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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第五部 魔城奪還篇

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「城下町」

 何だこれは?

 俺は一体何を見ている?


 俺達の視界に広がる魔王城、その周囲を取り囲むように建てられている建築物はどうみても居住区のそれだ。それが見渡す限りに広がっている。到底、十数人の人間が住んでいるだけの地域には見えない。

 それはもっと多くの、恐らく数百人規模の人間が住むことを想定されて作られた城下町だった。


「……見て、人が住んでる」


 後ろから奏が指差す先には確かに人影が見える。それも何十人もだ。なにやら畑を弄っている様子だが……あの人達は魔族じゃないのか?


「待って。それ以上近づいたら駄目。ひとまず岩陰に隠れよう、お兄さん」


 前に出すぎていた俺をたしなめるようにクロが言う。


「お前、あれが誰なのか分かるのか?」

「まあね……あれは魔族だよ。普通の力のない魔族」

「だけど確か魔族は今11人しかいないはずだろ? 明らかにその人数は超えてるぞ」


 彼ら全員がもしリンドウ達と同じだけの能力を持っているとしたら……駄目だ。考えたくもない。


「彼らは魔族というか、魔族に飼われている家畜だよ。種族で言えば僕達と同じ人間だ」

「家畜だって?」


 いつの間にか横に並んでいたアーデルの言葉に思わず聞き返す。


「ああ。たった十数人で文化的な生活が維持できるわけがないからね。彼らは彼らの生活を保障するために家畜を飼っているのさ」

「…………」


 確かに、少し考えれば分かることだ。

 魔族だって何かを食べる必要があるし、どこかに住む必要がある。着る物だって勝手に湧いてくるものじゃないし、それを用意する人材が必要だ。


 そしてそれを13人で出来るかというと……無理だ。

 となると、足りない人材はどこかから持ってくるしかない。

 つまり……人間達から。


「……くそったれな光景だな」


 不快感を隠す様子もなく拓馬が吐き捨てる。

 確かに。その気持ち、良く分かる。


「……けど、これってよく考えれば王国がやってることと同じなんだよな」

「え?」

「奴隷を使って自らの利益を増やそうとする商人がいる。クロ達のように、何も知らない赤子に非道な行いをする者がいる。他人を食い物にしてるって意味じゃ全く同じだ」


 更に言えば、俺達の世界でもそういうところはあったのかもしれない。

 この世界ほど顕著でなくても、誰かが上手い汁を吸うために犠牲になる人はいるだろうし、不平等なんて生まれた時から当たり前に転がっている当たり前だ。

 ただそれが見えていなかっただけで。


「……とにかく今はどう動くかを考えねえとな。魔王城に行くにはこの城下町を突っ切る必要があるだろうし……」

「私達を見つけたあの人達がどうするのかも心配だね」

「ああ。もしかしたら報告に行かれるかもしれん。そうなると少し厄介だ」

「ならどうする? ひとまず大回りして反対側まで行って見る?」

「いや……多分だけど、どこも似たような形になってるとは思うぞ。街の中心に城が建てられてるだろうし、人目につかないようにするなら夜に動いた方がよさそうだ」


 奏と簡単な方針をまとめた俺は他のメンバーにも確認してみる。

 やはり皆、隠密性を最優先に考えているようで異論はなかった。


 今回は奪還作戦。出来るだけ戦闘は避けたいところだからな。出来ればこっそり行ってこっそり救ってこそっり抜け出すのが理想だ。まあ、まず無理だろうけど。


「それならひとまず夜になるまで待つか。順番に睡眠を取っておこう。少しでも旅の疲れを回復させるんだ」


 まずは一番疲れているだろうということでアーデルとクロ、次に拓馬と紅葉、最後が俺と藍沢と奏が休憩することになった。


「奏、一応全員に『治癒』の天権をかけておいてくれ。作戦前に万全の体調にしておきたい」

「うん。分かった」


 こくりと頷き、アーデルたちの下へ向かう奏。

 こういうところで彼女の天権は役に立つ。


 時間がある程度取れる状態ならほとんど全快の調子に戻せるんだからな。それが何人だろうと同じこと。魔力が続く限り、奏はどんな傷でも治癒することができる。そしてそれには肉体的疲労も含まれる。


 要はこの一週間の疲労を全くの0に出来るということだ。

 大規模な作戦展開を考えるならこれほど貴重な能力もないだろう。


「青野、ちょっと良いか」

「ん? 藍沢か。どうした?」


 珍しく話しかけてきた藍沢は俺の隣に来て、唐突にその提案を口にした。


「魔王城への潜入だが……白峰は置いていかないか?」

「え?」


 藍沢に嘘や冗談を言っている様子はない。どうやら本気でそうしたほうがいいと思っているようだった。


「別に見下しているわけじゃないが、客観的事実として白峰の天権は戦闘に向いていない。置いていくべきだ」

「…………」


 なるほど。藍沢の言いたいことも分からないでもない。

 確かに奏は戦力的に頼りないところがあるからな。不安に思うのも仕方ないだろう。


「だがそれを決めるのは俺達じゃないだろ。本人が行くというなら止める方法はない。あいつ、結構頑固なところあるから。それに一人で残すのもそれはそれで危ないだろう」

「……それなら青野も残れば良い」

「いや残れば良いって、お前な」


 最近はナリを潜めていたけど、そうだった。

 藍沢(コイツ)はもともとこういう奴だった。


「俺には俺の目的がある。そんで奏にも奏の目的がある。いくらお前が言ったところで止まらない。どうしても残りたいってんならお前が一緒に残れば良いだろ。お前だって戦闘向けの天権じゃないんだし、拠点を守ることにも十分意味はある」


 実際藍沢が戦いになって役に立つかと言われれば微妙な気がする。

 こいつの天権って結構使いづらいらしいし。


「……そうか、なら仕方ないな」


 俺の言葉にくるりと反転して、立ち去る藍沢。

 あれ? もっと食い下がるかと思ったが、意外に素直に引き下がったな。

 こいつらしくもない。


(まさかまた何か企んでるんじゃないだろうな……勘弁しろよ。こんな時に)


 というかそもそも奏に残って欲しいなら本人に直接言えば良いのに。

 何を一体躊躇っているのやら。

 あれか、もしかして藍沢は奏のことが好きなのか?


 ……ありそう。


「はあ……別に俺はお前らの保護者じゃないってのに」


 旅の間も気付けば俺がリーダーであるかのように扱われていた。

 クロやアーデルはああいう性格だから場をまとめるのに向いていないってのは分かるけど……というか改めて考えるとこの面子で仕切れる奴っていなくね? 奏が唯一向いてるっぽいけど、戦闘になるとあんまり指揮を執れる立場じゃないし……はあ、つまり消去法か。

 宗太郎がいればこんな面倒な役、すぐに押し付けてやれるのに。


(帰りは宗太郎に任せることにすっか。うん。そうしよう)


 俺は密かにそう心に決める。

 そうであったらいいなという希望的観測を含みながら。

 そして……


 ゆっくりと、ゆっくりと太陽が傾き続ける。

 人質奪還作戦開始まで、残り数時間。

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