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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第五部 魔城奪還篇

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「邂逅」 

 俺の手の中で冷たくなっていく藍沢。

 彼は……レオと戦って死んだのだ。

 自らの誓いを果たして。

 どんな気持ちで死んでいったのかなんて、この表情を見れば分かる。

 分かるが……


「くそっ……馬鹿野郎が……」


 残された者にしてみればそんなこと何の関係もない。

 この世界に来て『死』というものには何度も何度も触れてきた。

 だけど今回は今までのとは何か違う感覚だった。


 仲の良かった奴、そうでもなかった奴、気に入らなかった奴、死んで当然だった奴。色々だったが、ここまですっきりした表情で死んでいった奴は他にいただろうか?

 思い出せない。

 それほどまでに俺の感覚は麻痺していたのだと今更ながらに悟る。


 死に触れ、死に慣れ、死に鈍感になってしまっていた。

 それが悪いこととは思わない。

 生き抜くために必要だったことだから。

 そもそも良いとか悪いとかそういう話ではなかった。


 だけど……今、気付いた。

 俺は……藍沢のことがそこまで嫌いじゃなかったということを。

 もちろんこいつは嫌な奴だったが、それもどこか人間らしい一面だった。当たり前の感覚を持つ、どこにでもいる普通のガキだったのだ。

 俺と同じように……


「……行こう」


 呟き、ゆっくりと藍沢の死体をその場に横たえる。

 丁重に弔ってやりたかったが、それもこの場では無理な話だ。

 今はそれよりも優先することがある。


「こっから先は藍沢が作ってくれた道だ。こいつに笑われないよう……俺は振り向かずに進む」


 俺達は上階へと進み始める。そうすることが精一杯の弔いなのだと信じて。

 だが……そこで待つのはこれまで以上の地獄だった。

 王城にもあった大広間。

 その扉を開けた先に待っていたのは……


「アーデル!? 拓馬、それに紅葉も……ッ!?」


 全身を血塗れにして地面に倒れる三人の姿だった。


「奏っ! 回復頼む!」

「うんっ!」


 即座に駆け寄り、三人の容態を確認する。

 全員傷が酷い……かなりの重症だ。

 特に拓馬、アーデルの二人は次の瞬間に死んだとしても何の不思議もない傷だ。


「黒木君……そ、そんな……」


 拓馬と仲の良い宗太郎が痛切な声を上げていた。

 それもそのはず、意識があるのかどうかも怪しい拓馬は……



 ──左腕の肘から先を失っていたのだ。



 肉体の欠損は奏の『治癒』でも修復できない。

 たとえ助かったとしても拓馬はもう二度と左腕を取り戻すことは無い。


「……カナ、タ……?」

「……くっ! おい、アーデル! 何で……なんでこんなことになってんだよ! お前がいて、何で……ッ!」

「逃げろ……奴には……『魔王』には誰も勝てない。絶対に……殺されるだけだ」

「アーデル? ……おい! アーデル!」


 伝言のような言葉を残したアーデルはそのまま意識を失った。

 おい……どういうことだよ。

 お前ほどの力があって絶対に勝てないだと?

 お前は魔王と戦ったからこんなことになったのか?


 幾つもの疑問が脳裏を過ぎるが、その答えは最早得られない。

 何があったのかを語れる人物は全員気を失ってしまったからだ。


「カナタ君……ど、どうしよう。ここにいたら私達も……」

「……ひとまず移動しよう。奏は紅葉を、宗太郎は拓馬を頼む」


 アーデルを背負い、その場を離脱しようとした。

 その瞬間のことだった。


「────ッ!」


 形容しがたい恐怖が背筋を走りぬけ、俺の体を衝動的に動かした。

 それはまさしく反射というに相応しい回避行動だった。

 幾つもの死線を越えてきた俺の咄嗟の判断。

 結果として、それは俺の命を救った。

 炎舞を使い、アーデルごとその場を離脱した瞬間……


 ──ドゴォォォォッ!


 先ほどまで俺が立っていた場所に突如クレーターが生まれた。

 まるで上空から見えない隕石でも降ってきたかのような衝撃。近くにいた俺は風圧に押されながらも何とか着地して、周囲へ注意を向ける。

 さっきのは間違いなく"攻撃"だ。

 とするならばその攻撃を放った射手も必ずいるはず。

 薄暗い室内を月明かりのみを頼りに探し……俺はそいつらを視認した。


 黒い影のような三人組。

 ゆっくりと月の光に照らされ姿を現すのは以前にも出会ったことのあるスザク、ナキリの両名。そして……


「ほう……よくかわしたものだな」


 ──『魔王』。

 瞬間的に理解する。

 その圧倒的な存在感。重圧。

 そして何より……


「お前……その顔は……っ!?」


 十七年間見続けてきた俺の顔。

 情報にあった通りの男の姿がそこにはあった。


 それが俺と魔王の初めての邂逅。

 その瞬間に物語は終幕に向けて疾走を始める。

 始めからから間違っていた物語。

 その終わりの始まりが……今、幕を上げようとしていた。




【お知らせ】

以前、あとがきでお知らせしたイリス様のイラストに関してなんですが……ついに完成しました!

いきなり本編に載せるのもタイミングおかしいので「活動報告」の方に投稿させてもらいました。

興味のある方は覗いてみてください。ページ上部の作者名のところから行けるはずなので。

挿絵として本編に載せるかどうかは……正直迷っています。作品のイメージを壊しかねないですからね。チキンハートの私としては皆様の反応を見ながらおいおい決めさせてもらおうかと思っています。では久々の投稿になりましたが、これからも本作をよろしくお願い致します。

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