせいぜい俺とアーデルくらいのもの。総力としては明らかに負けている。


(騎士団や不確定要素のこともある。使える駒は多ければ多いほうが良いが……駄目だな。どうにも手詰まりだ)


 もしも宗太郎がいてくれたなら……状況はもっと良かっただろう。

 今更ながらに失ったものの大きさを思い知らされる。


「……仕方ない。ないものはない。いない奴はいない。俺は俺に出来ることをするだけだ」


 先の見えない暗闇の中、必死に活路を探す。

 しかし、未だ光は見えない。

 先にも、後ろにも。

 俺の願う未来へと続く道は未だ、固く閉ざされていた。

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