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不死王と七つの誓い  作者: 秋野 錦
第五部 魔城奪還篇

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「迷い」

 俺が拓馬達と今後の方針について話し合っている時、どうもクロが静かだなーと思っていたら部屋の隅のほうでアーデルとなにやら話し込んでいた。

 何を話しているのかと、立ち寄ってみると……


「なあ、おい。アーデルさんよぉ、どの面下げてクロの前に出てこれたん? おお?」

「いや、はい……申し訳ないっす」


 まるで普段と口調の違う二人の姿があった。

 いや、誰だよ。お前ら。


「おいおい、何を話してるんだよ」

「あっ、お兄さん」

「か、カナタぁ……」


 俺が話しかけると、クロはいつもの調子に戻る。逆にアーデルは泣きそうな目で俺に助けを求めてきた。

 一体何があったのか話を聞くと、アーデルが鬼面衆を抜ける際にひと悶着あったらしく、その尻拭いとしてクロは無茶な任務をいくつも言い渡されることになったのだとか。


「そういやお前らって面識あってもおかしくない関係だったな。まさかそこまで話がこじれてるとは思わなかったけど」

「ほんと、こいつのせいで大変だったんだから」

「そ、その節はどうもお世話になりました……」

「お世話になりました? 世話したくてした訳じゃないんだけど? というか今もアーデルの殺害任務は鬼面衆全体に通達されてるんだけど?」


 何なら今ここでやるか? とクロの目が語っている。

 こいつもかなり好戦的な奴だからな。一応止めに入ったほうが良いだろう。

 アーデルも泣きそうからガチ泣きし始めたからな。


「クロ、ひとまずアーデルは戦力になるだろうから殺すな」

「うん。分かった。お兄さんが言うならそうするねー」


 たった一言でクロはアーデルへの興味を失ったのか、今度は紅葉達にからみ始めた。ほんと、猫みたいに好き勝手する奴だな。


「うう……ありがとうね。カナタ……」

「お前もなかなか不憫な人生送ってるみたいだな」


 大半はこいつの自業自得だがな。


「それで、アーデル。お前も今回の作戦に付いてくるんだろ?」

「え? ……ああ。無論さ。イリスちゃんを助け出すのは僕の使命だからね」

「別に誰も頼んでないけどな。まあ、やりたいなら好きにすればいい。一応魔族を一人殺したってことなら少しは戦えるんだろ?」

「うーん……どうだろうね。結構ぎりぎりだったし、強い奴には勝てないかも」


 勝てないかも、ね。

 その台詞が自然に出てくる時点で相当強い。

 どうやらアーデルは俺達の中でもかなり上位に食い込む強さを持っていると見たほうがよさそうだ。


「一応参考までにさ、お前クロには勝てるか?」

「え?」


 クロの戦闘力は低くもないが、そう高くもないと俺は思っている。

 魔族と一対一で戦って"戦いになる"レベル。そういう認識だ。

 だからこそ、クロと同等以上の強さなら魔族とも戦えると思っての問いだったが……


「あはは、僕がクロに負ける訳ないじゃない」


 朗らかに笑いながらアーデルはそう言った。

 どうやらこいつ、マジで強いぞ。


「ならなんでさっきはあんなにびくびくしてたんだよ」

「いや、何と言うか……勝てるからといって怖くない訳じゃないでしょ? ほら蜘蛛とか百足が生理的に受け付けない、みたいな」


 おい、この男さらっと酷いこと言い出したぞ。

 クロは百足と同レベル、か。

 これは本人が聞いたら鉄拳確定だな。


「本当に勘弁して欲しいよね。自分の都合ばっかり押し付けて、他人の事情なんて聞こうともしない。はあ……これだから年増は……」

「クロはまだ10代だぞ」

「知ってる」


 知っててその台詞かよ。

 最早こいつ、留まる所を知らねえな。


「まあ、頼りにしてる」

「うん。あ、それとカナタ。この前僕が言ったこと、イリスちゃんには絶対に言わないでね」

「え? 言っちゃ駄目なの?」

「駄目だよ! 当たり前でしょ! 何当然の顔して言ってるんだよ、こっちは一応の確認のつもりで聞いたのに!」


 何だ駄目なのか。

 イリスに再会したら速攻でチクッてやろうと思っていたのに。残念。


「あのね、僕がヴェンデを殺したってことがばれたらどうなると思ってるの? 今まで以上に冷たい態度取られること確定だよね?」

「むしろそれで済めば御の字って感じだけどな」


 イリスの悲願とも言うべき復讐対象がようやく現れたのだ。まず間違いなくアーデルはイリスにぶち殺されることだろう。

 ……あれ? 今更だけど俺ってヤバイ情報掴まされてね?


「世の中には知らないほうがいいこともある、か……ふっ、真理だな」

「何遠い顔して言ってるんだよ。いい? 僕はちゃんとお願いしたからね?」

「まあ、お願いはされたけどさ……どっちにしろいつまでも隠し通せるものでもないだろ? こういうことは早い内に言ったほうがいいと思うけどなあ」

「正直に話して僕に死ねと? 鬼畜か!」

「いや、まあ。うん。その時は俺も一応フォローしてやるからさ。死なない程度にボコるように、とか。多分無駄だけど」


 別にアーデルが死んだところで俺の心は全く痛まないのだが、一応、知り合いの命を見殺しにするのは寝覚めが悪い。

 安眠は大切だからな。

 多分無駄だけど。


「頼りになりそうで、全然頼りにならない……」

「もとはお前の撒いた種だ。責任は自分で取るんだな」

「そ、そんなぁ……」


 泣きそうな顔のアーデルだが、こればっかりはどうしようもない。

 人の気持ちはそう簡単には変えられない。

 それが深い決意であればなおのこと。


「アーデル。そろそろ無駄話はやめて支度しろよ」

「無駄って……本当に容赦ないね、君」


 とぼとぼと歩み去るアーデルを尻目に、俺も自分の分の支度を始める。

 人の気持ちはそう簡単には変えられない。

 

だとするならば……俺はどうするべきなんだろうな。

 知ってしまった事実と、自分の目的。

 今回の旅には多くの目的がある。


 復讐を遂げること。

 仲間を取り戻すこと。

 友人を助け出すこと。


 だが、今の俺にはその優先順位がすでによく分からなくなってしまっていた。

 人の身で出来ることには限りがある。何かを得るためには何かを捨てなければいけない。

 どれか一つしか手に入らないのだとすれば……俺は一体、何を選ぶべきなのだろう。

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