表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で本屋をやっています  作者: 白波
第一章 路地裏の少女
2/10

一冊目 京介は少女と出会った

 ザーという音を立てて激しい雨が地面をたたきつけていた。


 トリトマ半島のほぼ全域を領土とするトリトマ王国第二の都市ポートタウンは突然の雨に見舞われていた。そのため、街にはカバンなどを頭にのせて家路につく人や店の軒先で雨宿りをする人の姿がみられた。


 この町に住む青年、綾間(あやま)京介(きょうすけ)もまた、突然の雨に見舞われた一人である。

 彼は、この世界の中でいえばいわゆる異世界人という部類に入る。そのため、黒い髪に黒い瞳という日本ではごく普通の容姿がこの世界の住民からいえば少々珍しく見えるらしい。


 元々日本でどこにでもいるような普通の少年であった彼は、気づいたら見知らぬ街の中にいた。

 この世界に来た時に目覚めた“物語”に直接介入する能力を持つ彼は、生活の糧を得るために“物語”が非常に重要な意味を持つ世界において本屋を営んでいた。


 物語に介入すると一言で済ませているが、それは絶大な力を持っているといわざるを得ない。

 一番、恐ろしい点として本の種類を問わないということだ。童話から小説、果ては歴史書まですべての本に書いてあるすべての物語に介入できるのだ。


 だが、彼のその行いもまた無数に存在する人生という物語の一つなのである……


 そう、たとえば雨に打たれ家路を急ぐ彼がいつもは通らない道で膝を抱えて雨に打たれている少女を見つけるのもまた、人生という題名(タイトル)の長い長い彼の人生(おはなし)の通過点に過ぎないのかもしれない。




 *




 京介が少女を見つけてから数分後、家に帰った京介は少女を自身のベッドにおろした。


「あぁ重かった……」


 少女の目が覚めていたら間違いなく失礼にあたるだろう一言を吐いて、京介はソファーに腰掛けた。


 最初、話しかけたときにビクッとおびえたような表情を浮かべた彼女は直後に何やら安堵の表情を浮かべてその場に崩れ落ちるように倒れこんでしまったのだ。

 見知らぬ少女とはいえ雨が降りしきる中、気絶しているのを放置しておくわけにはいかないと家まで抱えてきた次第だ。


 もっとも、この状況で目覚められたときになんて言われるかわからないが……


 とりあえず、何枚かタオルを持ってきて彼女の体を包み込むように巻いた。


 できれば、着替えさせたかったが残念ながらこの家には京介しか住んでおらず、仮に着替えさせている間に目覚められたりしたらあらぬ誤解を受ける危険性がある。

 ここでよくあるラノベの主人公とかだと、別にやましい気持ちはない。ただの好意だとか自身に言い聞かせながら着替えさせて、女の子にぶっ飛ばされるなんて展開を期待されるのだろう。


 しかし、ちょっとした事故で“異世界トリップしたところで”誰もある日突然、どこぞの主人公のようになれるわけではないのだ。

 もう一つ、異世界トリップして、元の世界に戻ろうなんて考えるのは物語上よくあることなのだが、彼に関して言えば、“元の世界に戻ろうという気などさらさらない”のだ。むしろ、この世界に居続けたいとすら願っている。


 そんな彼は今、読書に没頭していた。

 もちろん、言語は日本語ではなくトリトマ語と呼ばれるトリトマ王国の公用語なのだが、偶然にも英語と似ているということが助かり、今となっては難なくトリトマ語で書かれた文章を読むことができるのだ。まぁそれ以前も本の内容を理解するだけだけならば、能力を上手く応用すれば苦労することはなかったのだが……


 雨の勢いは先ほどより増しているのだろうか? 窓の外から聞こえる雨音はより大きくなる。


「……こんな日には読書に限るね」


 京介は、窓の外に目をやりポツリとつぶやいた。

 読んでいただきありがとうございます。


 これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ