恨みのさらし首
今となっては昔のことだが、備前の国に牧田豊助という男がいた。
牧田は傲慢な侍で、町人に恐れていたそうだ。
ある日、牧田が家に帰ると明らかに妻の様子がおかしい。
問いただすと、昼間に知らない男が押し掛けて金を奪われた上辱めを受けたと言う。
牧田は怒り、犯人を探し始めた。
そして、一週間ほどで犯人は三人に絞られた。
一人目は米屋の息子、勘兵衛。性格は陰湿で、過去に強姦したことがある。
二人目は町の高利貸し、徳助。嫉妬心が強く、上に弱く下に強い。
三人目は商人の三太。真面目で面倒見も良く、最近商売も軌道に乗ってきている。
三人とも件の日の昼間に外出しており、臨時収入があった。
三太の性格や普段の行いから考えると除外してもおかしくはないのだが、牧田は三太が犯人だと決めつけた。
後になってわかったことだが、この事件は牧田と徳助と勘兵衛がグルになってやったことらしい。
牧田は奪われた金を取り戻すという名目で三太の財産を奪うため、徳助と勘兵衛は単純に三太の商売の好調振りに嫉妬していたためだった。
ただ、牧田にとって勘兵衛が自分の妻を辱めたことは計算外だったが。
こうして三太は無実の罪で処刑されることになった。しかし処刑されるのは三太一人ではなかった。
なんと三太の家族まで処刑されることになったのだ。
まず三太の長女が殺された。次に三太の長男の首が切られた。その場で泣き崩れる三太の妻、そして血が出るほど唇を噛み締める三太。
泣き崩れた三太の妻の首も飛んだ。ついに三太の番がやってきた。三太の怒りの形相は凄まじく、普段の温厚さは全く見れなかった。
三太の首は体と別れた後もずっと怒りの形相をしていた。三太一家の首は見せしめのため、さらし首にされた。
一年ほど過ぎ、牧田の家に子供が産まれた。
牧田にとって初めての子供で、さらに男子だったのでたいそう可愛がった。
しかし子供が育つにつれてなんとなく勘兵衛に似てきた。牧田はもしやあの時に出来たのか、と一年前の事件を思い出した。
そう考えるとだんだん可愛くなくなってくる。
ある日牧田は子を連れて山へ行った。そして、牧田はその子を崖から突き落として殺した。
他人の子を可愛がっていたことと、一年前抑えていた勘兵衛への怒りが牧田を犯行へと導いたのだ。
牧田は家に帰ると泣きながら妻に子供が事故で死んだことを伝えた。
二人は一緒に泣き、次の日には葬式が行われた。
一週間後子供の亡骸の捜索に出たが、代わりに勘兵衛の変死体が見つかった。
牧田が子供を突き落とした位置にその死体はあった。
ちなみに子供の死体は全く見つからなかったらしい。
さらに二年ほどたち牧田の家に再び子供が産まれた。
二年前のこともあったが、再び男子が産まれ牧田は喜んだ。
牧田はその子を可愛がった、だが今度はだんだん徳助に似てきたのだ。
徳助の顔は醜く、牧田はその顔が嫌いだった。
醜い子を育てるのが嫌になった牧田は、今度は子供を川に突き落として溺死させた。
牧田は家に帰ると妻にまた子供が事故で死んだと伝えた。
妻は泣いたが、牧田は泣く演技すらしなかった。
三日後、町の近くの河原で徳助の水死体が発見された。
ちなみに子供の死体は見つからなかったらしい。
それからさらに三年がたった。牧田の家に子供が産まれた。
さすがに三年前と五年前のこともあり、男子でも牧田は最初のうちは全く可愛がらなかった。
しかし、今度はだんだんと自分に似てきたではないか。牧田は子が五歳になるときにはすでに溺愛していた。
ある日、子はついてきてと牧田の手を引っ張って町の外の方へと連れて行った。
牧田は新しい遊びでもするものだろうと考えていたが、予想外のところに連れてかれた。
牧田の目には四つのしゃれこうべが見えた。そう、三太一家のさらし首がある場所だ。
「父上、ここには誰が死んでいるの?」
「ここは罪人しかいない、早く町に戻るぞ!」
牧田は何となく嫌な予感がした。
「へえー、じゃあここには父上のような人しかいないのですね?」
牧田は子が急に大人びたしゃべり方をして驚いた。
「な、何を言っているんだ?」
「父上、昔こんな顔を見た記憶はありませんか?」
子が振り向くと、そこには三太の怒りの形相があった。
「ひ、ひぃー!!」
牧田は悲鳴を上げながらも、腰にあるものを抜いて子の首を刈り取った。
「また首を切ったな、牧田!」
子の顔は体から離れたにもかかわらず怒りの形相をさらに激しくし、子の体は首が取れているにもかかわらず牧田の方へ真っ直ぐと向かっていった。
そして、子の体は牧田から刀を奪うと牧田の首に向けて
一気に振り下ろした。
牧田の首は奇麗に弧を描き、四つのしゃれこうべが並んである台に乗った。
子の顔も、すっかり怒りの形相はなくなり、牧田の首の横に奇麗に着地した。
数日後二人の奇妙な死体は発見されたが、どうやって死んだのかは特定されなかった。
お し ま い
拙い文章で読みづらかったかもしれませんが、最後まで読んでいただきありがとうございました。