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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第五部 魔城奪還篇

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「ツートップ」

 岩場で交代を取りながら10時間。ついに太陽が完全に沈み、それなりの時間が経った。これくらいになればもう起きている人間も少ないだろう。

 昼間に行動するよりずっと人目は減ったはずだ。


「……良し、行くか」


 俺の号令にその場の6人全員が頷く。

 まずは休憩中に作っていた仮拠点に馬を置いておき、この場を何かあった際の合流地点と定める。

 魔族と交戦になればはぐれる事も予想されるからな。


 それからゆっくり、慎重に城下町を歩く。

 街灯のない夜の街はかなり寂れた雰囲気になる。

 中には明かりが漏れている家屋もあるが、大抵は闇の中。まるでコソ泥のように俺達は行進を続ける。


「…………(こっちだ)」

「…………(了解)」


 先に決めておいた手話で簡単な進路を伝える。

 これからは隠密活動が求められる。魔王城まではまだそれなりに距離がある。何とか見つからず辿り着ければ良いのだが……


 ──どうやら、その発想は流石に甘かったらしい。


「────ッ! カナタっ!」


 俺の後ろを付いてきていたアーデルが悲鳴のような声を上げる。

 ぐいっ! と強く後ろに引っ張られる感覚。アーデルが俺の首元を掴んで強引に下がらせたのだ。

 そして……


 ──ドスドスドスッ!


 さきほどまで俺の居た位置に数本の矢が突き刺さる。


「上だっ!」


 上空、月明かりが照らす夜空を背景に無数の弓矢が降り注ぐ。

 まるで豪雨のようなその弾幕攻撃に対し、最も早く連携を取ったのが紅葉と拓馬だった。


「「生成・硬化」」


 俺達の頭上に広がる傘のような形状のそれは拓馬と紅葉の合作である即席の盾だ。即席とはいえ、その防御力は計り知れないがな。


 全ての弓矢を叩き落したあと、ボボッ! と周囲から火の手が上がる。

 それは松明の灯りだった。


 俺達の存在を浮き彫りにするその松明は周囲にどんどんと広がっていく。

 これは……どうやら待ち伏せされていたみたいだな。

 どこに隠れていたのか、武器を持った人間がわらわらと湧いて出てくる。武器はクワや手斧など、農民の使う必需品ばかり。どうやらこいつらはただの村人らしいな。


「考えられる中で最悪の展開だね。どうする? お兄さん」

「まずは突破するのが最優先だ。どの道そこまで強い奴らもいないだろうし……強行突破だ!」


 隠密活動を早々に諦め、俺は駆け出す。

 ダメージを無視できる俺がまず注意を引くべきだろうからな。


「あははっ! 面白くなってきたねっ!」


 最悪の展開とか言いつつ、滅茶苦茶嬉しそうにはしゃぐクロ。

 ったく、これだから戦闘民族は……どんだけ頼りになるんだっての。


「行くぜ、クロッ!」

「あいあいさー!」


 敵はお世辞にも強いとはいえない軍勢。

 きっとろくに訓練もしていないのだろう。俺とクロの敵じゃない。


 俺は威力を減らした炎舞を使い、打撃系の攻撃で意識を奪う。

 クロはカミラから貰った大振りの長剣で次々と村人の首を刈り取っていく。


 お互いがお互いの死角をカバーしながらの進撃。後ろに続く5人はほとんど戦闘に参加することなく付いてきている。


(よし……これならいけそうだ)


 そう思った瞬間のことだ。

 決して油断していたわけではない。

 ただ単にその一撃が避けれるような速度ではなかっただけのこと。


「……なッ!?」


 宙を飛ぶ俺の右腕。

 血の筋を空中に残しながら放物線を描き、落下するその先には……


「待ってたぜ、カナタァッ!」


 その顔に獰猛な笑みを貼り付けたクレイがいた。

 かつて俺と激闘を交わした男。


「なっ……!?」


 見れば前回食らわせた傷がもう治っているってやがる。くそっ……最悪だ。


「魔族だっ! 伏せろっ!」


 奴の能力はもう分かってる。

 自らの血液をコントロールし斬撃や弾丸を飛ばしてくる能力。

 つまりは射程10メートル程度のショットガンを装備していると思って大差ない。こんな密集した場所で使われたらひとたまりもないぞ!


「クハハハハハハハハハハッ!」


 哄笑と共に打ち出されるのは血液の弾丸。

 音速に到達しようかというその勢いは当たればまさしく弾丸を受けたのと同等の被害をもたらすだろう。一度喰らった俺が言うんだから間違いない。


 ──ビチッ! 


 ぐっ……肩に被弾しちまった……けど良かった。後ろには被害がいってないみたいだ。どうもクレイの奴、完全に俺をターゲットに絞っているらしい。そのせいでこっちに攻撃が集中しているのは良いことなのか悪いことなのか……ひとまず考えるのは後にしよう。

 なぜなら……


「こらクレイ! あの男は(わたくし)の獲物だと言ったでしょう!」

「知るかっ! こういうのは早い者勝ちなんだよ!」


 クレイの背後から現れる二人の人影。

 一人は知らない奴だが……あの雰囲気からしてこいつも魔族だろう。

 クレイと言い合うように噛み付いているのは以前もクレイと一緒にいたカグラと呼ばれていた魔族。こいつがここにいるということはつまり……


「ひっ!?」


 周囲に散らばっていた死体が唐突に行動を再開する。その光景はまさしくゾンビ映画のそれだ。そういうホラー系の作品が苦手な紅葉は短い悲鳴を上げていた。


 はあ……だと思ったよ。


 そうだよな。こいつがここにいるってことはつまりそういうことだよな。

 全く、厄介な奴がきちまったもんだ。


「おっと、お前ら動くなよ、動いた瞬間俺の血刀が首を掻っ切る」

「ついでに私の死兵も容赦しませんわ」


 以前と変わりない余裕の笑みで俺達に警告を飛ばす二人。

 もう一人の魔族は……どうやらとりあえず傍観している様子。無口な奴なのか? 今まで見た魔族の中で一番背が低い女の子の魔族だ。あまり強そうには見えない。だからと言って油断は出来ないけどな。


「…………」


 しかし……完全に出鼻を挫かれたな。

 向こうがなぜか追撃してこないせいで、すぐに交戦というわけにはいかなくなっている。こちらは七人、向こうは三人。数の上では有利だが、魔族の強さはこの場の全員が理解している。

 迂闊には動けない。


「……はっ!」


 その緊迫した空気の中、クレイが手元の血液を操り地面に線を引いた。

 俺達と魔族の丁度中間辺りに。


 何だ? こいつ一体何をしている?


 当然の疑問にクレイは朗々とした口調で説明を始める。


「それは境界だ。これでも俺達は一応お客様を出迎える案内人としてやってきてるんでね。お前らには二つの選択肢をくれてやる。一つは尻尾巻いて逃げ帰ること。お前らは魔王様から見込みありと判断されてるんでな。殺さずに帰してやるよ。そしてもう一つは愚かにも俺達に歯向かう反逆者としての道。俺達と殺し合いをする覚悟がある奴だけその線を越えてこっちに来い……折角こんな田舎まで来たんだ。ちょっくら遊んでやるよ」


 そう言ってぞっとするような獰猛な笑みを浮かべるクレイがどちらの選択を望んでいるのかは一瞬で分かった。

 だが……こいつら今回は戦うつもりがないのか? 今まで散々召喚者を殺しておいて俺達を見逃すだと?


「……一つ聞きたい」

「あ? 何だよ」

「お前ら魔族が連れ去った四人はどこにいる?」

「それを教える訳ねえだろ。馬鹿が」

「そうか……」


 ありがとよ。クレイ。

 その言葉だけで知りたい情報は確認できた。


 魔王とは別行動していたクレイが連れ去った四人のことを把握しているということはつまり、一度魔王と合流しているということ。そしてそれはこの魔王城以外にはまず考えられない。


 ──魔王は今、この城にいる。


 だとするならば当然連れ去られた四人も。

 それさえ分かれば良い。


「さあ! どうすんだよ! 越えるのか、越えないのか!?」


 両手を広げ、吼えるクレイ。

 その暴力的なまでの威圧感に押され、誰もが萎縮する中……


炎舞(レーゼン)ッ!」


 誰よりも早く俺は駆け出していた。

 最早風すらも置き去りにした超速で一線を越え、魔族三人に挑む。

 いや……違う。一拍遅れてだが、俺以外にももう一人。


「──雷迅」


 イカヅチを纏うアーデルもまた、俺とほとんど同時に一線を越えていた。

 何の迷いもなく、一瞬の躊躇もなく、欠片の恐怖すら引き摺らぬまま戦場へと飛び込んだ俺達はこれまたほとんど同時に"カグラ"に向け神速の貫手を放つ。


 どうやらアーデルもこの場で一番厄介なのが誰か分かっているらしい。

 まるで俺とアーデルの気が合っているみたいで癪だけどな。


 ──バギンッッッッ!


 俺とアーデルのツートップ。ほとんど奇襲みたいなその一撃はしかし、それぞれクレイともう一人の魔族に止められる。


「これは……鎖?」


 俺の攻撃を塞いだ女の子はその手に何か鉄鎖のようなものを握り締めている。

 激突した際の妙な金属音はそのせいだ。


「……させない」


 ぎろり、と感情を感じさせない視線が俺を射抜く。

 こうして俺達と魔族の衝突は唐突に始まり、混戦へともつれ込んでいくのだった。

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