「魔術指導」
俺が次に向かったのは大親友、宗太郎の元だった。
「え? 魔術について教えて欲しい?」
「ああ。俺にも何か出来ないかと思ってさ」
俺の頼みが余りにも意外だったのか、宗太郎がきょとんとした表情で聞き返す。俺は次こそ足手まといにならないように戦いたいと、宗太郎に伝えたのだが、
「カナタは十分活躍してたと思うけどなあ」
「いや、それはないだろう。実際、何にも出来なかったし」
「カナタは皆を鼓舞してくれたじゃない。僕が志願しようと思ったのもカナタが居てくれたからだし」
「え? そうなの?」
「うん」
曇りない笑顔で頷く宗太郎。
また上原が沸きそうな展開だ。注意せねば。
「それにそれを言うなら僕だって役に立てなかったよ」
「何言ってんだよ、敵の大将仕留めた立役者が」
「僕の魔術はさ、威力が高過ぎて調整が出来ないんだ。だから皆が固まってゴブリンと戦っていたときには手も足も出なかった。きっと討伐数は皆の中でも最下位だよ。偶然倒せた一体がヘルゴブリンだっただけで……」
謙遜、というよりは本気でそう思っている様子の宗太郎。自分に自信がない宗太郎らしいと言えばらしいけど。
「それより、魔術を教えて欲しいんだっけ?」
逸れていた話を宗太郎が戻す。
俺は頷いて、何とか魔術が使えるようにならないものかと宗太郎に聞いてみたのだが、
「カナタは体内にある魔術の感覚って、分かる?」
「分からん」
嘘を言ってもしょうがないので、正直に答える。すると宗太郎は『これは難しそうだなぁ』って顔をした。まさか、俺、魔術の才能もないのかよ。
「魔力は魔術を使う上で必須の感覚だからね。まずはそれを覚えよう」
「あれ? 教えてくれるのか?」
てっきりルーカスさんの時のように突っぱねられるかと思っていたのに。
「勿論、カナタの頼みなら僕は断らないよ」
「お、おう……ありがとな」
やばい。
宗太郎が聖人過ぎて。
そして上原が沸きそうで。
「まずは魔力を血液に例えるんだ。心臓から発生して、体中をめぐるエネルギーを意識する」
「分かった」
俺は目を瞑って、言われたとおりにしてみる。
「魔術を発動させるのはイメージ。つまりは脳の働きが大きいんだけど、魔力は別。体の中にあるエネルギーを使うから、魔力を使った後には虚脱感が残るし、使い過ぎると気を失うこともある。これはまず覚えておいてね」
俺が魔力を掴むトレーニングをする傍ら、宗太郎が魔力についての講義をしてくれる。『魔導』の天権は魔術に関する理解を深めるもの。つまり、どういう原理で動いているのかも、宗太郎には直感的に理解できているのだろう。
まさに魔導の天才。一つの魔術に十年かかるところなのに、わずか二週間程度ですでに五つの魔術が使えるという辺り、その異常性が伺える。
「ルーカスさんの話では魔術は六つのタイプに分類されているらしいよ。『物理操作型』『物理形成型』『事象干渉型』『事象具現型』『肉体強化型』『特殊型』。これは僕らの天権にも言える」
宗太郎は指を追って順に説明していく。
「まずは『物理操作型』。これは物体に直接作用する効果を持つ能力。例を挙げると、赤坂さんの『硬化』がこれに当たるね」
そう言って宗太郎は指を折る。
「次は『物理形成型』。そのまま物体の形を変えたり、物質を生み出す能力だね。後者のほうが能力的には上位に当たるみたい。黒木君の『生成』がまさにこれだね」
再び指を折る宗太郎。
「次は『事象干渉型』、あと似てるんだけど『事象具現型』。この二つの違いはすでにある現象に作用するか、新しい事象を自分で作るかってところだね。珍しい魔術らしいんだけど、天権の場合はこの二つに分類されることが多いみたい。前者は只野君の『魔力操作』、後者は白峰さんの『治癒』、森君の『発火』、宮本さんの『念力』とかかな」
まとめて二本の指を曲げた宗太郎は言葉を続ける。
「『肉体強化型』。実はこれが一番珍しいタイプらしいよ。というのも魔力操作に慣れてきたら自然と魔力で身体能力を強化できるようになるらしいんだ。だからわざわざ魔術で身体能力を上げる必要が薄くて、あまり研究されてない分野みたい。佐藤君の『視力』とかもこの分類に入るね」
右手の指を全て畳んだ宗太郎は最後に、左手の人差し指を立てて、
「これが最後、『特殊型』。これはまあ、結構範囲が広い。他の五種に分類されないのが全てここに入るわけだから当然なんだけどね。カナタの『不死』とか、藍沢君の『嘘』もここだね」
「俺と藍沢が同じタイプなのかよ……嫌な事聞いたな」
「大丈夫、僕の『魔導』も特殊型だから」
何が大丈夫なのか、嬉しそうにぎゅっと両手を握り笑みを浮かべる宗太郎。
それから宗太郎は俺に魔力の特性やら、魔力を変質させるコツ、イメージする際に気をつける点などを教えてくれたのだが、
「それで、カナタ。そろそろ魔力は感じられた?」
「…………」
宗太郎の問いに俺は親指を立て、答える。
「全っ然、出来ない」
にこやかに告げる俺、引きつった笑みを浮かべる宗太郎。
微妙な空気が、その場を支配していた。




