プロローグ
街の一角にある広場。
今日は、新月だからか普段にまして夜の闇は深かった。
そのことも助かり、いつも以上に街に人影はなく灯りも少ないように感じた。
そんな中、街のはずれにある小さな広場に二人の人影があった。
一人は背が高いということ以外は全身をローブに包みその素顔はおろか、性別すらうかがい知ることはできない。
もう一方は、対照的に背が低い幼さの残る少女だ。
二人とも、ピタリと固まったかのようにその場から動かなかった。
「……仕掛けてこないの?」
しびれを切らしたのか、先に口を開いたのは少女の方であった。
「レディーファーストという言葉がある」
いやでもローブの人物は先手を譲っていると理解する。
だが、これは先ほどから何度か繰り返してきたやり取りだ。
「そんな簡単に引っ掛かるとでも?」
少女の頬を一筋の汗が流れる。
「こちらとしては純粋な気持ちで言っているんだが?」
あえて、ここで二人が対峙している理由は語らないとしよう。
しかし、どんな理由であれ始まった勝負はいつか、動き決着がつくものである。
「たぁ!」
耐えきれなくなり先に動いたのは少女である。
彼女が右手を前に突き出すと、空間が裂けてそこから無数のナイフが飛び出した。
ローブは無言でそれを軽々とよける。
「その程度か」
その瞬間、ボンっという破裂音とともに広場の周りが炎で包まれた。
「この程度の張ったり!」
少女は口でこそ強気なことを言っているが、内心は穏やかではない。
直接触れていなくともヂリヂリとその熱を感じることから、本物の炎だということは間違いない。
しかし、ここで弱音を吐いてしまっては負けを認めたも当然だ。
「はったりではないと思うが……まぁお前の感覚がそう告げるのならそうなのだろう」
「どちらにしても、炎を消せばいいでしょ!」
少女の周りに無数の裂け目が出現し、そこから一気に水があふれ出す。
それらは炎に直撃し、徐々に火の勢いは……収まることを知らなかった。
「えっウソ!」
「……炎は水で消える。普通ならばね……」
でも、と男は続ける。
「それが水をかければ余計に燃えるような火だったらどうだろうね?」
炎は数回の破裂音とともにその炎症範囲を広げて行った。
「はぁ街で一番の名手が聞いてあきれるよ……君の実力がそのまんま街の実力ということはここは、ただの雑魚どもの集まりと言わざるを得ない」
ローブが二三言何かをつぶやくと広場の地面全体に巨大な魔法陣が出現した。
「まぁこの時点でこちらの勝ちとみなして問題ないだろう」
「ちょっと、決まったわけじゃないでしょう!」
「黒こげになりたいのなら続けるか?」
少女は言葉に詰まってしまった。
この燃え盛る炎の中、周りの住民が戦闘に気づ付けないようということと少女の逃走を防ぐという二つの目的で張られた結界の中にいるという行為は蒸し焼きにされているのも同然だ。
「どうした?」
こういったことを見越して何かを仕込んでいたのか、ローブはかなり余裕綽々と言った雰囲気で悠然と構えていた。
「……まぁ答えを求めても仕方ないか。約束通り、“君の物語をすべていただくよ”」
「いや……やめて……」
いつの間にか炎は消え、ローブから延びた手が少女に迫る。
少女は逃げようとするが、脚がもつれてしりもちをついてしまった。その体勢のまま、少し後ろに下がるが、すぐに背後に張られた結界がそれを阻止する。それでも、彼女は脚は後ろへ下がろうと動きつづける。
「どうしてっ!?」
今の彼女にそれが結界によるものだと思い出すほどの余裕はなかった。
「おいおい。ちゃんとルールに同意したうえで勝負にのったんだろう?」
容赦などみじんもなく伸びてきたその手が少女の頭に触れた途端、彼女の目は光を失いその場に倒れこんだ。
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