所有権の在り処
私が紙を差し出すと、高橋女史はにこやかに紙を受け取る、かと思いきや私の手を握り返してきた。紙を持った人間の手を握るとか器用か。
「……スタンプをください」
「じゃあ、アナタのお母さんをください」
冗談を言うタイプじゃなさそうだけど、顔は笑っている。目は死んでるけど。
「冗談は良いので早くください」
「本気なんだけどなあ」
先生は苦笑しながら私から受け取った紙にスタンプを押す。
「あと、ソレは私の所有物じゃないんで許可は持ち主にとってください」
その人のものになるのなら、別に許可はいらないと思いますよ、とはとても言えなかった。これ以上家族が増えるのは面倒だし。
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スタンプラリー2カ所目 図書室
「なんつーか、俺みたいなやつが近づきにくい空気というか」
「あはは、実は私も」
居心地悪そうに首をすくめる環をと音ちゃん。二人はどうやら図書室が苦手らしい。しかし、環は私としょっちゅう図書館に出入りしていた気がするんだけど。
「私は……好きよ、図書室。告ってくるバカを合法的に黙らせることができるから」
必殺『ここは図書室ですので話しかけないでください』の発動条件に必要だし。
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「ここのスタンプは」
あたりを見渡してみると、スタンプ台とスタンプ、そして『勝手に押したら死ぬ』の張り紙がまがまがしい装飾とともに置かれていた。
「これでよし、と」
スタンプ、ポンっと。
「おれ、昔からお前の思いきりの良さは尊敬を通り越して恐怖を覚えてるよ」
あの家族と暮らしていればこの程度で動じてられないって。大体、ヤバイ呪いでもかかってたらそこの母が勝手にディスペルしそうだし。
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「次いくわよ」
図書室の扉に手をかける。ふと、扉の採光用の窓を見ると人影がみえた。
「こう言うのって、なにもないと思って開けると出口でびっくりさせられるパターンだよね」
私の背後で環と音ちゃんが話し始める。というか、それ公開処刑だから。
「野々村、俺は金ダライだと思うぞ」
扉の向こうの人影が固まった。完全に殺しに行くあたりがやっぱり血を感じさせる。
「どうするのよ、この扉開けるのにすごく罪悪感わいてきたじゃない」
しかし、この状況を作り出したことは許されざるよ?
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「環、ゴー」
「俺が?まあいいけど、何もないよな?」
僅かな逡巡の隙に環がおもむろに扉を開ける。そして閉める。
「いちおー、聞くけど…。何があった?」
「クラッカーもった白衣の女の人が金ダライかぶって服を脱ごうとしてた」
「アンタの脳味噌の存在の有無を疑う光景ね」
というか、その女の人を追い詰めたのはあんただからね。
ちなみに私は学生時代に図書館で女子高生をナンパして警察に電話されたことがあります。