六冊目 なつかしいカード
隆平がそのカードを取り出した時、京介との間にあった穏やかな空気が一気に変化をした。
今の本屋は、いつの間にかほかの常連客も帰っていて、店内にあるのは余裕の笑みを浮かべる隆平に対して、深刻そうな表情を浮かべる京介、状況が呑み込めない京香というような構図だ。
「どこで見つけた?」
「町はずれの広場だ。ここに来る途中で落ちているのを見つけて拾ってきた」
そう言って、隆平はカードを京介に渡す。
そのカードは黄色で真ん中に赤色で“23”と書かれていた。
「23か……いったいこれはいくつあるんだ?」
「さぁな。相変わらずさっぱりだ……どちらにしてもこれを前に見たのは2年ぐらい前だったか?」
「そうだな……あの人が居なくなった次の日だからよく覚えているよ」
このカードを最初に見つけたのは京介が異世界へ来たばかりのころ、確か京介は本屋に隆平はギルドに泊まり込みと、ある程度こちらの世界で生きられるよう基礎を造っている最中の時期だったはずだ。
ある日、隆平が気になるものを拾ったといって持ってきたのがきっかけであった。
前店主も見たことがないカードで子供が適当に書いたにしてはしっかりしすぎたものだったため、前店主が強い興味を示して、三人で町中を探し回った。
1年も探していると、誰かが不定期に……それも1から順番にカードを町にばらまいているのではないかという結論に達した。
カードが置かれていた場所というのは様々で民家を訪ねたら数日前に突然、家の庭に置いてあったといって渡してくれたこともあったし、港の倉庫やごみ集積場など場所は多岐にわたった。
それが最後に見つかったのは、前店主が手紙を残して消えた次の日。場所は本屋の前だった。
「京介。このカードの意味をもう一度追求してみないか? あの時と今とでは状況が違う。もしかしたら、新しいことがわかるかもしれない」
「新しいことね……」
このカードと前店主に何の関係があるのかわからない。
しかし、重要な意味を持っている気がした。
「そうだな……調べてみようか」
「あの……そのカードは?」
ここにきて、ようやく京香が話に割って入ってきた。
おそらく、二人の間の雰囲気が穏やかになったのを感じ取ったのだろう。
「あぁこれか。まぁ簡単に言えば町に時々落ちている奇妙なカードってところだ。よかったら、京香も一緒にこれのこと調べてみるか?」
「いいんですか?」
「まぁな。人出は多い方が助かる」
すると、京香の顔がパッと明るくなる。
「はい! それじゃ、私も参加させていただきます!」
「そうか。よろしくな」
そんな彼女に隆平が手を差し伸べて、京香がその手を取った。
「よし! そうと決まったら、今日の閉店後から互いに頑張ろうか」
京介のそんな言葉に合わせてオーと三人が声を合わせた。
*
京香は本の整理などを手伝いながら、先ほどのカードのことを思い出していた。
理由はよくわからないが、どこかであれを見たことがある気がしたのだ。
当然ながら、記憶喪失を起こして昨日からの記憶しかない京香に見覚えがあるはずないのにだ。
だからこそ、あれは自分のなくした記憶に何か関係があるのではないかと思えた。
“だからこそ”カードさがしに参加するとした意味合いが強かった。
「京香! その本をこっちに持ってきてくれないか?」
「はーい!」
そう言って、本を引き抜いた京香の足元に一枚のカードがひらりと落ちた。