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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第六部 天権戦争篇

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「三人旅」

「ねえねえ、なんでクロにやらせてくれなかったのー? クロならもっと早く片付けてたのにー」


「あーもう、うるせえな。お前に任せたら死人が出るだろうが」


「お兄さんだって結局、殺してるくせにー!」


「ぐっ……それは、仕方ねえだろ。向こうが殺す気でやってきたんだから」


 東へと向かうたびの途中遭遇した浪人への対処に対し、クロがぶーたれていた。俺は出来るだけことを穏便に終わらせようと思っただけだってのに。


「まあまあ、カナタさんも悪気があったわけじゃありませんし」


「悪気はなくても独り占めはずるいよー!」


 クロは相変わらずの性格だが、ステラがいてくれてよかった。仲裁役として彼女ほど適した人材もなかなかいないからな。クロもなんだかんだ言って仲良くなっているし。もしかしたらステラには気難しい人間と付き合う才能があるのかもしれない。イリスしかり、俺しかりな。


「うーっ、久しぶりに戦えると思って期待してたのにー……」


「だから悪かったって。次はお前に戦わせてやるから勘弁してくれ」


「約束だからねっ! 絶対だよっ?」


「分かった分かった」


「反応が雑ぅ!」


 流石にこんなやり取りが三ヶ月も続けばいい加減雑にもなる。


「でも……良かったんですか? 自分のことを『魔王』だなんて吹聴してしまって……」


「ん? ああ、そのことか。一応考えがあってのことだから心配するな」


「はい……」


 俺の言葉にステラは納得していないようだった。

 まあ、確かにそうだろうな。今ここで魔王の名を語ることによるデメリットは計り知れない。多くの冒険者が俺の首を狙ってやってくるかもしれないのだから。

 だが、それ以上に俺はその名前のネームバリューに期待していた。


「どの道、俺が指名手配されていることにかわりはないしな。その金額が少し大きくなるだけだ」


「それが問題なんですよぉ」


「ステラは心配しすぎだって。こういうのは中途半端でも面白くないだろ?」


「だからってやりすぎですよ……私はカナタさんの身が心配です」


「心配って……俺が死なないことくらいお前も知ってるだろ?」


「…………」


 あら。黙り込んじまった。

 そりゃ前科のある人間の言葉は信用ならない、か。


(一度、死に掛けたわけだしな……もうあれから三ヶ月も経つってのに、まだ根に持ってんのかな)


 俺たちが魔王城に進攻してからすでに三ヶ月。

 今では遠い昔のように思える出来事だ。

 宗太郎の魔術によってテレポートさせられた俺は気付けばノインの街にいた。どうやら宗太郎はいざというときにはここに逃げ込むつもりだったらしく、カミラに発見された俺はすぐに治療を施された。

 そのおかげもあり、こうして無様にも生き残ることになったのだが魔王城から生還した面々は酷い有様だった。


 途中で戦線から離脱したクロとステラはともかく、紅葉、拓馬、アーデルの三人は意識不明の重態。奏の治療もあり、一命こそ取り留めたもののその損害は大きかった。

 恐らく未だにベッドの上から出れていないのではないだろうか。それほどに三人のダメージは深かった。

 特に拓馬は左腕を失い、精神的にも酷く衰弱していたのを覚えている。

 そんな三人を見ていられなくて……というわけでもないのだが、俺とクロ、ステラが共に旅しているのには理由がある。


「ねえ、お兄さん。そろそろ到着するんだし目的を教えてよー」


 そして、俺はその旅の理由を二人にも話していなかった。


「着いたら教えてやるって言っただろう。もう少しなんだから我慢しろ」


「もう少しなんだし、別にいいじゃーん」


 俺の腕を振り回すようにしてせがむクロ。


「俺のやり方に文句があるなら今からでもノインに帰るか? 俺は別に構わないぞ。付いて来れるやつだけが付いてくれば良い」


「!? うそうそ! 別にそこまで知りたくないから後でもいいよっ! クロはお兄さんと旅してたいからねっ!」


「……悪いな」


 何の質問もせず旅についてこいだなんて、幾らなんでも横暴とは思ったが俺がこれからしようと思っている目的を考えるに情報漏洩(ろうえい)は絶対に防がなければならない。

 親しい二人にも出来るだけ情報は伏せておきたかった。


「私なら気にしませんから。カナタさんはカナタさんの為すべきことを為してください」


「あー! ステラずるいっ! クロだってお兄さんのこと応援してるからねっ! お兄さんの言うことなら何でもするからっ!」


「そこで張り合わなくても良いだろ……まあ、二人とも頼りにしてるけどさ」


「はいっ!」


「うんっ!」


 俺の言葉に元気良く返事する二人。

 本当に頼りになる。その言葉には一片の曇りもない。どこまでも純粋に俺を信じて付き従ってくれる二人には本当に助かっている。


 だからこそ……同時に申し訳なくも思うのだ。

 俺はこれから……


 ──この二人さえも、地獄に叩き落さなくてはならないのだから。


「カナタさん、肌寒くはないですか? 私が御手を温めて差し上げますね」


「あー! また抜け駆けしてるーっ! もう、それならクロだって!」


「だから張り合うなっての……」


 両手を引っ張られながら嘆息する。

 だけどやめろとは言えなかった。

 こんな俺に付いてきてくれる二人には、出来るだけのことがしてやりたかった。

 それがたとえ、何の意味も持たないただの自己満足に過ぎないとしても。

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