「予想外の来訪者」
拓馬は戦う力を失った。
それはもう決定的だ。俺達にとって拓馬は主力と呼べる天権使いだっただけに、あいつが抜けた影響は計り知れない。仲の良かった宗太郎の死も、きっと影響しているのだろう。
拓馬と軽く言葉を交わした俺は拓馬の憔悴した様子を見ていられず部屋を後にした。本当はもっと色々語りたいことがあった。今後のことについて相談したかった。
だけど、今の拓馬にそれを聞くのは憚られたのだ。
往くべき道は決めた。
後は進むだけ。
しかし……俺の進む道はこれで本当にあっているのか?
成功する確証もなく、後戻りできない道へと皆を引き込むのは果たして正しいことなのだろうか?
……今更そんなことを言っても仕方がないのは分かっている。賽は投げられたのだ。魔王は止まらない。ならば、俺達にも足を止めている時間なんてないのだ。
きっと俺は誰かに背中を押してもらいたかったのだと思う。
俺の中に残る僅かな迷いを消してくれるその一押しを。
『まったく、本当にカナタは優柔不断ね。こういうときはまず行動して、それから後悔すればいいだけじゃない』
「……いや、後悔してちゃ駄目だろ」
ここにはいない彼女の声に、思わず苦笑が漏れる。
きっと彼女は迷っている俺に、似たようなことを言うだろう。これまでずっとそうだった。俺が迷ったときには彼女が背中を押してくれた。
だけど……その彼女はもうここにはいない。
俺は俺の意思で、力で、覚悟で前へと進まなければならない。
「……行くか」
やるべきことはたくさんある。それに対して時間はあまり残されていない。
ならば行くしかない。ただ前だけを見て。
「おっ、カナタ。ちょうど良かった。ちょっと来い」
「カミラ? どうかしたのか」
俺がギルドの中を歩いていると、丁度執務室から出てきたカミラとばったり遭遇した。くいくいと手招きする彼女に従って近寄ると、
「実はお前に客が来ていてな」
「客? って、まさか騎士団の連中じゃねえだろうな」
「馬鹿。今更お前を突き出すくらいならとっくの昔にやってるっての」
「もしかしたら懸賞金が上がるのを待っていたって可能性も……」
「ねえよ。馬鹿言ってねえでさっさと来い」
俺の軽快なジョークも華麗にスルー。
どうやら本当に忙しいみたいだな。復興中の街の大手ギルドのトップともなれば当然か。
「ほら、こっちだ。俺は他にやることがあるからこっからは一人で行け」
「え、いや、仲介ぐらいしてくれよ」
「お互い顔見知りみたいだしいらねえだろ。そんじゃあな」
そう言って止める暇もなく手をひらひらと振りながら立ち去るカミラ。
仕方ない、一人で行くか。
しかし、俺の知り合いってなると……誰だ? あ、もしかして只野達か? 確かあいつらも王都を離れていたみたいだしありえる。
「邪魔するぞ」
来客に大体のあたりをつけていた俺は何の気兼ねもなくその客人がいるらしい部屋の扉を開けた。しかし、そこで待っていた人物は俺の想像の遥か上を行っていた。
「……ッ! お、お前っ!」
咄嗟に腰から小太刀を取り出し、構える。
それは俺にとって悪夢と言っても良い人物だった。
「……久しぶり」
刃を向けられてなお、何の緊張感も感じさせないその少女……
「お前、ここで何をしてやがる」
「……貴方を探していた」
魔王軍第十二席の幹部、アザミは変わらぬ無表情でそう言った。




