とある少女の
下校中、歩道橋の階段を上ろうとした瞬間、上から人がふってきた
そして暗転。
喧騒で目が覚めた。
おきあがった視線の先でキラキラしい髪の男と少女…階段からふってきた子だ…が揉めていた。
部屋にはローブをきた怪しい集団とかっちりとした軍服で腰に剣を下げた数人の男たち。
「だから!私神子なんかじゃないです!あっちの子なんじゃないですか?私を戻して!」
「しかし神子は黒髪黒目と決まっている、あちらの女は違う。そなたが神子だ。」
私は自分の容姿に心底感謝した。少女は黒髪黒目。私は茶髪に灰色の瞳だ。
少女が丸め込まれはじめたのを横目にローブの集団に問う。なぜここに連れてこられたのか、神子じゃないなら私を帰してもらえないか。
答えは否。
ならばと市民権と、支度金を要求する。
手違いでつれてこられたのだからそれくらい要求する権利はあるはずだ。
少女と男は話に夢中で気づかない。
召還ミスを口外しないため誓いをたてることを条件に私の願いが聞き入れられた。
誓いはその内容を誰かに話せば、命を落とすものだ。そういう魔法をかけられた。
私は望み通り市民権と多目の支度金を頂いて城の裏門から出された。
そのまま街中を進み、一番大きい質屋を探して身につけていた安物のブレスレットとネックレスを売る。
魔法という異文化のある国だけど元の世界とここじゃ文明の差がある。
人工ダイヤも繊細な作りの装飾品もここにはない。
異国の品だといえば総額三千円のアクセサリーが案の定馬鹿高い値段で売れた
城で貰った割りと上物の服のおかげであやしまれることもなかった。
そのまま服屋にいき、庶民の服を買う。着ていた服は売り、それもそれなりの値段で売れた。
武器屋にいき小刀を買う。
お金を荷物のなかに隠し髪形もかえて、乗り合い馬車に乗る。
そのまま一ヶ月ほどかけて国境へいき国をでた。
隣国の王都について部屋を借りる。
隣国でもあの国に魔王を倒す神子が現れたと噂になっていた。
数日後、働き口をみつけ私の暮らしは安定した。
働きはじめて数日後、新しい噂が知人からもたらされる。
神子が偽者だったらしい。
黒髪黒目ではあったが、一切力のない普通の人間だったと、
そしてあの国で人を探しているらしい。
茶髪で灰色の目の少女を。
私は大変ですね、と笑った
家に帰って鏡をみる。うつるのは灰色の髪に黒い瞳の自分。
この世界に黒髪黒目両方をもって産まれてくる人はいない。黒髪だけとか黒目だけの人はいるけれど、
私は一年前、50年前のあの国に召還された。神子として、拒否し拒絶し脱走しさまざまな手をつかったけれど結局魔王討伐に駆り出された。
本来神子はその国にとどまるだけで国を魔族から守ることができる。他国はそうしている。魔王も人間を支配しようなんて考えてはいないし暴れまわっているのは一部の魔族だ
人間と魔族では力の差がありすぎる。そのため各国では守りを敷く
けれどあの国は魔王の領地を欲しがった。
神子に魔法の力は効かない。その血は魔族には毒で、いくら攻撃しようとも、死なない魔王によく効くのだ。
そして私は傷をつけられながら血を流させられながら、魔族が倒れるのをみながら魔王のもとまでつれていかれた、その身を魔王共々貫かれ、
結果として魔王は死ななかった。只眠りについた。魔族は代理王をたて、報復活動もしなかった。神子をうしなったあの国は、魔王の領地にそれ以上攻めこまなかった。
魔王は眠りについて、私の境遇をしり、私を元の世界へ帰してくれた。
元の世界に帰ってきて私は忌々しい髪を茶色に染めた。目にカラコンをいれて、耳にピアスをあけて、戻ってきたときに手のなかにあった、あの魔王の瞳とと同色の深い蒼色のピアスをつけた。
魔王が目覚めて、それまでおとなしかった魔族たちはあの国を攻撃しはじめたらしい
魔族は報復しなかったのではなく、魔王の目覚めをまっていたのだ。
あの部屋で話を聞きそれを悟った私は
もちろん自分が神子であることなど明かさず、大恩ある魔王の邪魔にならないように、なるべく早く国を出たのだ。
コンタクトレンズはいつまでも使えないので、染め粉で髪色をかえて、市民権をほしいといったのは、その国にとどまっているとみせかけたかったから。
そして新たな噂から数日後あの国が魔王によって落とされたと聞いた。国はそのまま魔王の領地となったらしい。
さらに数日後、目の前に一人の男性が現れた。
私の耳に光るピアスと同じ色の瞳のそのひとの言葉を聞いて私は駆けよって、やっと感じられた温かさに微笑みながら同じ言葉を囁いた。